出会いと秘密
お久しぶりです。部活が忙しいです。辛いです。
それに今回登場するキャラを今出すか後にするかで凄い悩みました。
ーー目覚めた俺を見つめいたのは青灰色の瞳だった。その色はまるで雨に濡れたコンクリートのようだった。ここ一週間ほど見ていなかったその色に俺はどこか安心した。
「ようやく目が覚めたようだね」
「……っ!」
軽い頭痛に頭を押さえながら忠人は起き上がった。
否、それは正しくない。
忠人本人が身体を起こしたわけではない。忠人の身体が回転し、結果起き上がったのだ。
「……ここは」
周囲には高く聳え立つ書架。全体的に青く光る空間。
「ようこそ、大いなる根源へ」
大仰にお辞儀をするとその人物は自らの名を名乗った。
「ボクはアルケー。大いなる根源に生み出された思念量子精霊さ。初めましてよろしくね、勇者タダト」
忠人の黒髪にこの空間の青を混ぜたような髪に濡れた石のような瞳。背丈は忠人とほとんど等しく、髪の長さは長いとも短いとも言えない。
ニコニコとしたその表情からは年齢も性別も何も見られなかった。
「……思念量子精霊?」
ビオラの魔法講義では聴かなかった名だ。彼女によれば精霊とは自然現象に魔力と人の畏怖の念が干渉して生まれる意思を思った生き物であり概念である。身体を魔力で構成しているが故に魔法使用のレスポンスが良く、第一領域、第二領域の魔法に関すればこの世界で最速の構成速度を誇るのだ。
そして、自然現象に関係しない精霊は世界に存在しない。
「……ってされてるだけで、例外なんでいくらでもありえそうだよなぁ」
そもそもこの世界、聴いた感じじゃ中世ヨーロッパレベルだし。ルターとかルソーとか、産業革命の世代に真実がわかるわけないし。精々ニアピン程度に思っとこう。いや、そもそも知識が足りやしないし深く考えるのは止めておこう。
そう思考をストップさせて忠人は自身の頬を撫でた。
「んー?どうかしたかな?」
「なんでもないさ。で、俺に何の用だよ初めましての方?」
「そう、だねー。ボクはキミを助けるためにいるんだけど」
ゆっくりと宙返り運動をしてアルケーは本棚の上に座る。
「その前に、勇者としての知識を教えなきゃあならない」
「勇者としての……知識?」
「ああ、世間一般論……例えば、特殊な魔法によって現れるとか闇を払うための存在だとか才能に溢れた者であるとかそういうんじゃなくて、キミのコト」
そこで言葉を切るとアルケーは両手を大きく広げる。
「夜梨忠人とと言う名の勇者に関する知識さ!」
「俺……の」
「そう、キミのコト。特に、キミの右手以外の残り二つのコトさ」
瞬きをした一瞬。アルケーの姿が本棚から消え声の元が背後へと移った。
「っ!」
「おっと、危ないね」
反射的に右手を背へと振り抜く。しかしその手は途中で差し止められた。
「男の子だから元気のいいのはわかるけど、話は聞こうね?」
「……わかった、よ」
引こうにも押そうにもピクリとも動かぬ自身の腕に忠人は悔しげに息を吐くと身体の力を抜いた。
「うんうん、それでいいよ」
対するアルケーはニコニコと笑顔のまま。滑るように踊るように忠人の前へと回った。
「さて、キミの能力のことなんだけどさ……」
そこでアルケーはことさらにニコリと笑うと
「壊れてるんだよね」
事も無げに続けた。
「……で、え?つまり?」
「……あれ?もう少し驚くかと思ったのに?」
おっかしいなぁ、とアルケーは訝しがるがなんのことはない忠人にはアルケーが何を言っているのかさっぱりわからなかったのである。
「いや、俺の能力が壊れてるって言われてもそもそも実感もないし」
「あー、そゆことね」
能力……魔法のことを指すとすれば忠人には“快癒の御手”、“輝眼”、“シャドウチェンジ”、“ハンドトリック”、“スキンエクスプロード”があるのだが、破格の性能と言えるのは“輝眼”くらいである。
残りは微妙……というか使いにくい、使いどころがない、地味、痛いとかそんな感じであった。
「うーんとね、忠人キミには本来後二つの能力が身につくはずだったんだ」
「……おう」
「一つは“七光の雨弓”、一矢で別種類の強力な効果を持つ矢を七つ放てる魔法。もう一つは“日輪宴武”、昼の屋外限定で無制限にええと……そう、チャクラムを生成して攻撃する魔法だね」
「……マジで?」
聞いただけで明らかに今の俺の魔法群より強いんだけど。そんな忠人の感想は更なるアルケーの発言で消し飛ぶ。
「ついでに光系統の第四領域魔法への接続権も失ってるし、身体能力向上も殆ど働いてない。才能向上が効いてるのが唯一の救いかな」
「……ぇ」
それって。つまり。
「うん、キミが言うところのチートはほぼほぼゼロだね!」
「……………………………………………………因みに理由は」
「エルフの彼女が召喚を途中でキャンセル&ブレイクしてくれたからだね!」
ぐっとサムズアップするアルケーを前に忠人は崩れ落ちる。
「……ぜつぼうした」
「うん!勇者史上最もツイてないね、忠人は」
「ひでぇ、青菜……じゃなくて博多の……でもなくて傷口に塩塗るよこの精霊……」
「まだ余裕あるね」
アルケーの言葉に忠人はガシガシと頭を掻きながらも立ち上がった。
「まあ、だから?って感じではあるが」
例えるなら、一桁違う宝クジ並みにどうでも良い。悔しいことには悔しいし惜しいとも思うがだからと言って手に入るものでもないのだ。
「……割り切ってるねぇ」
「元の世界へ帰る力とかならもう少し慌ててたかもなー」
どうでも良さげに忠人は言うが知らずその目は鋭くなっていた。
「……まあ、いいさ。そのことを踏まえて、だよ」
「ん?」
「一応、ボクはセーフティネットなんだよね。今までの勇者たちには必要なかったけれど」
ーーだからキミに力をあげよう。勇者足り得るための力を。
妙に艶のあるその声に忠人は背筋にぞくりとするものを感じた。
「……そうだね……これにしよう」
アルケーが腕を振ると本棚から一冊の本が飛び出してくる。
滑るように宙を移動した本はアルケーの立てた指先の上で止まった。
「“オーバーアクセル”。使用者を通常の時間の流れから押し出す魔法。もちろん効果に対する費用も大きいケド……キミなら使いこなせるさ、忠人」
とん、と本が押し出され忠人の胸の中へと溶けていく。
「いや、待てアルーー」
再び大量の情報を頭の中に押し込められて忠人は悶絶する。
「さて、次会う時を楽しみにしているよ忠人」
アルケーが指を鳴らすと忠人の意識はゆっくりと薄れていく。
情報を無理に叩き込まれたための頭痛だけがはっきりとし残りの感覚が不明瞭になり、意識が現実へと帰っていく。
「忠人、キミならーーーーであるキミなら充分、自由に生きられるさ」
そんなアルケーの呟きを残して。




