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呼ばれた意味とは?

話を戻して、私がこの街にやってきた方法について心当たりがないかどうか聞いてみた。


まず、レベル1なので「自力で来た説」は却下。

ものすごく幸運な人間であれば、モンスターに出くわさずにこの街にたどり着けるかもしれないが、現実的に考えるとあり得ない自殺行為だ。

私にもそんな記憶はないので、これは有り得ないだろう。


次に、「誘拐されて連れてこられた説」。

誰かに連れてこられるにしても、範囲攻撃が得意なモンスターにかかっては、無事では済まない。

到着するまでに人質が死んでしまう場所なんて、誘拐犯の潜伏先としては最悪だ。

というわけで、これも却下。


異世界ということで、ワープ的なものが存在するのではないかと期待したのだが、キャロルさんの知る限りでは、徒歩や馬といった物理的な方法以外で街を出入りする手段はないらしい。

鍋を温めるのにコンロのようなものを使っていたので、もっと近代的な文化が発展しているのかと思ったが、どうもそうではないようだ。


コンロの動力はなんと、魔法の力!

ゲームやラノベも嗜む私としてはちょっとテンションが上がってしまう。

ただし、魔法といっても万能の力というわけではなく、一般人では使える人も多くないため、魔法の力が込められた魔石を用いた便利グッズ(かなり高価らしい)で生活を豊かにしているみたいだ。


魔法についてもう少し詳しく聞いてみた。


魔法は才能のある人間が一定以上のレベルになってから使えるようになるもので、魔法が使えるだけで研究所に就職出来たり、冒険者としても人気になれるぐらいのレアスキルらしい。


ステータスを見た時にMPの項目があったので魔法を使える世界なのかな?と少し期待していたのだけれど、項目自体は全員にあるもので、ほとんどの人は値がゼロらしい。

非常に残念。

私のMPも例にもれずゼロだったしなあ。ああ、チートをくれ。



夢かもしれない、という前提で、私が誰かに呼ばれた気がするという話をしてみた。

もしかしたら、高位の魔法使いであれば魔法で人間を移動させることもできるのではないのかと思ったからだ。

残念ながら、シャロンさんの回答は「そんな話は聞いたことがない」というものだったが。


ここまで話を聞いてわかったのだが、シャロンさんは街の中以外にはあまり詳しくないようだ。

シャロンさんはこの民宿で生まれ育ち、そのまま跡を継いで、現在は夫のコビーさんと二人暮らし。

この街からは一生出る予定もなく、レベル1で生涯を終える人間のひとりなのだから、当然と言えば当然である。


ただ、夫のコビーさんは元冒険者で、過去に魔法使いとパーティーを組んでいたこともあるらしいので、新しい情報が得られるかもしれないとのこと。これは期待。

コビーさんが現役の冒険者だったころ、この宿に長期滞在したことがきっかけでシャロンさんと知り合い、そのままこの宿を継いで街に永住することを決めたらしい。

今は民宿経営の傍ら、近くの畑でそのパワーを存分に発揮しているマッチョ系農民だそうだ。

今は朝の作業で畑に出ているため、帰ってきたら相談させてもらえることになった。


余談だが、エンゾの街は、国がかなりお金を出して環境を整えたこともあってか、コビーさんのように、この街を拠点として冒険者活動を続けるうちに、住民として居つく人は少なくないらしい。

住民の内訳としては、街で生まれ育った人たちが約半数、冒険者としてこの街に入り、そのまま住み着いた人が2割、出張中の役人が1割、残りの2割がは宿場住まいの冒険者といったところで、冒険者や出張者の多さからも、この世界においてドラゴンの存在が大きいことが伺える。


街の周りを囲む壁は、砦の役目も果たしており、壁の上を兵士が巡回して安全を守っている。

それ以外にも、町全体が結界で囲まれているので、モンスターは壁の中に入ってこれないし、ドラゴンが上空を飛んでも安全に暮らしていけるとのこと。


「外部からの出入りについては兵士たちが一番詳しいから、あとで詰め所に聞いてみるといいかもしれないわね。」

とシャロンさんは言う。


この街からの出入りはかなりハードルが高いことはわかったが、壁の中で自給自足できるようになっているし、冒険者で栄えている街なので、生きていくだけであれば壁の外に出られなくても全く問題はない。

街の端から端まで歩くと1時間近くかかるということなので、だいたい2km四方といったところだろうか、広さも十分だ。


この街から出ることが難しいのであれば、御都合主義的に考えると、「この世界の危機」というのは、この街の中で起きていることなのかもしれない。

私を呼んだ人だって、何かしらの意図があってここに私を落としたんだろうし。


というわけで、この街で何かおかしなことや困ったことがないか、シャロンさんに聞いてみた。

予想に反して、街の中は治安もよく、平和そのものらしい。

犯罪を起こしても壁の外に逃げることはできないし、警護のための兵士も数多くいるため、犯罪を起こす気にはなれないのも頷ける。


「街の外では、モンスターが強くなったりとかしてるみたいだけどね。

 でも、壁や結界を壊して街の中に入ってくる訳じゃないし、いまいち実感がわかないわ。」


日本のお茶の間で、外国の紛争のニュースを見ている心境と似ている、と思った。


でも、モンスターが強くなっている、というのは気にかかる。

ゲームの世界でも、魔王が力を付けるとモンスターが強くなるのは定番だ。

「世界の危機」に関係している可能性は十分ある。


でもその場合、レベル1から進めない私に一体何ができるというのだろうか。

このまま元の世界はおろか街の外にも出られず、この世界が終わりを迎えたら…考えただけで恐ろしい。


一体私は、どうすればいいのか。

何のためにこの世界にやってきたのか。


シャロンさんの話を聞けば聞くほどわからなくなってきた。



ああ、シチューが美味しい。

と、現実逃避しかけたその時、入口のほうから声がした。



「おや、お客さんかい?」



コビーさんのご帰宅だ。

2020/12/10 編集しました。

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