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忠人の実力と悪い顔色

頑張りましたー

“スキンエクスプロード”。


第六領域魔法。自らの皮膚を起点に爆発現象を起こす。発動時に消費する皮膚が多ければ多いほど強力な爆発現象が起きる。


そんな説明を忠人は宙を舞いながら思い出していた。


(……いや、実際とんでも魔法だろこれ。クソ痛いし、下手したら感染症とかになりそうだし)


“快癒の御手”を起動するとぼろぼろだった掌が元の姿へと戻っていく。


(しかも何故か分からないがダメージが入らないんだよな、これ。吹っ飛ばすだけっていうか。なのに俺まで爆風食らうし)


どしゃっ、と地面に落ちると勢いでそのまま起き上がる。


「しかも効いちゃいないし」


目の前を横切った剣を見て忠人は杖を構え直す。先ほどまでとは違い先端を持つ剣道に近い構えだ。


「つか、その速度で殴られたら普通に死ねるんですけど!?」

「大丈夫だ。治す」

「ええ!?寸止めして下さいよ!」

「いくぞ」


再び忠人がついていけない速度の剣撃が襲う。胸や顔、首などの明らかに危険な一撃だけはなんとか防ぐが残りはほとんど打たせるままだ。


このまま打たれても何の意味もないと

飛び退いた忠人をビオラは追わなかった。


「もっと、本気でかかってこい。“エアブリット”」


忠人の視界に風の弾丸が三つ形成される。それを見た瞬間一瞬、忠人の身は竦んだが何とかその射線から離れた。


(いや、本当に死ねるって!)


次々と地面に穴を開ける風の弾丸を転がり避けながら忠人はひたすら弾丸の猛攻が止むのを待つ。


時には“スキンエクスプロード”で自らの体を吹き飛ばしてでも避け続ける。


(……飛び道具がないからなぁ……ジリ貧になって終わりか)


自身狙う“エアブリット”を4つ大きく回るように走って躱し、“インビジブルエアブリット”を転がって避ける。


「まあ、あんまり一方的でも面白くないよなぁ……」


そう呟くと忠人は地面に向かって“スキンエクスプロード”を放つ。


叩きつけられた爆風が土煙を上げる。もうもうとする砂塵をビオラは風を吹かせることであっさりと晴らした。


「目眩しか?無駄だぞ?」

「どうでしょう、ねっ!」


杖を槍のように構え、忠人は突撃する。

その速度は速いとは言えない。寧ろ遅いと言えるだろう。

この世界の戦士は“フィジカルブースト”のような身体能力の向上する魔法を使用することを前提としているからだ。


鍛えていたわけでもなく、代替になる魔法を使っているわけでもなく勇者となった補正のみではもちろんのろい。


「“エアブリット”」


忠人の視界に5つ風の弾丸が生み出される。それらは忠人の頭、両腕、両脚にそれぞれ狙いを定めていた。


しかし、速度が遅くとも“輝眼”により軌道が視えている忠人には関係がない。間に合うかは常にギリギリだがそのコース全てから大きく離れてしまえば当たらない。


「だが、甘い」

「ッ!」


横へと大きく動いて避けた先に新しく弾丸が生まれていた。


「お前の“輝眼”は確かに強力だ。だが」


相手の魔法を知覚しその内容を理解することのでき、更には動体視力も向上させるという余りに破格の効果を持つ忠人の“輝眼”だがその欠点の一つ。


「あくまでも視えるだけだ」


そう、視えているだけなのだ。極端なことを言えばスローモーションカメラで見ているだけなのだ。銃から撃たれた弾丸を普通の人間が見えても何の意味もない能登同じだ。自身の身体の動きが付いてこれないのだ。身体能力が一般人に毛が生えた程度のの忠人ではそれだけなのである。


