接続酔いとフクロウの鳴き声
短いっす。
「ん……う」
木に寄りかかっていた忠人が目を覚ます。
「どうやら『接続』できたようだな」
「あ、ビオラさん……うぇっ?」
忠人自身は気がついてもいなかったかが“大いなる根源”では視覚以外の五感の情報が薄い。
「接続酔いだな…」
「接続酔い……ですか?」
よって体感時間で3時間ほど“大いなる根源”に潜っていた忠人は多少なりとも情報の薄い状態になれたため急に増えた情報に忠人は酔っているのだ。
「気持ちわり……」
「まあ、あと10分もすれば治るだろうよ」
そういうことは早く言って欲しかったなぁ、とぼんやりと忠人は考える。
「ふう……あれからどのくらい時間が経ちましたか?」
「……3時間ほどだ」
「体感時間で1時間いたかどうかなのに……こりゃ、戦闘中に潜っては切り替えってわけにはいきませんね……」
「そうだな。ところでお前どのくらい魔法を手に入れた?」
「8つです……まともに使えそうなのは半分もありませんけど」
色々と事故がありまして余計な魔法を習得してしまいました、と忠人は続ける。
「どういう事だ?」
「俺、第六領域以外の適正がほぼ無いっぽいんです」
「……本当か?」
「少なくとも今は」
そう言って忠人がため息をつく。
「ああ……辛い」
「まあ、今は休んでおけ。夜明けまではまだ時間がある。見張りは代わってやろう」
「どうもありがとうございます」
それだけ言うと忠人は木に寄りかかってかくり、と眠りに落ちる。
なんだかんだ言ってもゾンビと戦い、歩き通し、魔法を覚え、歩き倒し、眠ったと言っても気絶していたため疲れていたのだ。眠れると思った瞬間に疲れに負けたのだろう。
「……全く眠るならきちんと横になれ」
そう言ってビオラは忠人を抱え上げる。忠人が知れば女性にお姫様だっこされるなんて、と愕然とするだろう。
「眠りましたか?」
「ああ、直ぐに眠りに落ちた」
柔らかそうな土の上にビオラは忠人を横たえる。
「…しかしよくも敵地でこんなに安心して眠れるものだ」
ビオラが呆れたようたそう漏らすと。
「彼には敵地という意識はありませんよ」
アスターが答える。
「彼はやはり異世界人ということでしょう。今日若干距離があったのは一度敵対したからで私たちがエルフだから、という訳ではなさそうでしたし」
「全く妙なヤツを拾ったものだ」
「確かに」
異世界人でこの世界の常識が無いからと理解はしていてもやはり人間族としての見た目からくるイメージとのギャップに扱い辛さを感じないでも無い二人。
「まあ、悪いやつでは無いですね」
「それは、確かに。私個人としてはそこまできらいではないよ」
沈黙。
「……」
「……」
焚き火がパチパチと音を立てる。
何処かでフクロウが鳴いている。
木の枝を夜風が鳴らす。
忠人とユリの寝息。
ゆっくりと流れていく時。
「なんだかんだで長かったな」
「そうですね……皆、死んでしまいました」
本来の第三騎士団はこの二人だけではない。総勢28人の団員がいた。しかし勇者召喚の妨害の任務でその殆どは死亡している。
ある者は死に、ある者は置いていき、ある者は行方不明。敵地に潜り込んでの任務だ。当たり前だと言えば当たり前と言えよう。
「しかし……この任務……何故私たちだったのでしょう……」
「さて、な……」
「……あまり、こういう事は言いたくないのですが彼女、アルメーー」
「アスター」
ビオラは手を振ってアスターの言葉を遮る。その視線にアスターは映っておらず。
「……来るぞ」
「はい」
直後、草むらから緑色の体色の狼が飛び出してくる。
「グリーンウルフ、ですね」
「“ウィンドヒアー”……5体だ」
ビオラが剣を片手に魔法を使い敵の数を把握する。
アスターは魔力を右手に集め魔法の準備をする。
「二人を起こすなよ」
「はい」
静かに、しかし素早くビオラが飛び出す。グリーンウルフも反応するが後ろに飛び下がる瞬間、火の玉が狼の顔を打つ。
「“ファイアブリット”」
「ナイスだ」
吹き飛ばされきゃうん、と無様な鳴き声を上げるグリーンウルフの腹をビオラの剣が斬り裂いた。
血が草原の地面を赤く染める。
「次だ」
仕留めた獲物には振り返りすらせず草むらへと飛び込んでいく。それと入れ違いに二匹のグリーンウルフがアスターの前に現れる。
「““ファイアブリット”コンバスション”」
アスターの立てた指の上に火球が生み出される。炎を恐れたのか近づかないグリーンウルフ。
「焼けろ」
そうアスターが呟くと指の上の火球が放物線を描いてグリーンウルフに迫る。
グリーンウルフはそんな単純な軌道では当たらないと馬鹿にしたように吠える。
しかし身を翻して“ファイアブリット”を避けたグリーンウルフを火球が襲った。
「所詮狼もどきだ」
弾けとび地に伏したグリーンウルフの体を被弾した部位から炎が舐めるように焼く。
「逃がさん。“ファイアブリットトリプレット”」
全身を炎に包まれる同族に逃げ出そうと背を向ける生き残りのグリーンウルフに三つの火球が迫り、爆ぜる。
黒焦げになって二匹の狼は地に横たわった。
「終わった、な」
「こちらもだ」
がさり、と音を立てビオラも戻ってくる。抜きっぱなしの剣には血が伝っていた。
「……そう言えば団長はあまり人間嫌いでないですよね」
「急になんだ」
「敵として見ていても敵視はしてない、そんな感じです」
ビオラはちょっと考えると首を振って否定する。
「それなら少年も同じだろう?」
「いいえ、違いますね。彼は……彼はもっと恐ろしいような気がします」
口を開けて間抜けにしかし穏やかに眠る忠人を見てアスターはくつくつと笑う。
「心配はなさそうですが」
「そうだな」
「ところで魔石はどうしましょう?」
「拾って少年の講義に使おう」
二人の視線の先でグリーンウルフの死骸が砂のように崩れていく。
死骸が完全に消え去ると同時にころんと濁った石が落ちた。
修学旅行に行ってくるのでしばらく更新できないんですよね……。修学旅行から帰ったらすぐ文化祭ですし……。
あれです。気長に待ってください。




