不幸な二人と忠人の魔法
魔法の設定を妙な設定にし過ぎた疑惑。
「……ツイてない」
翌日、忠人はビオラの背に負ぶわれていた。
「……まさか、本当に防御しないとは思わなかった」
「……防御したらもう一発かまされると思いまして」
ビオラの放った側頭部への強烈な蹴りはあっさりと忠人の意識を刈り取り、忠人を水中へとダイブさせた。
その後、ぷかぷかと溺死体のように流されていく忠人をアスターが回収し目覚めたのは翌朝。
蹴りからのダメージは大したことがなかったものの川に何度も全身をつけたことにより忠人は僅かにだが熱を出していた。
「熱は“快癒の御手”で治らないとは」
「まあ、回復魔法は基本的に怪我にしか通じないからな」
前日、何が起きたかの流れは覚えていてもその映像は殆ど記憶にない忠人。まさか記憶だけ蹴り飛ばされた何てことはないはずだが。
「………いや本当にすまなかったな。私も冷静ではなかったようだ」
くったりとしている忠人に申し訳なさそうにするビオラ。騎士団長とはいえやはり女性。裸を見られて落ち着いていられるものではなかったようだ。
「というか、アスターさんが俺を放り込まなかったらこんなことにはならなかっ
たんではないでしょうか」
「……ではあのまま激痛に苛まれて気絶した方が良かったか?」
「どの道気絶したんですがそれは」
知らん、とアスターは返しスタスタと忠人を追い抜いて行ってしまう。しかし追い抜く瞬間、
「すまん」
という声が、かすかにしかしはっきりと聞こえたため忠人はほんの少し、口角を上げた。
「しかし少年、お前ちゃんとご飯食べてたか?」
「……毎日三食合計30品目きちんと噛んで食べてましたけど」
「…………信じられん」
「それは何よりも傷つく一言ですよ」
「しかし軽すぎるぞ、その年でこの細さとは、お前本当に人間か?」
半分くらい幽霊なんじゃないのか、と殺しかけた本人が仰った。
「確かに俺は何というか、成長が遅いんですよ……もう17なんですけどね……」
「……え?」
「何ですか、その信じられないものでも見たような目は」
「いや、どう見てもお前15かそこらだろ」
「いえ、れっきとした17歳ですけど?」
忠人は確かに背が低い。筋肉量もなく脂肪もついていない。だが年齢を下に見られるのは嫌だった。
「……信じられん」
「……2回も……」
何というか微妙な空気が漂う。
何か言おうとしてお互いに口をつぐむ。最初に喋ってしまえば問題ないのだが、大概そういうことはあとから思いつくものだ。
「おにーちゃん、平気ー?」
「ああ、うん。そろそろ大丈夫なはず」
気まずい空気がどうにもならなくなりかけたそのときユリがぴょんと飛び跳ねながら忠人に話しかけた。
この空気をそのままにしていられず忠人は咄嗟にそう答えてしまう。
「……ぁ」
話の都合上まだ本調子ではないものの自らの足で歩くことになったことに気がつき微妙に忠人は声を漏らした。
「ま、いいや。ビオラさん、ここからは自分の脚で歩きますから」
そう言うと忠人はビオラの背から降りて腕を回す。
「あ、ユリ、手、繋ぐか?」
「うん!」
元気よく頷いたユリの手を取ると忠人はゆっくりと歩き出した。
いつもより動きに精彩さを欠くもののそれでもしっかりと歩いていく。
かたや、自分の世界そのものから断絶されて人間の少年。
かたや、自分ですら出自がわからず、ただ人体実験を受けていたという事実のみ残ったエルフの少女。
奴隷とその主人という間柄のはずの彼らがビオラにはまるで兄弟のように見えていた。
◆◇◆◇◆◇
「“ハンドトリック”」
忠人は魔法を使用し手に鳥の羽を出現させる。そして少し笑みを浮かべながら数度振ると素早く手首を返した。
一瞬で忠人の手の中から鳥の羽が消える。実際は服の袖に落とし込んだだけなのだが動きが滑らかなため消えたように見える。
「……“ハンドトリック”」
今度は枝を四本、指の間に挟む。
「“ハンドトリック”!」
枝が消え、鳥の羽に変わった。
「すごーい!」
今日の行程を歩き終え、ビオラとアスターによる訓練も終えた忠人は未だ眠くないと言うユリに手品を披露していた。
