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剣と魔法とモップ(復讐の悪鬼)

「出口ってまだですか!?」


モップでゾンビを押し倒しながら忠人が尋ねる。


「それを聞いてどうする!」


剣を鞘に入れたまま縛り鈍器として振り回すビオラが怒鳴り返す。


「アスターさん……というかその子を早いとこ脱出させたいんです!」


忠人が、近づいたゾンビをモップで受け止め蹴り飛ばす


「しかし、この数!抜け出せないぞ!」

「ガチで肉壁です、ねっ!」


しかも腐乱肉壁。

内心、そんなコメントをしながら忠人はモップと自身の足でひたすらゾンビを追い払う。


現在彼らがいるのは二階の階段手前。ここを降りて大広間を抜ければ出口はもうすぐそこだ。


「階段を壊したら降りられなくなるから下手に“アサルトファイア”も撃てん。このまま少しずつ進むしかあるまい」

「これなら冬休みの宿題の方が遥かにマシだ……」


そんなことをぼやきながらもしっかりとゾンビを迎撃する忠人。器用にモップを使い詰まった距離を元に戻す。


その動きは歴戦の……とは全く言えないもののそれなりに見られるレベルの動きだ。


もちろん、忠人がここまで戦えているのには理由がある。


まず夜梨忠人という人物。鍛えていないためにそれが表に出ることはなかったが身体能力は高い。鍛えれば十分スポーツができる潜在能力がある。


そして勇者召喚陣によって潜在能力がだいぶ表に出てきている。さらに召喚陣自体のブーストもあってゾンビと戦うだけのスペックを発揮しているのだ。


本人は自身の能力が向上していることには気づいていないが。


「こなくそ!まだ増えるか!」


そもそもゾンビの動きはなんかぬばっとしていてトロいため動きを見てからでもぎりぎり間に合うのである。


「あらよっと!」


モップでゾンビの頭部を殴り脚で蹴り飛ばす。


もしかしたら小学生の時掃除の時間に毎日のようにほうきを振り回して遊んでいたからここまで扱いが上手いのかもしれないが。


「あと、20秒保たせてくれ!一掃する!」


後ろから響くアスターの声を聞きながらよし、やってやると気合を入れる忠人。

今まで以上に集中してゾンビを牽制する。


「6!」


横向きにしたモップでゾンビを2体突き飛ばす。


「5!」


横から襲い来るゾンビをモップで突いて追い払う。


「4!」


そのままモップを放り捨て新たなゾンビに足払いをかける。


「3!」


脚を掴もうとしていた斬り落とされたゾンビの腕を腰から抜いた包丁を突き刺して投げ飛ばす。


「2!」


ゾンビの腕を掴んで引っ張り地面に引き倒す。ゾンビの腕が抜けて取れた。


「うぉ!?」

「1!」


まだ指先が動いているゾンビ腕を他のゾンビの顔に投げつける。


「“クレメーション・フレイム”!」


そんな声が聞こえた瞬間忠人はパッと壁際へ飛び退く。

ぴったりと壁に張り付いた忠人の目の前を赤いオーラのようなモノが駆けていく。


「あ、モップ……」


そんな忠人の呟きはゾンビたちが一度に燃え上がる音にかき消される。

不思議とゴウゴウと燃える炎からは熱を感じない。それに落ちているモップも燃えてはいなかった。


“クレメーション・フレイム”。比較的メジャーな対アンデッド魔法であり、その効果は範囲内のアンデッドを全て浄化の炎で燃やすというものだ。

対象がアンデッドのみなうえ魔法耐性のないアンデッドはほぼ一撃でケリがつくため非常に優秀な魔法である。


「ふう。何とかなったな。良くやったアスター」

「いえ、巫女様も居りますしこのくらいは」


何事か会話する2人。それの内容を流し聞きながら忠人は自らの得物の様子を見る。


「モップは……まだ使えるな。包丁は……ダメだ。刺さってたせいで柄が燃え尽きてる」


包丁はまあ、替えのナイフがあるから良いか。モップ残ってて良かった、と少し安心する忠人。彼にとってモップは軽くて間合いの取れる扱い慣れた掃除用具(武器)なのだ。


「なんか、済し崩し的にここまできましたけど最後までご一緒させて貰えませんか?」


モップを担いで忠人が言う。

お互いに信用できるかの判断をつける前にゾンビに襲われここまで来ただけなのだ。

戦いが小休止して冷静になった頭が後ろから刺される可能性があることを気づかせた。


「お願いします」


刺される可能性もある。しかし忠人一人では次ゾンビに囲まれた場合脱出できるかわからない。例え次が上手くいってもその次は?


