新装備(笑)と懐中電灯
お久しぶりでふ。リアルが忙しいんでふ。仕方ないんでふ。
花の高校生なんでふ。
また、2週間は戻ってこれないんでふ……。
「今日はここまでだ」
忠人はその言葉と同時に崩れ落ちた。
「こ、腰が……脚が……体中の諸々が……」
一応“快癒の御手”で治してはいるものの記憶が痛いとよくわからないことを言っている。
実際は歩き通したことと昨夜遅くまで起きていたことによる睡眠不足である。
「おにーちゃん大丈夫?」
「……んー、大丈夫」
ユリに優しくされて無理やり立ち上がる忠人。幼女に労られるなど男子の沽券に関わるのだ。
「明らかに運動不足だよな……」
あっさりと悲鳴をあげた自身の体に溜息をつくと忠人は“快癒の御手”を使おうとする。
「やめておけ」
いつの間にか近寄っていたのかアスターに右手を掴まれた。
「治癒魔法で治すと肉体が成長しない」
理由は不明だがな、とアスターは続けた。
忠人は自然治癒じゃなくて昔の腕と交換しているようなものか、とわからないようでわかっている推測をつけた。
仕方なく伸びをするだけですませる。寝るまでに柔軟運動を十分やることを忠人は決心した。
「おい、少年」
唐突にかけられた声に忠人が振り向くと視界が緑色の何かで埋め尽くされた。
「うわぅ」
引っ張り下ろして見ればそれは薄汚れた緑色の服だった。いわゆるチュニックに近い形をしている。
「これは?」
「いつまでも血の匂いをさせられては困る。一番古いものだがそれに着がえろ」
「ありがとうございます」
長く放置されていたものなのか埃っぽいチュニックをぱたぱたとはたく忠人。ようやく服を変えられるためかその表情は明るい。
「いくらなんでも血の匂いをさせたままこれ以上森をうろつくのはやめたほうが良いからな」
「え、なんでそんな大事なことを早く言ってくれないんですか?」
言葉の裏の死の恐怖に体をびくりと震わせると忠人は凄い速度で学ランとワイシャツを脱ぎ捨てる。
その腹に傷跡は残っていない。それを見てビオラは僅かに、そして自らも気がつかずに安心した様子を見せた。
「あとでズボンも履き替えろよ」
ノーライフリベンジャーに穴だらけにされているズボン。見栄えが良いとはいえない上に森を歩くのだ。人間族の肌の露出はできるだけ避けたほうが良い。
「あれ?こんなん持ってましたっけ?」
「いや、ここは旅から帰ってきたエルフが休みを取る場所でな。それなりに食料やらなにやらが置いてある」
「へえ、そんなんもあるんですね」
「魔物避けの結界も張ってあるからな。今晩はゆっくりできるぞ」
おお、と声を上げる忠人。
見張りで夜、叩き起こされるのは身にこたえるのでそれは嬉しい情報だった。
ニコニコする忠人にビオラはズボンもほうりなげる。
「ありがとうございます」
「まあ、気にするな。どうせ古すぎて処分するはずのものだ」
ズボンも投げ渡されると忠人はどこで着替えるかと思案を巡らす。
人前でズボンを着替えるのは常識が拒否していた。
「しかし、な」
「ん、なんですか?」
上を着る途中で声をかけられなんだか中途半端な格好になっている忠人にビオラは続ける。
「鍛えては、いないんだよな?」
「え、はい」
なんですか急に、と忠人は首を傾げた。
「いや、それにしては無駄な肉がないなと思ってな」
ビオラの言う通り、忠人は鍛えていないという人間としては不自然なほど余分な肉のない身体つきをしていた。
「あ、俺は多く食べても肉がつかないんですよ。不自然なレベルで」
「……ちっ、これだから人間は」
忠人の言葉を聞くや否や身を翻して去っていくビオラ。
「……え?俺なんかしました?」
「いや、団長はな。以外とあれだ、女性としての身体つきを維持するために……」
尻すぼみになっていくアスターの言葉を聞いて忠人は理解した。
「……これでも俺も苦労してるんですけどね。筋肉もあまりつかないんです」
「そもそも種族的な話をすれば我々エルフの方が肉はつきにくいのだが……」
結局。
男性がどの世界でも女性の心を理解するのは難しいようである。
「で、ユリとビオラさん、二人ともどこ行ったんです?」
「ああ、水浴びだが」
「へー、そうなんですか。俺も後でできますかね」
「これから夕飯を食べて……夜になるかもしれんな」
「……絶対寒いですよね」
「恐ろしく冷たいな」
女性陣が水を浴びている、だからどうしたという二人組。アスターはだから妻が出来ないのだと言われていることを忠人はまだ知らない。
「我々は薪拾いだ」
「了解です……あ、ズボンは着替えてもいいですか?」
「早く行ってこい」
ささっと忠人は木の陰でズボンを着替える。ズボンは腰で紐で縛っているだけのものだ。
「ああ、そっか。ゴムとかないのな」
忠人はそんな感想を抱いた。
「早くしてくれー」
「あ、はーい」
何度かその場で飛び跳ねてズボンがずり落ちないのを確認すると忠人はアスターの元へ向かう。
「ところで薪ってどんな木が適してるんですか?」
薪というものはあまり水気を含んでいない木を使う。故に生えている木から下り取って使うわけにはいかないのだ。そもそもエルフであるアスターがいる時点そんなことは許されないのだが。
「このくらい乾燥している物がいいな」
そう言ってアスターは落ちていた枝を叩く。
コンコン、と小気味の良い音がした。
「……こんなんですかね?」
「ああそのくらいのだ」
「どのくらい拾うんですか?」
「とりあえず両手にいっぱいだな」
「じゃ、二手に分かれます?」
「いや、森の中は危ないからな。二人で行こう」
そう言って二人は森の中へと足を進める。いくら魔物避けの結界の近くとは言え危険がないわけではないのだ。
「しかし、ちょっと暗くなってきましたね」
「そうだな。足元に気をつけろよ」
「明かりがあればいいんですけどね……そうだ」
「どうした?」
ぽん、と手を打つ忠人。
怪訝な顔をするアスターをよそに忠人は目を瞑った。
「“輝眼”!」
忠人が目を開くとその瞳は金色に染まり光を放った。
「これで明るいですよ!」
ニッ、と笑い忠人はサムズアップをする。
アスターはそれを見て頭を掻くと、
「いや、私が炎で明かりを出せばいい話だったのだが」
忠人に聞こえないようそう呟いた。
忠人はアホの子。
こんなんはずじゃなかった。




