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生ける屍(拾う者なし)

魔法の名前が思いつかないです。

「……疲れた……」


息を荒げながら自身の右手を見つめる忠人。ぐったりとした様子でその場に座り込んだ。


「……これで、満足かー?」


若干間延びした調子で光の玉に尋ねると喜んでいるのか、くるくる円を描く。


「しかし、これは……そう何度も使えないな……」


そう言うと忠人は大きく息を吐いて立ち上がった。


「さて、あとはこの子を連れて……どうするんだ?」


行く当てないけどどうする、と忠人が光の玉を見ると首を振るように左右に揺れる。そしてスーッと音もなく消えていった。


「ま、どーにも何ないこと考えも仕方ない。とりま、連れて外に出るか」


忠人は少女をどう持ち上げるか少し考えるとため息を一つついて抱き上げた。所謂『お姫様だっこ』である。


服を血に染めながら少女を抱き抱える少年。英雄譚にでも出てきそうなワンシーンだ。


しかし忠人の表情は明るいとは言えない。腕の中の少女は見た目通り肉が薄く骨の存在が腕に直に伝わってくるからだ。


「これはない。ないわ」


そう言い捨てると忠人は少女を抱え直す。

と、その振動が原因になったのか。少女が僅かに反応した。


「……ぅ」


少女の瞼がゆっくりと開く。

彼女が見たのは自身を心配そうに覗き込む黒い瞳の少年。

少年が見たのはなにやらぼんやりとした桜色の瞳を向けてくる少女。


「……」

「……」


気まずい沈黙が流れる。

忠人は何を言えば良いのかわからず。

少女はまだ起き抜けで呆けているのか忠人を見つめるのみだ。


数秒の後に少女が口を開く。


「……おにぃ」


少女がなにか言いかけたその瞬間。


二人の周りを波が、突き抜けた。


なんとも言えない刺すような、肌を舐るような、悪意。

地の底へと引きずり込まれるような感覚によって忠人は呻き声をあげた。

光の玉が煽られるように飛ばされる。

腕の中の少女がくたり、と気を失った。


「ヤバい。明らかにヤバい」


よくわかんないけど絶対にヤバいと忠人は足を早める。


君子危うきに近寄らず。そう思いながら忠人が扉の前まで歩を進めたとき。


何か、音がした。


金属が触れ合う音。


何かが地面に擦れる音。


「あー、ヤバい。絶対ヤバい」


振り返った忠人はそれらを見てかなり死んだ目でそう呟いた。なぜなら彼の視線の先では腕の中の少女以外の囚われ人達が元気に動き出していたからだ。


もちろん元気と言ってもやあ、こんにちは!私達も助けてくれないかい!?と言った友好的な感じではない。


「ぐぅあぅぁああぁーあ」


そんな叫びをあげ、白目を剥いたり、呻き声をあげたり、涎を垂らしたりと全くもってまともな様子ではなかった。


もはや元気に迷惑な生ける屍と化した彼等に忠人はなんとも言えない笑顔を向ける。


「先人曰く」


落ち着いた表情で忠人は。


「三十六計逃げるに如かず。君子危うきに近寄らず。梨花で冠を正さず。石橋は叩いた上で渡るな。虎穴に入るとか頭逝っちゃってんじゃないの?と」


ーー理由なく命は懸けられません。


そう言い切り忠人はすたこらさっさと逃げ出す。


扉を抜け、階段を登り、廊下を駆け抜ける。


速く。できるだけ速くここから逃げる。


ここ一連の騒ぎで体力を消耗したからだろう。若干息を荒げながらひた走る。


急ぎすぎたために一度だけ転びかけたが無理やり走り続ける。


そんな忠人の前に影がひとつ。


「うぁあぅあッ!」

「なッ!?」


無造作に振り下ろされたのは斧。忠人が目をやると床にその刃を沈めていた。


「うるぅあうっ!」

「ええい!まともな言語話せやっ!」


斧を引き抜こうとするそれに思い切り足払いをかける。