なんかいけるんじゃね?とか考えていた少し前の自分にこんこんと説教したい忠人。


だから頭を下げる。

せめてこの危険地帯を抜けだすまでは自らを守ってくれる人物が欲しいから。


「……アスター。彼には一応の恩義がある。人間ではあるが信用できなくもないわけだ」

「確かにそうですね。彼女を助けて貰いましたし、ここまで彼が居なければそれなりに苦労したでしょう。本当に人間でなければ素直に喜べたものを」

(聞いてて気分が良くないが我慢だ。ツンデレ的発言だと思えば耐えられないこともないような気がしないでもない)


遠いところを見る忠人。まあ仕方ない。


「で、連れてってもらえるってことで良いんですか?」

「……しっかりと働いてもらうぞ」

「もちろんです。その子を守ることに忌避はないですし」


……忠人はそれに、なんかその子のこと気になるんですよね、と小さく続ける。


白い髪、壊れそうな身体。見覚えのない少女なのにとても大切な、なにか親しい人物のような、まるで自らの幼い頃の写真を見ているような。

忠人はそんな感覚を覚えていた。


「……では団長、彼の扱いも決まったところで行きましょう」

「そうだな」

「よろしくお願いします……あと出来れば名前で……いえ、なんでもありません」


階段を降り始める一行。

彼、と呼ばれているのを不満に思いながらも忠人はあたりに気を配りながら二人を追う。


「ええと、アスターさんでしたよね」

「ああ、何か用か、人間?」


敵意こそないものの冷たい距離の感じられる声でアスターが返答する。


「誠に言いづらいのですが……」

「なんだ?」

「いざという時剣を貸して頂けませんか」

「むぅ……剣を、か」


歯切れの悪い答え。

いまはモップであるため急に忠人が敵に回っても致命的な攻撃手段がない。しかし剣を渡せばどうなるか……それがアスターを不安にさせる。


そもそも忠人はナイフを持っているためこの距離であれば十分アスターに致命傷をおわせられるのだが。


「それかその子をまたこの私に渡していただけないかと」

「それはならん!……こともない、か?」


前半は強く、後半は弱く。

忠人が少女をここまで守ってきた以上この少女に害を加えることはない。そのため全力で否定する必要はない意見なのだ。


「もし私と私の武器(モップ)では力不足だと思われた場合は剣を貸していただくかその子を私に預けて戦闘に参加していただくのが最善かと」

「……一理あるな、しかしーー」

「やめておけ」


突然ビオラがアスターを遮る。その強い声色に一瞬沈黙が流れた。


「いや、人間。お前に剣を持たせたくないわけではない。お前では剣が持てないだろうと思っただけだ」

「あ、なるほど」


納得する忠人。

剣が持てないとはもちろん額面通りの意味ではない。刀剣類は日本刀で1.5Kg、西洋刀は種類にもよるが大体2〜3Kgの重さである。持てないことはない。


おそらく持ったこともないものを持たされても振り回されるだけだとビオラは言いたいのだろう。


実際忠人では金属バットですら全力てまなら20回のうちに体力が限界となる。腕力に関して言えば壊滅的なのだ。夜梨忠人という人物は。


「あまり格好はつかないがそのモップで戦っておけ。先ほどまでと同様迎撃と牽制紛いで構わないからな」


親切にしては辛辣すぎませんかねぇ、とボソッと呟いてへっ、と笑う忠人。さすがに気分が悪い様だ。















「気分が悪いです」

「ああ、同意しよう」

「……」


上から忠人、ビオラ、アスターの順である。


「ウルルルルルゥゥウアアアアアアアッ!エルフッ!エルフゥッ!」

「なんかすごいのがいるんですが。なんて言うか、復讐の悪鬼みたいなのが」


三人の視線の先で荒れ狂うゾンビと言うより、鬼。

死体であるがゆえに青白くなったはずの肌は黒く染まり君の悪い色になっていた。


「……ノーライフリベンジャーか」

「こいつがおそらく……」

「ああ、転移封じの障壁を張っているのだろう」

「厄介な……」


本当に面倒そうに剣を引き抜くビオラ。それもそうだろう。自身は多少は回復したとはいえ魔力がなく、アスターは万全ではない。しかも護衛対象とギリギリ戦力に入らない身元不明までいるのだ。


「アレをなんとかするんですか?……見つからないようにここから抜ければーー」

「そうもいかない」


「エルフゥッ!?エルフゥッ!キサマラァ!」


「もう見つかってしまったようだ」


黒い肌の迷惑な死人ノーライフリベンジャーが襲い掛かってきた。

魔法名とかモンスター名とか思いつかないもんです。


ところでみなさんモップとかほうきとか振り回したことありません?小学生とかのときにそれで女子に「ちょっと男子ぃ〜」って言われる一連の流れ。


経験ありません?

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