もちろん忠人は本職の手品師ではなく、あくまでも学生の余興の範疇だが。ただ、忠人の習得した第六領域魔法“ハンドトリック”のお陰でそれなりに見られるような芸になっていた。
「まあ、もうネタ切れだから、そろそろ寝てくれ」
そう言って手品に使った道具ーーと言っても拾い集めたものだけのものだがーーを焚き火に放り込むと忠人はユリの背中をとん、と押した。
「うん!わかったけど……」
「ああ、また見せてやるよ。次はもっと凄いやつを」
「たのしみにしてる!お休みー!」
とたた、と毛布のところへとユリは走っていく。それを見て忠人は穏やかに笑った。
「……今のは」
「“ハンドトリック”。第六領域魔法で手に持ったものを別な手に移すだけの魔法ですよ」
正に手品。それ以外の何物でもない宴会芸のような魔法である。
「……せめて、体に触れているもの、とかなら動作なしで抜剣とかできるんですけどね……」
もしくは矢筒から矢を抜くとか、と忠人は続ける。
「いや、左手を添えるだけで剣が抜けるだけで十分だと思うのだが」
「おお」
確かに抜剣動作を大幅に短縮できるというのは大変有益であると言える。もちろん抜刀術などは使えないのだがそんな高等技術、忠人に使えるはずもないので問題ない。
「それに刺さるタイミングで出せば相手の体内に打ち込めるのではないか?」
「あー、それは無理なんですよね。転移させるものの大きさより近くにものがあると失敗するんです。ついでに土とかを飛ばして落とす、とか穴を掘るのも無理でした」
そう言うと忠人は地面に左手を触れ“ハンドトリック”を発動させる。すると右手の平の表面を土が覆った。
転移させられるものは接触したものだけということだ。
「ま、小細工にしかなりませんけどね」
「直接戦闘に効果を発揮するような魔法ではないのか」
「ですね」
手の平の土を払い落とし忠人はそう答えた。
「ところで、ビオラさんにお尋ねしたいことがありまして」
「なんだ?」
「魔法ってもしかして『接続』して覚えなくても使えたりしません?」
忠人の発言にビオラは小さく、しかし確かに目を見開いた。
「……気がついたのか」
「……いや、まあ、気がついたというか、見えたというか……いや、自分でもよくわかってないんですよね……」
なにやらもごもごとよくわからないことを言う忠人を怪訝に思いながらもビオラは続けた。
「あくまでも“大いなる根源”から得た情報は雛形に過ぎない。発展もできれば情報さえ得られればその元が“大いなる根源”である必要もない」
例えば、と前置きしてビオラは“エアブリット”を作り出した。
「これは“エアブリット”だがここに私は透明化の魔法要素を組み込んだ“インビジブルエアブリット”を使っている」
そう言うとビオラの手の中の“エアブリット”が透けて見えなくなった。
「……まあ、お前に魔法要素を組み込むのができるとは思えないがな。2種類の魔法を理解した上で分解し再構築する必要がある。私でもそこまで改造魔法の種類はない」
一朝一夕にできるようなことじゃないのか、と忠人は納得した上で更に尋ねる。
「でも、一度誰かが作ればそれを教わることで覚えられますよね?」
「……まあ、それもそうなんだが……目に見えないものを薄ぼんやりした感覚だけで再現するのだぞ?並大抵のことではない」
「…………そうですか」
残念そうな様子の忠人にビオラは第六領域しか使えない忠人は何か他の有益な魔法を覚える手を探したのだろう、と思った。確かに忠人が言うような方法でも魔法は習得できるが、効率が悪い。
「ま、簡単には魔法は習得できん。地道に行け、地道に」
「……はい」
そう言うとビオラは毛布を取りにその場を去っていった。
(……この前、ノーライフリベンジャーと戦ったとき見えたあの幾何学模様。“エアブリット”と“インビジブルエアブリット”にはあまり違いがなかったけど“アサルトファイア”は殆ど別物だった。逆に“アサルトファイア”と“ファイアブリット”には少しだけど似ているところがあった……あれを再現できれば)
忠人は自らの瞳を瞼の上から撫でた。
“輝眼”。実は凄い可能性を秘めているのかも知れない。そう思いながら。
ゆっくりとですが途切れないように頑張ります。




