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異世界

私は寝起きが悪い。


とりわけ、土曜日の朝というのは、平日5日間の労働と金曜夜の暴飲暴食の疲れを癒すため、昼まで寝ると決めている。


そのためにも、ベッド脇の窓には遮光カーテンを完備。

南向き、日当たり良好のその窓は、朝になると日が差し込み、そのせいで目が覚めてしまうからだ。


なのに今日はなぜだか、やたらと朝日がまぶしい。

私としたことが、カーテンを閉め忘れてしまったみたいだ。


手探りでカーテンを探す。

さっさと閉めて寝直さなくては。


手探りで壁のカーテンを探すが、一向にそれらしきものが見つからない。


というか、感触がおかしい。

窓自体が見つからない上に、壁も家の壁紙ではなく、丸太のような凹凸のある感触……


仕方なく目を開くと、見慣れない天井が目に入った。

木製の屋根に、大きな天窓。どうやら光はここから入ってきているようだ。


上半身を起こし、周りを見回す。

木造のロッジのような場所に、レトロな家具が並んでいる。

壁とは逆側に手すりがあり、その下からも光と生活音が漏れているのを見ると、どうやらロフト部分のようだ。


……ここは、どこ?


昨夜のことを思い出そうとしてみる。

昨日は金曜だったので、仕事後に同僚と飲みに行った。久々の女子会ということで、どうでもいい話に花を咲かせ、終電間際に家まで帰ってきた。帰りにコンビニに寄ったことまで覚えている。

もちろん、私の家はよくある一人暮らし用のワンルームマンションで、こんなキャンプ場のような内装ではない。


夢??


頬をつねってみる。

人間というものは、混乱するとベタな行動に出るものだ。


はっきりと痛い。

実は以前にも、夢の中で頬をつねってみたことがある。その時は、痛いのか痛くないのかよくわからない、ぼんやりとした感覚に陥って判断に迷ったが、今回ははっきりとわかる。痛い。

そして何より、二日酔いによる軽い頭痛と胃もたれが、これが現実であるということを物語っている。


では、ここはどこだ。少なくとも自宅ではない。


寝ている間に移動した?誘拐?こんな金持ちでもなんでもない、三十路前の女を?

その割には拘束もなく、見張りもいない。一体どういうことなんだろうか。


状況が理解できないままベッドから起き上がり、恐る恐る1階部分を覗く。

1階はLDKといったところだろうか、広い空間に、テーブルにソファといったこれまたレトロでかわいらしい家具が並んでいる。


音がする方に目を向けると、一人の老婦人が料理をしているのが見えた。

悪い人には見えないが…と考えていると、老婦人がこちらを見た。


「あら、目が覚めたのね。」


しまった、と思う間もなく、老婦人は笑顔でそう言ってこちらへ上ってきた。

流暢な日本語だが、明らかに日本人ではなく、民族衣装のようなものを着ている。


……コスプレ?


敵意があるようには見えないが、誘拐犯の一味という可能性もゼロではない。

急いでベッドから起き上がり、すぐにでも逃げられるように身構える。


「そんなに警戒しないでちょうだい。私はシャロン。この民宿の女将よ。

 あなた、うちの庭先で倒れていたのよ。具合はどう?」


不安が顔に出ていたのだろう、老婦人は私を安心させるように、笑顔で話しかけてきた。


他人の家の庭先で倒れていた?

でも家に帰った記憶はあるし……まさか夢遊病!?こわっ!!


ひとまず体調に問題はないことを伝え、お礼を言う。

シャロンさんの話が本当であれば、多大なご迷惑をかけたことになる。


でも、庭先に見知らぬ人間が倒れていたら、普通は救急車を呼ぶのではないだろうか。

なんだか怪しい。というより、違和感がある。

推理小説を真に受けるわけではないけれど、誘拐犯がロッジ風の別荘に人質を軟禁なんて、よくある話だ。


「体が大丈夫なら、一緒に朝食を食べない?ちょうどシチューができたところで、

 起きていたら一緒にどうかと思っていたのよ。」


「いえ!せっかくなんですが、私、急いで家に帰らないと…。」


シャロンさんの話が本当だとすると、病院に行ったほうがよさそうだ。

今日が土曜日でよかった。午前中なら診察可能な病院も多い。

シャロンさんの話が嘘だったとしても、早く退散したほうがいいことに違いはないだろう。


「えっと、すみません。今何時か教えてもらってもいいですか?」


シャロンさんに尋ねる。時計が見当たらなかったからだ。


「日の出からはだいぶ経ってるから、8時ぐらいかしらねえ…ちょっと待ってね。」


そういいながらシャロンさんは階段を降りて行く。私もそれに続く。

誘拐犯だとしたらこんなに簡単に私に背を向けるだろうか。もしかして本当に夢遊病?


1階に降りたシャロンさんは、窓の外を指さして言った。


「そうね、今は8時の少し前かしら。ほら、時計台が見えるでしょう。」


促されるまま窓の外を見て、目を丸くする。

そこには、田園風景と、時計台。その奥には、どこまで続くかわからない程長くて高い塀。


今まで見たこともないような光景だった。


もう一度、頬をつねってみる。痛い。

その感覚のリアルさは、これが夢であればいいのにという希望を打ち消すには十分だった。


「あの、ところで、ここはどこなんでしょう?」


もしかしたら最近できたテーマパークかもしれない。なるほど、きっとそうに違いない。

だからこの人もコスプレのような恰好をしているんだな。

酔っ払ってそんなところに迷い込むなんて、私ったらうっかりさんなんだから~!


「カラファ通りの西の果てよ。教会の裏手にあたるかしら。」

「…聞きなれない地名です。」

「あら、ずいぶん遠くから来たのね。

 そうね、エンゾの街のいちばん南西といえばわかるかしら?」


わかるはずもない。


シャロンさんが冗談を言っている感じもしない。

手の込んだドッキリだとしたって、一般人を騙すには本格的すぎやしないか?


「昔はねえ、この辺りは冒険者たちの宿場として栄えていたんだけどねえ。

 うちの家でも民宿をやっていたんだけど、最近はモンスターが強くなって

 きちゃったでしょう、客の入りもほとんどなくて開店休業状態よ。

 まあ農家だから、食べて行くのは問題ないんだけど、困っちゃうわよねえ…。」


シャロンさんは一人で話し続けているが、私はそれどころではなかった。

見慣れない街並み、世界観。冒険者とモンスター。


不意に、夢の中の声を思い出す。いや、そんなまさか。


「このあたりの地理がわからないなら、おうちまで送って行きましょうか。

 あなた、お名前は?おうちはどこなの?」


ここで自分の素性を明かしてもいいものかどうか、それすらわからない。少なくとも、彼女が送って行けるような家の場所は提示できそうにない。


「えっと、私、記憶があいまいで…」


とっさに嘘をついてしまった。


いや、あながち嘘ではないか。

ここまでどうやって来たのか、まったく見当もつかないんだから。


「あら大変!自分の名前もわからないの?ステータスを見てみたらどう?」


「ステータス…?」



《ステータスを表示します》


電子音と共に、ゲームでよく見る、四角い画面が表示された。


もうこれは、認めるしかない。

ここは、今までの世界とは違う。異世界に来てしまったんだ。

2020.12.01 投稿再開します。

冒頭から少しずつ編集していきます。よろしくお願いします。

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