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不幸中の幸い

異世界というキーワードの出現に、ついつい過剰反応してしまった。

コビーさん達も、どうかしたのかという目でこちらを見ている。


異端者扱いされることを恐れて、異世界から来たということは伏せていたが、これまでの対応を見る限り、異世界から来たと言ってもいきなり迫害されたりはしないだろう。

コビーさんはかなり情報通のようだし、もしかしたら力になってくれるかもしれない。

何より、これまで感じた二人の優しさを信じてみたいと思った。


他に頼れる人のいない現状で、ためらっている場合ではない。

この二人を信じてみよう。

改めて、覚悟を決める。


「こんなこと言うと、頭がおかしいと思われるかもしれないんですが…」


ビクビクしながらも、話を切り出してみる。


「私、もしかしたら異世界から来たのかもしれません。

私、昨日までは地球の日本っていう国にいたんですが、そんな国はこの世界にはないですよね?

魔法も、モンスターも物語の中でしか存在しなかったし、ステータスだって、見たこともなくて。

ここが今までと同じ世界だなんて、思えないんです。」


これには、さすがのコビーさんも面食らったようだった。

少し考えてから、口を開いた。


「にわかには信じられんが…おとぎ話と思われていた時空の裂け目が実在する以上、異世界も絶対ないとは言い切れんな。

俺も若いころは色々旅をしたもんだが、嬢ちゃんのような恰好は見たことがないし、何よりステータスを見たことがないなんて人間は聞いたことがない。

嬢ちゃんが嘘をついているようにも見えんしな。」


頭ごなしに否定されなかったのはありがたかった。

慎重に言葉を選んで話してくれているのを感じ、コビーさんの優しさに感謝した。


ただ、ちょっと顔を曇らせて、こう続けた。


「ただ、異世界から来たなんてことは、あんまり外で言わないほうがいい。

時空の裂け目が異世界に繋がってるって言う話、これを言ってるやつらは、魔法協会の中でも特に荒っぽい連中でな…変に利用される可能性がある。」


魔法協会というのは、相当大きな協会のようだが、さっきの誘拐の話といい、少し危ない団体なのかもしれない。

権力をかさに着て横暴を働く人間というものは、どこの世界にもいるものだ。

今後何をするにしても、魔法協会には気を付けたほうがよさそうだな。頭にメモ。


「正直、世界は広いからな、ずっと遠くには、モンスターが存在しない地域もあるらしい。

そういう地域じゃ魔法もほとんど使われないらしいから、この街の話がおとぎ話に感じられたり、ステータスを見たことがない人もいるかもしれん。

今の時点じゃ、絶対異世界から来たとは言い切れんし、とりあえず周りには、時空の裂け目に巻き込まれたらしいってことだけ言っておいた方がいいだろう。」


確かにそうだな、と私も納得した。

異世界としか思えないような世界でも、広い宇宙のどこかにこの世界が存在しないことを証明することは私には出来ないだろう。

現状では、危険を避けるという意味も込めて、あまり多くは語らないのがベストかもしれない。


「まあ、俺らにとっちゃ、異世界だろうが何だろうが、ものすごく遠くからやってきた女の子が困ってるってだけの話だ!

これを見捨てちゃ男が廃る、ここで生きていくための協力ならいくらでもするから何でも言ってくれ。」


「そうよ、これも何かの縁だもの。

私たちのこと、この街での親のように思ってくれていいのよ。

しばらくはこの家で暮らすといいわ。幸いここは民宿だし、部屋は余ってるの。

最近はお客さんが少なくて、さみしかったところなのよ。」


「そうだな、事情が事情だし、宿代は後払いで構わないぞ!

こう見えて顔が広い方でな、仕事も紹介できると思う。

そうだ、冒険者酒場の人手が足りてないらしいから、そこで働けばいい。そこなら、新しい情報も手に入りやすいだろう。」


コビーさんが続く。二人とも、私を励ましてくれているようだ。

つい涙が出そうになってしまったのは、この不幸な状況ではなく、二人の優しさのせいだろう。


何も知らない場所に飛ばされたことは最悪だけれど、この二人に拾われたことはきっと幸運だ。

2020/12/21 内容編集しました。

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