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Rion  作者: 鷹濱伝機
3/6

『スケベ鬼』

 次の日、職員室で水森は、隣の席の2年B組の担任島村先生に話しかけた。

「あの、島村先生」

「なんですか、水森先生」

「先生が担任なさっている2年B組に、倉持リオンっていう生徒がいますよね。どんな子ですか?」

「倉持さん、」

「プッ!」

 島村はおもわず吹いてしまい、手で口を押さえた。

「ぷ?」

「フフ、楽しい女の子なんです。クラスのアイドル的存在ですね」

「倉持さんって、男の子っぽいでしょ。人気は宝塚のスター並みですよ」

 水森は島村の言うことに、うんうんと納得した。

「あいつ、自分が女だって感覚がなさそうだもんな」

「この前も、倉持さんにラブレターを出そうか出すまいか、迷っている女の子から相談を受けましたよ」

「それってアブナイ世界ですね」

「ウチみたいな女子高は、異性への欲求のはけぐちがありませんから、倉持さんのような生徒がいてくれて助かりますよ」

 水森は小声でぼやいていた

「その欲求を、俺に向けてくれればいいのに」

「ウチのクラスは、彼女のおかげでまとまりがあって、担任としては、ありがたい存在ですね」

「先生、倉持さんをご存知なんですか?」

「今度、私が顧問をする、ボクシング部に入部したんですよ」

「倉持さんがボクシング!それじゃ今頃、大変なことになってるわ」

「大変なこと?」


 2年B組ではリオンの周りにみんなが集まっていた。リオンのボクシング部入りで盛り上がっていた。

「へー。リオンがボクシングをやるの!」

「入場する時はラメ入りのショートガウンがいいな。背中に竜の刺繍したヤツ!」

「プロレスじゃないよ」

「リングネームはもう決めたの?」

「『ビューティーリオン』とかどう?」

「美容院みたいだね」

「『セクシーダイナマイトリオン』がいいよ」

「私のバスト、ダイナマイトというよりも線香花火だよ」

「ねえ、ファンクラブをつくろうよ」

「私、他のクラスにも呼びかけるよ」

「みんなでお揃いのコスチュームつくろうか」

「ね、グッズつくろうよ。リオングッズ」

「君たちね、コンサートじゃないんだから。ほどほどにね」

 水森と島村は、廊下から窓越しに教室の中を覗いていた。

「たしかに、大変なことになりそうですね」

「でしょ」


   〔その日の放課後・学校の駐車場〕

 水森は自分の車にリオンを乗せて、金子ジムに向かおうとしていた。

「それでは、今日から練習を始める。覚悟はいいな!」

「はい」

「これから金子ジムに行くので車に乗りなさい」

 リオンの友達が遠めから二人の様子を見て、声を掛けてきた。

「リオン、がんばってねー!」

「はーい!」

「水森先生に変な事されたらキャーって叫ぶんだよ!」

「水森先生はドスケベだって噂だから、気をつけてね!」

 水森はリオンのほうを振り向いた。

「スケベの前にドがついたぞ、ドが!」

「ハハハ!」

「わらうな!」

「お前じゃないのか、噂の根源は!」

「コメントのしようがありませんね」

「やっぱり、お前なんだな!」

「さあー」


  〔金子ジム〕

 制服姿のままジムにやってきたリオンは、およそボクシングジムに似つかわしくなく、ジムの皆がリオンの方をチラチラ見ている。水森とリオンは金子会長に挨拶していた。会長はニコニコ笑顔で二人を迎えた。

「今日からお世話になります。神聖学園の水森です」

「そして、この生徒が倉持リオンです」

「倉持リオンです。よろしくお願いします」

 会長はマジマジとリオンを眺めている。

「ほー。この子がボクシングをやるのかね」

「なるべく、邪魔にならないようにやりますから」

「遠慮しないで、好きなように使っていいからね」

 突然、会長はリオンに右ジャブをだした。リオンはサッとかわした。

 突然の攻撃にびっくりはしたものの、体は自然に反応していた。

「なにするんですか?」

 リオンは会長に返答を求めた。

「いやいや。ちょっと試しに」

 今度は左ジャブをだした。リオンはこれもかわした。

「いい加減にしないと怒りますよ!」

 さすがにリオンもプチきれた。

「はっはっは。ごめん、ごめん」

「この子なかなか面白いかもね」

 水森は会長の意図を確認した。

「面白いとは?」

「欧米では、女子のプロボクシングが盛んになってるからね。ウチも女子選手を育ててみたいと思っているんだよ」

 リングの上でスパーリングをしていた若いボクサーが、こちらに向かって話し出した。

「俺は女にボクシングをさせるのは反対ですよ」

 会長はその男の方を向いて、その男の名前を発した。

「西岡」

 その男は二十歳位で、眼光は鋭いが、端正な顔立ちであった。男は続けざまににしゃべりだした。

「だいたい、ジムの中を女にウロチョロされるのは目障りですよ」

 リオンは少し、ムッとした。そのとき、リングの下にいた、別の若い選手が話しかけてきた。

「俺は別にいいと思うけど」

 その男は短髪で、西岡という男とは対照的な、柔和な顔立ちの男である。リオン達のそばに寄ってきて話し始めた。

「肝心なのは、ボクシングに対する姿勢だろ。」

「一途にボクシングに打ち込んでいる選手に、男も女もないよ。」

 西岡はリオン達から目線をそらして、スパーリングを始めた。

 柔和な顔の男が自己紹介を始めた。

「俺、東野錠一。よろしくね」

 リオンも挨拶を返した。

「こちらこそ、よろしくです」

 水森がリオンの背中をポンと叩いた。

「よし、始めるぞ、まずは、ランニングだ」

「はい!」

 リオンのその声は、ジムに響いた。

 西岡は振り向き、会長と東野は笑っていた。


 リオンはランニングから帰って、縄跳び、腹筋を終えた。

「結構できるな。」

 水森は驚いた、リオンの体力は期待以上であった。

「でしょう!」

 リオンは自慢気に、胸を張って見せた

「それじゃ、明日から50回ずつ増やすか」

「げ、鬼!」

「なんとでもおっしゃい」

「スケベ鬼」

「明日から100回ずつ増やすぞ」

「なんとでも言えって言ったじゃないか!」

 東野は笑っていた。西岡は横目で見ていた。

 リオンはリングの上でグローブをはめてスパーリングをしている選手をみていた。

「ねえ、グローブつけて練習しないの?」

「まだ早いよ。今は基礎体力をつけないとな」

「次はベンチプレスだ!」

「げっ!」


   〔その夜、ラーメン屋『昇竜』の店の前〕

 ジムでの練習を終えたリオンを、水森は車で家まで送ってきた。

「おい、着いたぞ」

 リオンは居眠りをしていた。その寝顔を見て、入部させてしまったことがよかったのか自問していた。

 水森はリオンの肩をポンと叩いた。

「あ…ついた?」

「ああ」

 リオンは今の今まで居眠りしてたのが噓のように、元気よく車から降りた。

「先生、おつかれさま」

「これから、お店の手伝いか?」

「そのつもりだけど?」

「リオン…」

「なに?先生」

「無理しなくていいからな。やめたいと思ったら、いつでも言ってくれ」

「やっぱり先生は、ボクサーに向いてないね」

「え?」

「人がよすぎるよ」

「私は自分でやろうと決めたのだから…」

「私があきるまでは、やらせてください」

 リオンは頭をペコリと下げた。

「わかった」

「じゃあ、また明日な」

 水森の車は走り去っていった。

「とは、言ったものの、少々疲れたな」

 リオンは手で肩をたたいた。



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