とんでもおばけは人見知り
我が家には、決して覗いてはならぬと言われる風呂場の鏡がある。
風呂場の鏡の時点で覗かないという選択肢は真っ向から微粉砕されて終わりだ。
どうやって頭を洗えばよいというのだ。
つくづく疑問に思っていた。
幽霊が現れた。僕の目の前に。
幽霊と言うか亡霊と言うか悪霊と言うかお化けと言うか。
お化けでいいだろう。なかなかまるっこくて可愛い容姿なのでその表現が一番似合うと言える。
「キミの頭の中はスッカスカだなあ……」
可愛らしい見た目のお化けがなんとも癇に障る発言をしてきた。
喋れるんだな。
「余計なお世話だ」
僕はそう言い返す。少々向こうの第一言にカチンときたが、それ以上に初めての幽霊がなかなか面白くて感激している。
「キミに乗っ取って面白い世界にしてあげることもできるんだよぉ……?」
にたりと気持ち悪い笑みをこちらに浮かべつつも僕は疑問に思う。
僕に乗っ取る?一体その言葉がどんな答えを表しているのかは全く分からない。
「今の世界は十分なほどに充実している。誰かもわからないあんたに勝手に乗っ取られるわけにはいかない」
なぜなのかとりあえず今はこの状況を切り抜けたかったので、その方法を模索する。
「あ~……そう…」
お化けがそうつぶやいたときには僕は浴室をものすごい勢いで飛び出していた。
あの一瞬。僕が何を見たのか。何を聞いたのか。何を感じたのかは僕ですらわからない。
ただ僕は、己の五感の赴くままに。