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狂ってやがる(都合の良い世界)

忠人のチートがついに!発現しまさぁよ!

靴が床を規則的に叩く音だけが響く。


忠人が光の玉を追いながら歩き始めて5分が経過した。


(……どこまで行くんだろね)


忠人は既に自分がどこにいるのかわからなくなっていた。そもそも知らない土地の知らない建物を面識のないモノの後ろを追いて歩いているので仕方ないといえば仕方ないのだが。


(さっき階段を2階下ったから地下にいるっぽいってことはわかるんだけど)


この階に入ってからは窓を見ていないことからそれは間違いではないだろうと忠人は心の内で続ける。


事実、それは間違っていない。

この夜梨忠人という人物。学校での成績

は大抵中の下だったが、意味のない洞察力にだけは優れていた。


(いや、なんかもう勢いで助けるって言っちゃったけど……逃げた方が良かったよね。きっと)


ゲームっぽく言えばチュートリアルすっ飛ばしてレベル1のままダンジョンに放り込まれたようなもので。

確実に『にげる』を連打しても『しかし、にげきれなかった』してくる敵が一人いて。

装備は防御力どころか穴が空いた学生服と包丁がひとつ。

さらにパーティメンバーは確実に戦闘力のない怪しい光の玉だけで、しかも実際は味方と言い切ることはできない。


(……うわぁ。うっわぁ。なんか詰みまくってる。おうち帰りたい。切実におうち帰りたいよ)


そんなことを思いながら忠人は歩みを進める。自身がどこにいるのかわからない以上どのように帰れば良いのだろうか。


考えたところでどうにもならない。

しかし考えずにはいられない。悩んで、やはり結論はでなくて。


二進も三進も行かない現実に小さく溜息をついて。


先ほどからそれの繰り返しである。


彼は一度何かにハマると抜け出せない、アルコール類などに手を出せばあっさりと身を崩すタイプの人間である。

ついでにテスト中も一度分からなくなるとどれほど簡単な問題ても全く解けなくなるような人物だ。


結論として彼は流されていた。

いったいどうすればいいのか、答えの出ない問いを頭の中で回しながら光の玉のあとを追う。


その光の玉はといえばほとんど沈黙してしまいただふよふよと忠人を案内するだけになっていた。


結果としてただ足を進めるだけの時間が過ぎて。







そして、唐突に光の玉がその動きを止める。それを見た忠人ももちろん足を休めた。


そこはちょうど階段の手前。奥の暗がりに扉があるのが見える。そこが目的地のなのか。


「ここか?」


忠人の呟くような問いに光の玉は頷くように上下する。扉へと歩を進めて触れれば金属製のそれは進入者を拒絶するかのような冷たさを感じさせた。


蝶番も取っても付いていない扉にどうやって開けるのかと忠人は思案する。軽く押してみてもピクリとも動かずまるで壁を押しているようだった。


(助けるんだから、壊しても良いよね)


仕方ないなと頭をガシガシと掻き忠人は扉から離れる。


諦めて何処かへ行ってしまうと思ったのだろうか。光の玉は「行くな」とでも言うように忠人の周りをくるくると回った。


「行かないよ。押してダメだから破壊するだけだ」


階段と言っても段数にして四段だったため一息で飛び降りることができそうだ。


そう思うと忠人は階段から2、3歩離れると足首をまわす。


そして軽くステップを踏んで、


「はあああああっ!」


と声をあげ扉に向けて助走をつけた飛び蹴りを放った。


この扉は本来特殊な結界系の魔法が付与してあり忠人の蹴り程度では破壊することはできない。


しかし、勇者召喚を阻害しないために、そして“試作型連動式特殊魔力供給魔法”の維持のために魔力が伝達されていなかった。


結果。忠人はあっさりと扉を蹴破ることに成功する。


「…意外といくもんだな」


倒れた扉を見て忠人は呟く。まさか蹴り一発で倒れるとは思わなかったのだ。嬉しいのか驚いているのか忠人の口角は微妙に上がっていた。


……しかしその珍妙な表情はすぐに塗り替えられることになる。


惨状。


その光景はまさにそれだった。


鎖につながれた人々。いや、もはやモノと言った方が正しいかもしれない。

そんな扱いを彼らは受けていた。


(……これは)