「うるあぇあっ!?」


自分でも驚くほどの速度で放たれた蹴りが影をひっくり返していた。


ゴン!と重たい音が聞こえる。頭を強かと床にぶつけてしまったようだ。


流石に心配になり影の顔がある部分を覗き込む忠人。


「えぇああぅあ!」

「うぉいぇあ!?」


似たような叫びを上げる二人。因みに忠人は後者である。


覗き込んだ相手の顔が物理的に半壊していた場合意味不明な叫びを上げて飛び退るのは当たり前だろう。


「なんじゃこりゃぁっ!?」


ホラーな立ち上がり方をするそれにもう一度蹴りをかましその場を後にする。


「ゾンビか!?ゾンビなのか!?」


出現したそれに焦り、驚いた忠人は訳も分からず叫ぶ。少し考えを巡らせばあのゾンビっぽい状態になっていた者に心当たりがあることに気づく。


「てことはあれか!?この建物の中全部あんなんがうろついてんのか!?」


現実はいつだって非情だ、と更に足を速める忠人。しかし、逃げることだけに精一杯になっていた忠人は気がつかなかった。























忠人が蹴り飛ばしたゾンビが廊下の反対側まで吹き飛んでいたことに。


そしてそんな状態になっても再び立ち上がってきたことに。


◆◇◆◇◆◇


ビオラ・ウォーキンスは部下のアスター・リッジウェイとともにゾンビに囲まれていた。


「ロクでもない術を使いおって、これだから人間は!」


ロクでもない術。

“操者の居ない屍人形劇”と呼ばれるそれは周囲の瀕死もしくは絶命して時間の立っていない者をゾンビ化する魔法だ。


この魔法の恐ろしい点は効果が広範囲に及ぶ点である。今回であれば施設内の対象者は全てゾンビと化していた。


(しかし、この魔法、魔法使用者の生命が必要なはずっ……)


使用者すらゾンビへと変え、それ以降はゾンビから一定距離が術の範囲になる。


忠人がいればこう言っただろう。なにそのゾンビゲー、と。


「くっ!」


次々襲い来るゾンビをひたすら斬り捨てる。


魔力などもう残っていなかった。


「アスター!動けるか!?」

「歩く程度なら!“アサルトファイア”!」


魔力が残っておらず効果の薄い剣での攻撃しかできないビオラ。

魔力は残っていても傷のせいで満足に動けないアスター。


「魔力は!?」

「あと半分ってとこですかね!」


アスターを背にビオラが剣での攻撃で時間を稼ぎその合間合間にアスターが魔法で攻撃する。


しかしそれも長くは続かないことは自明の理。いずれ魔力が尽きる。そうなれば物量に押し潰されるだけだ。


「うぉうぁあううあ!」

「新手か……」


顔の半分が半壊したゾンビが曲がり角から現れる。

こう次々とではどうにもならない。


「ちっ!」


とりあえずビオラは眼に付いたゾンビを切り捨てる。

しかししばらくすればその泣き別れた頭は頭で。身体は身体で動き始める。

焼き払うか、物理的に動けなくするか、浄化しなければ延々と活動し続ける。それが足の遅いゾンビの唯一の強さだった。


もし、仮にビオラの持っていた武器がメイスなどの鈍器であれば四肢を潰して動きを止められただろうが。


そう思っても今ビオラの手の内にあるのはいつもの剣。

アスターが炎で焼き倒してもビオラが時間稼ぎに切り落とした腕が頭が炎から逃れ遅いかかってくる。


「せめてもう一人いれば……」


そんな無茶なことを思いながらまた一つゾンビの腕を落としたそのとき。


「あいつに届けっ!この思いっ!」


そんな意味不明な叫びとともにモップが飛んできた。

忠人「ほらあっちにもこっちもおぉ!これらはゾンビですか、どうなんですか!?」

作者「次回投稿はちょっと遅れそうです」

忠人「スルー!?」

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