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この世界に来た方法

コビーさんは、いかにも冒険者といった、体格のよい強面の男性だった。

元の世界での職場は男性ばかりだったため、男性には慣れているつもりだったが、それでもシチューを前にした時のかわいらしい笑顔を見ていなければ、怯えて固くなってしまっていたかもしれない。


軽く挨拶を済ませた後、シャロンさんと共に現状を説明し、ここに来た方法と元の場所に戻る方法の心当たりがないか尋ねてみた。


シャロンさんによると、コビーさんは昔はかなり名の知れた冒険者だったらしい。

街の外のことや移動手段についても、一般人であるシャロンさんより遥かに詳しいだろう。

何か知っていることがあるかもしれない。期待せずにはいられない。


コビーさんは、顔をしかめてしばらく考えた後、こう言った。


「まず、嬢ちゃんがこの街に来た方法だが、俺が考えつく限り、可能性としては2つある。」


複数の可能性という答えに心が躍る。さすが元冒険者!


私の期待に気づいたのだろうか、コビーさんは申し訳なさそうに続けた。


「最初に言っておくが、俺が思いつくのは、この街に来た方法であって、帰る方法じゃない。

嬢ちゃんには言いにくいが…家に帰るのは相当難しいと思ったほうがいい。」


この発言は結構ショックだった。

ラノベなんかの異世界召喚もその多くが一方通行で、元の世界に帰れる話はほとんどない。

正直想定してはいたが、今までなるべく考えないようにしていた。

こうやって改めて言葉にされると、キツイものがある。


一瞬頭の中が真っ暗になりかけたが、なんとか気を取り直す。

すぐには帰れなくても、世界を救うことで元の世界に帰れたり、冒険の中で帰る方法が見つかるパターンもある。

それに、私を呼んだ声の主は、また会いに来ると言っていた。

ただの夢にしては状況と一致しすぎているし、そちらに期待してもいいだろう。

今私にできることは、情報収集を続けることだけだ。


少し落ち込んでしまったが、やるべきことは変わらない。

もともと、そう簡単に帰る方法が見つかるとも思っていなかった。

ここに来た方法がわかれば、何かヒントになる可能性もある。

右も左もわからない現状では、何が解決の糸口になるかわからない。何一つ聞き逃すわけにはいかない。

やるしかないのであれば、やるべきことをただやるのだ。前を向け。


私を気遣って説明をいったん止めたコビーさんを促し、説明を続けてもらう。


「シャロンからも聞いていると思うが、基本的にはレベルが低い人間にはこの街を出入りできない。

この近くに巣食ってるドラゴンは広範囲攻撃が得意でな、パーティーを組んでたとしても全員がダメージを食らうから、レベルが低いと一瞬で焼き殺されちまうからだ。

ただ、低レベルで出入りする人間がゼロってわけじゃない。

この街に結界が貼られているのは知ってるだろ?それを応用して、動いている人間にも結界を貼る技術があるらしい。

ただ、これは魔法協会の秘術ってやつでな、お偉いさんの護送だとか、よっぽど才能のある子供を中央の魔法学園に送るときにしか使われない。

一応聞いておくが、嬢ちゃん、魔法協会とコネクションがあるわけじゃないよな?」


私は首を振った。

魔法協会なんて、聞いたこともない。


「ちょっと嬢ちゃんのステータスを見せてもらってもいいかい?」


突然のリクエストに戸惑う。

えっと、ステータス表示って、どうやってするんだっけ。

さっきは「ステータス」と言っただけで開いたような気がする。


口に出してみた。開いた。


「名前は…俺でも見たことのない文字だな。かなり遠くから来たのかもしれない…」


コビーさんは、私のステータスを覗き込みながらぶつぶつ言っている。

自分も同じ様に数字の羅列を眺めてみるが、私には、その値がどれくらいのものなのかわからない。

なんとなく恥ずかしさを感じながら、コビーさんの反応を待つ。


「見たところ、ステータスにも変わったところはないな。

魔法協会の中には、荒っぽい連中もいてな、金の卵を見つけたら、我先に手に入れようと誘拐まがいのことをすることもあるらしい。

それで連れてこられた可能性もあるかと思ったが、どうやら違うようだ。」


どうやら、私のステータスはごくごく一般的なものらしい。

わざわざ異世界に呼ばれたぐらいなのだからと、何かしらのチートを未だに期待していた私は、少しだけがっかりした。


「ま、もともとこの線は薄いと思ってたがな。

連れていくなら魔法協会の育成機関がある街に行くだろうし、あいつらの客だとしたら、追手が来ないののもおかしいしな。」


ま、追手が来ても追い払ってやるけどな!!とコビーさんは豪快に笑う。

その風貌も相まって、ものすごく頼もしく感じる。


「で、もう一つの可能性の方だが…」


コビーさんは私に向き直り、話を続ける。

ステータスはもういいのかな、と思うと勝手に画面が閉じた。便利なものだ。


「もうひとつは、時空の裂け目ってやつだな。俺はこっちが本命だと思う。

ずっとおとぎ話だって思われてたが、最近、人間が神隠しにあったみたいに消えちまったり、逆にどこからか急に現れるって事件がいくつか起こってるらしい。

それで、時空の裂け目は実在するんじゃないかって話になってるんだ。

魔法協会でも、時空の裂け目については色々研究してるみてえなんだが、細かいところはよくわかってねえ。突発的に発生する自然現象みたいなもんだそうだ。

出現予想もできないし、どこに繋がってるかもわかんねえから、それで元の場所に帰るのは難しいだろうな。異世界に繋がってるって噂もあるぐらいだ。」



異世界!!!



いきなりのキーワード出現に過剰反応する私。

過剰反応した私に驚くコビーさん達。


どうしよう。これ、話しちゃって大丈夫なやつかしら。

2020/12/14 更新しました。

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