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覗きと嘘をつかないエルフ

後半結構やけくそでした。すいません。書いてるこっちが恥ずかしくて……

忠人が思考できるようになったのはアスターに小脇に抱えられている途中だった。


後から思えばなんでこんなことになっているのかはさっぱりわからなかった。だがそのときは何が起こっているかすらもわかっていなかったと彼は言った。


表するなら寝起きの思考。まともなことは考えられず、相手の言うことを全て受け入れてしまいかねない状態。


そんな状態で忠人が思ったのは


ーー帰りは歩かなくて済むとかラッキー、くらいのことだった。


このあと起きることを鑑みれば全くラッキーではない……とも言えるのだが。


とにかく、忠人はアスターの腕の中でぼーっとしていた。なにやら音が腕から聞こえるような気もしていたが痛みで感覚がバカになっている忠人には理解できず。


「ーーーーーー」


アスターが何事か呟いた。


そう思ったときにはもうすでに。


放り投げられていたのだ。













ばしゃーん!


夜の水の冷たさは忠人の朦朧とした意識を覚醒させるのに十二分に役立った。


「ーーーーーーッ!?」


結局先ほどと同じように声にならない叫びはあげているが。


「うああああ!?死ぬって!水に入るときは十分に準備運動をして足の先から入りましょう決して飛び込んではいけませんって先生言ってた!」


忠人の言うことは正しい。心臓に過度なショックがかかり死ぬ者もいるのだ。冷たい水に飛び込んではいけない。


……今はそれどころでは、ないが。というか気がつかなければそれで良かったのだ。なまじ覚醒してしまったためにその悲劇は起きたのだろう。


朦朧としていればそのままのっそりと水から上がり、薪集めに戻ったろうから。


「なんだってんだ?急に激痛が走って意識が飛んだと思ったら水の中とか」


よいせ、と立ち上がる。


水の流れが足を撫でる。忠人は水底が石ではなく柔らかな土であることを感謝した。もし石なら我慢できない痛みを再び受けていた可能性は大だったからだ。


ここは何処かとなんとなく、忠人は後ろを振り向いた。


「……」

「……」

「あ、おにーちゃん」


目が合った。


低い目線の、桜色の瞳。

高い目線の、碧色の瞳。


まあ、当然といえば当然である。

ビオラたちは水浴びをするから離れていろと言ったのだから。

水場はこの川しかないのだから。


放り込まれて見るものと言えば魚でなければそれ(・・)ということになる。


一糸纏わぬ、森人(エルフ)族の、女性の、裸身。


見えてしまった部位の名称とかそれに対する感想とか、エルフは聞かされた通り美しい身体を持っていたとか、自分の薄汚い思いとか。


それらに再び思考を喰い潰されたた忠人は、ゆっくりと目を閉じた。


「…………おにーちゃん?」


いまひとつ、どんな状況かわかっていないユリ。


「…………ふむ」


怒りよりも先にどうしたものかという思考が来ているビオラ。


「…………ああ、ああ、しにたい」


完全にフリーズして膝を折っている忠人。


「これくらいで良いか」


木の陰で知ったことかと薪を再び集めるアスター。


「……巫女様、先に戻っていてください」

「……うん」


少し小首を傾げたユリだったがビオラの強めの言葉にとたた、と走り去る。


ユリというストッパーが離れていったことで忠人の顔色が悪くなる。しかし怒りを受ける姿を見せなくて済んだことに安堵もしていた。


「……何があった?」

「……わかりません。薪集めの途中で激痛が走ったと思うと川に放り込まれてました」


ぴしっと正座をし、両目を瞑ったまま答える。目を開きたい衝動と戦うため、忠人は体表をなぞり通過していく水の流れに集中していた。


忠人には、見えていないがビオラは忠人の腕に目を落とすとああ、と納得する。


「スレイヴリングの罰則か」

「……あれ、がですか」


辛すぎるだろおい、と忠人は思った。


「なるほどそれでアスターがここに放り込んだのか。投げ込んでそのまま気絶させるつもりだったのだろうが、良くも悪くも受け身をとって衝撃を逃したせいでまだ意識があったわけだ」

「……納得された」


忠人は自分に何が起きたのかわかっていなかったためなんだか理不尽なような気がしていた。


「まあ、それとこれとは話が別だな。歯を食いしばれ」

「いや待ってください!?見えない状態で殴られたら防御できないです!?」

「女性の裸を見たのだ。必要経費だろう?」


今までの落ち着きっぷりが嘘のように怒りを声に乗せるビオラ。話を聞いた上で殴ることで、一瞬だけ希望を与えてそれを奪う。ある意味外道であった。


「見たくて見たわけじゃないのに!?」

「ほう?見たくなかったのか?」

「……すいません!ちょっと興味はありました!だから拳に魔力込めないで下さい!」

「やはりそうか……親にしか見られたことがないのだ。高いぞ?」

「死ぬ!絶対に死んでしまいますから!」

「さきほどまでしにたいと言っていたではないか」

「言葉の綾です!表現方法です!勘弁してください!」


ばしゃん!と水音を立て忠人は土下座を敢行する。


……息ができなくなりすぐに顔を上げてしまったが。


それでも、と頭をさげる忠人。

ある意味ゾンビの集団より危険を感じていた。


「………………仕方ない。今回は許してやろう」


魔力が急に霧散しビオラの声が突然穏やかになる。


「……本当ですか?」

「ああ、嘘はつかん」


やけに優しくなったビオラの声に安心し顔を上げる忠人。ただし目は閉じたままである。


もういっそ目を開けてそのまま楽になるという手もあるだろうに。律儀な男であった。


「魔力なしで許してやる」

「……あえ?」


忠人の側頭部を笑撃が襲った。

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