「“スキンエクスーーーー」


忠人が再び右手の皮を代償に回避しようとする。


「それはさっき見たな」


いつの間に距離を詰められていたのか肩に思い切り木剣を食らう。忠人の手から杖が離れた。


「うおあああああああああああ!」


急に忠人の動きが加速し蹴りを放つ。しかしそれはあっさりとビオラな躱される。


「“スキンエクスプロード”!」


再び右手を爆発させ忠人は強引に距離を取った。


「なんだ、それは」

「“フィジカルブースト・イミテーション”とでも言えば良いんでしょうか?簡単に言えばビオラさんの“フィジカルブースト”の見様見真似です」


先ほどまでとは全く違う速度で立ち上がった忠人にビオラは問う。


「つまり、“大いなる根源”の術式でなく自分で編んだと?」

「俺には術式が視えますからね。それを再現するだけでいい」

「……なるほど、な」


口角を上げるビオラに忠人は少し冷や汗をかいた。


(これ、再現率が低すぎて魔力ものすごい食うんだよなぁ……)


実際忠人の魔力はもう僅かにしか残っていない。このままではすぐにガス欠になってしまうだろう。確実に、勝てない。最初から勝てる気はしていなかったのだが。


「いや、なかなかだ。なかなかだぞ少年。それができればある程度戦えるはずだ。なんだ、身体強化無しで戦う方法を教えようと思っていたのだが、できるなら話は別だ」

「……ぇ」


もしかして最初から使っていればこんなにボコボコにされなかったのか、と忠人は衝撃を受けた。


「では、その状態でもう少しやろうか」

「……え」


忠人の顔色が悪くなる。魔力残量は僅か、武器無し無手、しかも体力も消耗している。


「……まあ、いいや鍛錬だし」

「そうだ、鍛錬だ。思い切りかかってこい」


勝ち目は万に一つも無い。


「だけど……」


“フィジカルブースト・イミテーション”を使い身体能力を上げる。拳をしっかりと握り、懐へと駆ける。


「引き下がるのもそれはそれで負けた気がするんだなぁ……!」

「そうだ、来い!」


放つ右手は躱される。空いた右脇腹にビオラの剣が襲いかかった。


「ッ、ラアッ!」


咄嗟に忠人は右足を跳ね上げて強引に剣を止める。

ビオラが剣を戻すと同時に忠人はつま先を踏みつけた。


「それは少しセコく無いか……!」

「勝てば官軍なんですよッ!」


左手でパンチを繰り出すが身体の捻りのみ躱される。ならばと忠人は右手で腹へと殴りかかるが、


「それは剣の腹だ」


叩くのは木剣。意味を成さなないその一撃はただ忠人の右拳へとダメージを与えただけだった。

そして、


「私にも左手はある」


忠人は頬に鋭く硬い何かを感じた。目の前で星が瞬き暗闇が押し寄せる。利き手で無い手の威力じゃないと心の内で舌打ちを一つ忠人はついた。


散り散りになる意識を必死で搔き集め、立て直し、繋ぎ止める。崩れる身体を踏み止めると。


「取った!」


殴られた勢いで回転し、ビオラに背を向けたまま忠人はビオラの左手を掴んだ。


「“スキンエクスプーーーーーー」

「合格だ」


忠人は背中に木剣を叩きつけられる衝撃を感じ、気絶した。




◆◇◆◇◆◇




倒れ行く忠人の服の襟を掴んで止めるとビオラは木剣を投げ捨てた。


「全く一週間にも満たない努力で私に刃を届かせかけるとはな」


だらりと垂れる右手には初めて出会ったあの日忠人が持って行ったナイフが握られている。


殴られ左手を掴む前に腰に差したままのナイフを右手で抜き取りこちらへ叩きつける。忠人の用意した二つめの刃。


あの状況で取る(・・)ための手を二手用意する。


「しかも逆刃か。どれだけ一瞬で考えるのだ」


手首を動かしゆらゆらと揺らす。その様子は飼い主に首を掴まれた猫のようであった。


「団長」

「おお、アスターか。少年はなかなかやるぞ。これならーー」

「いえ、その前に少年を放してやって下さい」

「ん?」

「絞まってます」


忠人の顔色はこの世界に来て一番悪くなっていた。

もう冬休み終わるのでまたしばらくかかります。

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