9.TRUTH
そうか!金魚だ!あの子は金魚なんだ。金魚の七海が私に夢を見せている!!
ある日、ぼんやりと金魚を見ていた景子は、突然ひらめいた。
七海はこの金魚になったのだと。
弱っていることに気づいて1週間。
塩水につけた後、少しは元気になったが、
それでも、まだ動きが鈍い。
弱っているから、夢に出てこれないんだね。
そんなことを景子は自然と考え、納得していた。
なぜだか、すっきりとした気さえする。
そうか。私のせいではなかったんだ。
七海の夢を見ないのは、この金魚が弱ってるからだ。
でも、どうして七海は私にあんな夢を見せるのだろう?
どうせなら、もっとハッピーエンドな夢を見たい。
七海もそうでしょ?
だったら、なぜ?
必死に答えを考えていると、耳に電話の音が聞こえてきた。
「もしもし」
「あ、僕。今日帰りが遅くなるから、先にご飯食べてて。」
「わかりました」
「今日、祥子ちゃんが来る日でもないのに、ごめんな。どうしても片付けたい仕事があって。何かあったら、すぐに連絡して。会社の方でも、携帯でもいいから。」
「はいはい。じゃあね。」
雅志からだった。
雅志が夜遅くに帰宅するなんて珍しいから、
一人で夕飯を食べるのも、なんだか慣れない。
味気ないものだな、一人で食べるのって。
お昼も一人で食べたくせに、そんなことを考えてしまう。
・・・・・帰ってくるのを待っていようと思ったが、
雅志はなかなか帰ってこない。
自然と金魚の方へ目がいく。
七海はどうしたいのかな?
七海は意思をはっきりと伝えられる子だった。
金魚のことも。金魚、飼いたいって、七海が言い出したのよね。
ああ、七海。
あなたを愛してる。ママはいつも変わらず、あなたのことを思ってる。
時計が規則正しく、時を刻んでいく。
元気のない金魚を見て、私ははっとした。
そうだ。七海が私のところへ来られないのなら。
私が七海に近づく努力をすればいいのだと。
金魚鉢を抱きしめるようにして抱える。
思ったより重くて、ちょっとよろけてしまう。
二階へ行こうね、七海。
今日は一緒に寝よう。
金魚鉢を二階の寝室のサイドテーブルへと移動させる。
ガタン
「ただいま」
雅志が帰ってきた。
「おかえり」
私の声が二階からしたのが分かったのか、まっすぐ二階へ上がってくる。
「あぁ〜、疲れた。」
ネクタイを緩めながら近づいてきた雅志は、すぐに金魚鉢に気づく。
「なんだ。二階へあげたのか。」
「ええ。寝る前に見たら落ち着く気がして。」
「そうか。」
「ご飯、食べるでしょ。」
「うん。」
「じゃあ、温めてあげる。」
「じゃあ、先に風呂入ってくる。」
息ぴったりの会話に、私たちは微笑んだ。
この夜が私たちの最後だなんて、誰が思うだろう?
私たちさえ、気づかなかったのに。
新たな始まりさえ感じさせるあの夜に、
私は終焉への架け橋の淵に一人、立っていた。
ここまで、拙い文章を読んでくださってありがとうございます。お話はもう少し続きます。感想やダメ出しなど頂けると、大変嬉しいです。