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逆転の一手(破滅への一歩)

なんか微妙な回になりました。


……元々微妙……ですけど……ね……

「抵抗しなければ苦しませないぞ」

「簡単に捨てられるほど軽い命を親から貰ってないんでね」


甲冑の人物の持つ剣がゆっくりと忠人にその刃を向ける。それに対し忠人は的を小さくするため態勢を低くする。


(そうだ。俺の命はこんなところで死ねるほど安い命じゃない。だからーー)


月が再び雲から姿を現わす。


「全力で抵抗させてもらう」


月光が忠人の頬の涙が伝った跡を光らせた。


「……なにか言い残すことはあるか?」

「そっちこそなんか無いのか?」


忠人は自信を持った声でできる限り傲岸不遜に聞こえるようにはっきりとそう言い切った。


(はは……俺、何言ってんだろ。そもそもなんでこんな目に遭ってんだろ。本借りに図書館行っただけだったのにな。あー涙出そう)


表情だけは不敵に、忠人は向かいくる敵をなんとかするべく息を一つ吐いた。


それを隙と見たのか甲冑の人物が襲いかかる。


(チャンスは一回で外せばその時点でゲームオーバー。難易度が少しヘルモードなだけだ。……なんとかするしかない)


忠人は今までと違い逃げるのではなく相手に突っ込む。


その時ふと思い出したのは今は亡き祖父の言葉だった。


ーー綺麗なモノや醜悪なモノ、怖いモノとか安心感のあるモノ、どんなモノだとしてもよく観察することだよ、忠人。そしてその人や物がどんなものなのか自身で判断するんだ。


にこにこといつも笑いながら頭を撫でてくれた祖父。


ーーそして判断したらそこから自分なりの論理を積み上げてあんたが思った通りに動きなさい。そうすれば早々失敗なんてせんよ。


気難しい真面目な顔をしていてもいつも茶菓子を出してくれた祖母。


ーー結局最後にはなんとかするのがお前だろ?自信持てよ。


わりと友好関係が狭かった学校生活で頻繁に話しかけてくれた友。


(観察しろ!推測しろ!負けない論理を積み上げろ!武器もレベルも経験も雲泥なんだ!使えそうな手は一つしか思いつかねぇ!それに全部……賭ける!)


横から振り抜かれた剣を忠人はギリギリで躱す。


全力で相手の挙動を観察して速く動き出しても動きの速度の差でギリギリになってしまう。


僅かな遅れも、許されない。


「これでどうだぁっ!」


忠人は左腕の肘を相手に体ごとぶつける。要するにタックルだ。


しかし身体に感じる衝撃は少ない。

まるで大きなボールに体をぶつけたような感覚だった。


相手が衝撃を後ろに逃がしたためだと忠人は考えた。


しかし少なくとも相手の腕の中、剣が自由に振れない範囲に入ることができた。


「はぁっ!」


すかさず右手の包丁を相手の首めがけて突き出す。


しかし包丁という間合いの短い武器では後ろに衝撃を逃がし距離を取り始めた相手には届かなかった。


(ヤバいっ!)


相手の左手がこちらを向き始めたのを見て忠人に危機感が走った。


出会ったときから何度か相手が作り出した「見えない何か」。木製の椅子を軽々と粉砕し壁にヒビを入れる威力を持った不可視の攻撃。


それが一体なんなのかはわからない忠人だが少なくとも「それ」を自分を粉々に砕くには十分な威力を持ったものだと認識していた。


(間に合えよッ!)


よって「それ」が自分に命中することは許さない。


壁や木より自分の着ている服も肌も柔らかいことは確かなのだ。

そんなものが当たれば確実に死ぬ。死ななかったとしても戦闘不能でそのままトドメを刺されるだろう。


忠人は反射的に左手に持った鍋の蓋を相手の左腕に叩きつけた。

辛うじて間に合った鍋のふたは「何か」の発射方向を変えることに成功する。


左側の地面が破裂する音を聞き忠人は冷や汗をかいた。


しかしそれで足を止めてはそれこそ一巻の終わりだ。


それに忠人自身も今の一撃でケリがつくとは毛ほども思っていなかった。


忠人も後ろへと下り襲撃者の剣の間合いから出ようとする。


相手が右手に持つ剣に細心の注意を払って。しかし忠人は小さなミスを犯した。


「グゥッ……」


忠人は相手が持つ剣に細心の注意を払ったのだ。

剣の動向に関して言えば素人にしてはなかなかの観察と予測を行っていた。

しかし逆に言えば彼は剣に集中しすぎたのだ。その結果忠人は腹に蹴りを浴びていた。


金属が腹にめり込む。

鈍痛が走り肺から空気が漏れる。


蹴られた勢いで後ろに倒れる忠人。硬い感触と衝撃が背中に伝わる。


軽い痛みを堪える忠人の視線は天を向いていた。相変わらず浮かんでいる月は三分の一ほど雲に隠れている。


そしてその横には月の光を反射し輝く剣の刃があった。


「ぃぃいッ!」


変な叫びを上げ、咄嗟に包丁と鍋の蓋を手放し忠人は地面を転がる。


その横で剣は地面に突き刺さった。

土塊が忠人の顔を叩く。


そのままもう一度転がりその勢いで起き上がる。


(くそッ!俺の馬鹿野郎!注意不足、判断不足、観察不足だ!蹴りだから死ななかったけど剣だったら死んでたぞ!)


貧弱なものだったとは言え武器を失い、腹にはまだダメージが残っている。


最初から後はなかったがさらに無くなった。


(武器が、決め手がねぇ!追い込む策はあるが最後のピースがねぇ!画竜点睛を欠くとしか言いようがない!)


襲撃者がゆっくりと忠人の方へ歩いてくる。


(あいつの剣を奪うか?取り落とさせる方法は?出来ない、一撃かましても多分威力が足りねぇ!包丁を拾うか?無理だ、そんな隙は与えてくれない!)


忠人は一歩づつ後ろに下がる。


包丁は既に相手の足元だ。どうやっても拾えそうにない。


(なにか、なにか手はないか?相手を傷つけられるモノを手に入れられる手段!ガラスの破片はーー。手が届く場所にガラスが無い!尖った石はーー。落ちてない!ポケットの中は携帯に調味料とハンカチにーー。駄目だ!)


後ろに下がる忠人の踵に何かが当たる感触。壁まで下がってきてしまったのだ。


(ああああああああああ!くそ!何か何か何か何か何か何か何か何か、尖ったもの、刺せるもの、斬れるものはーー)


甲冑の人物が剣を振り被る。

まだ距離こそ開いているものの逃げ場はなく対抗手段もない。


(待てよ!そう言えばーー)


天啓。ギリギリの瞬間にまさに何かに導かれるように忠人は一つの可能性に辿り着いた。


(ならワンチャンあるか……。分の悪い賭けになるが、元々だ!やってやる!)


近づく死に覚悟を決めた忠人は右手を大きく突き上げた。


何事かと襲撃者の視線が上へ向く。


その瞬間忠人は左手を素早く、小さな動きでポケットに突っ込み「あるもの」を取り出した。


そして右手を前へ運ぶとニヤリと笑い、こう呟いた。


「吹っ飛ばしてやる。死なば諸共だ」

あ、各話のタイトルとかちょっと変えました。

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