腕に、背に、脚に、身体の各部に管が突き刺さっている。

着ている服も粗末なもので寧ろ穴の空いた布と言った方が良いレベルだ。

食べる物も十分ではないのではないだろうか。かなり痩せ細っている。

明らかにまともな扱いを受けている様子ではない。


そんな彼らの様子につい一歩後ろへ下がってしまう忠人。だが、逆に光の玉は前へと進みだす。


「……マジか」


どうやら目的の人物はこの先にいるようだ。そう見当をつけると忠人は溜め息を一つ吐いてまた光の玉を追う。


辺りからは時折呻き声や笑い声、泣き声が聞こえる。


「……急ごう」


そう光の玉に声をかけると光の玉は応えるように速度を上げる。


忠人もまたそれらを見ないように足を速める。

















「この人……か?」


憐れな囚われ人の群れを抜けたその先。


忠人の問いにYesと答えるように上下する光の玉。


二人(光の玉を人……と言うか生物としてカウントするのなら、だが)の視線の先には一人の少女。


伸びっぱなしの真っ白な髪。

太陽光を浴びていないのだろう。髪と同様に真っ白な肌。

折れそうなほど細い手足。

見た目からすると年齢は二桁に入っているかどうかわからないくらいの容姿。

他の虜囚と同じように粗末な服と身体に刺さる管。しかしそれでも美少女だ。

忠人が僅かでも惚けるほどには。


さらに、彼女の耳は先端が尖っていた。

その事実が非常に重要なことであると忠人が知るのはもう少し先である。


「……よし、助けようか」


誰かに同意を求めるように呟く忠人。


しかし問題が一つ。


「鎖をどうするか、だな」


忠人は見るからに硬そうな鎖に目を落とす。ちょっとやそっとのことでは外れ無さそうだ。


しかしそれは見た目の問題。

実は鎖と見せかけた別の何かーー例えば麩菓子とかーーだったりしないか。


そう思い忠人は鎖に触れる。


しかし鎖は見た目通り金属製。冷たく、硬く少女を縛っていた。


どうしようかと思案に耽る忠人。


手に持った鎖をジャラジャラと鳴らすが解決策など出てこない。


「鍵穴があるから鍵でも探すか……いや何処にあるかわかんないし……」


立ち上がると忠人は辺りに目を走らせる。


やはりあまり見たくない光景が広がっている。心を凍りつかせ感情移入しないように努力する忠人。


首筋をかきながら見回していると忠人の視線がある一点で止まる。


「……あ、あった」


漏れた心の内の通り、そこの壁には鍵が複数掛けられていた。


「……都合がいいな。鍵穴の近くに鍵を置く。当たり前といえば当たり前なのか……?」


なんかおかしくないか、とハテナマークを浮かべながら手に取った鍵を試す。


「……合わない」


最初の一本はハズレのようだ。そう判断すると忠人はその鍵を後ろへと投げ捨てる。


次々と鍵を試していき最後の一本。


案の定、対になっている鍵でありあっさりと鎖は外れる。


「さて次はこの管か……引き抜くしかなさそうだな」


おそらく血が出るだろう、と顔を歪めながら、それでも管を引き抜く忠人。


「ぅっ……」


少女が目の前で呻く。


必要なこととわかっていても子供を傷つけたことに忠人は呵責を感じつつ。


細く、しかし途切れることなく流れる血を視界の端に入れながら管を全て抜き終える。


「……血、止めなきゃ」


止まることを知らない少女の血液にせめて一ヶ所だけでも、とハンカチを取り出す。


そしてハンカチで傷を抑えようとした右手を伸ばしたその時。

今まで沈黙を守っていた光の玉が急速に動きだし忠人の右手に触れた。


瞬間、熱が忠人の右腕を包み込む。


「はい!?」


熱に包まれる右腕。青く光り始めた右手。いったいなんなのだ、と思うや否や忠人は自らの頭に何かが流れ込んでくるのを感じた。


「“快癒の御手”。所属領域六。強力な治癒効果を持つ。損失した血液の3割ほどを復元可能。欠損した肉体の再生は不能。ただし欠損部位が9割以上存在する場合、接合可能。干渉を受けやすいために他の魔法との併用は不可能。効果範囲は術者の右手が直接触れた近辺の傷に限られる。しかし軽微な傷はこの限りではなく余波のみで治療可能……ってどういうことだよ!」


流れ込んできた情報をなぞった独り言。それに対して自らツッコミを入れる。はたから見ればただの奇行である。突如自分の手が光りわけのわからない情報を脳にねじ込まれた場合、妥当な対応と言えばそうだが。


少なくとも光の玉は忠人のことを奇怪なものでも見るかのように側に浮いていた。


「……まあ、良い。使えるのなら使うまでだ。うん」


右手を見ながら忠人は言い聞かせるように呟く。その目は少々死んでいるようにも見えた。


「えーと?患部に当てて使えば良いんだよね……こうかな、“快癒の御手”」


諦めたかのような起伏のない声で忠人がそう言うと、少女に触れた手の光が強まる。


右手から自分の何かが流れ出ていく感覚。なんと言うか車酔いした後車から降りた直後のような虚脱感。


「……おお!


そんなものを味わいながらも治る傷を見て忠人は少し口元を歪めるのだった。

忠人「俺の右手が青く輝く!人を癒せと轟き叫ぶ!“快癒の御手”ぇっ!……なんちゃって」

ビオラ「……もう一度刺すか」

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