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プロローグ
ある町の片隅に、博物館がありました。
その博物館には、誰でも入れるという訳ではありません。
なにしろ、その町は、誰にでも行けるというような場所にはありませんでしたから。
町が人を選ぶ、とでもいうのでしょうか。
遠くて近い、そんな場所にありました。
博物館は、昔々、大富豪がこの町にやって来た時に建てたものでしたが、
彼は、自分のコレクションを理解しない、町の人々に対して苛立ち、
(彼のコレクションは、他の人々にはガラクタにしか見えなかったのです。)
ついには、博物館を閉鎖して、自分専用の博物館にしてしまいました。
それ以来、博物館は何人かの手に渡り、
その度に、新しいコレクションが増え、
展示の内容も豊かになりました
しかし、その博物館は二度と開放されることはありませんでした。
今、その博物館は、一人の少年の持ち物として、
ひっそりと街角に建っています。
「博物館の少年」と皆に呼ばれている彼は、めったに外へは出ません。
博物館の中で、ひっそりと暮らしているのです。
そんな彼が毎朝すること。
水槽の水を換えてやること。
先代から譲り受けた、展示物のために。