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ようやくの自覚(アホの扱い方)

ゾンビに襲われている人を見てつい壁に立てかけてあったモップを蹴り放った忠人だったが、


「……あ、やべぇ」


ものすごく後悔していた。


なぜなら見覚えのある騎士とおそらくその仲間に襲いかかっていたゾンビが全てこちらに向かってきたからだ。


忠人のあずかり知らぬことだったがゾンビは比較的弱い者を優先的に襲う傾向がある。魔法も使えず武装もしていない忠人とその腕の中で眠る少女。

狙うならこいつら!みたいな状態で相手の注意を引いてしまったわけである。


「“アサルトファイア”!」


忠人が逃げる前にゾンビは灰となった。目の前に飛んできた炎に飲み込まれて消える。


正面の敵が消えたのを見て油断なく彼らに近づいていく。助けた亀に連れられて竜宮城に行けるとは限らないのだ。


助けた相手がすでに自分に攻撃した前科持ちなのだ。しかも警戒しても殺られる可能性が大きい。さらに人数も増えているときている。

危険度はさらに高くなっているのだ。


しかし頼れる人物が他にいないのも事実。甘めに見て忠人個人は気合と根性でなんとかできるかもしれないがこの少女はどうやっても無理だろう。


「……やぁ、お久しぶり」


少なくともこの子は保護してもらいたい。そう思って忠人は彼らに近づいていく。


「……頼みがあるんだけど」


できる限り友好的に映るように。ゆっくりと。


沈黙。忠人の足音だけがやけに響く。


「……」

「……」

「……」


忠人は少し笑って口を開く。その表情には負の匂いはなく何処となく安心感がある。


もともと夜梨忠人という少年は人に忌避感を与えにくいような顔立ちであり、またそう言った立ち振る舞いを心がけているため人から避けられるということはまずない。


そしてその面を全面に押し出せば交渉ができないことはなかった。


「この子を保護してくれないか?」


ーー今までは。


良くも悪くも異世界に来た、ということを薄々は気づいていても完全に自覚してはいるわけではない忠人。

自らが生きるか死ぬかの線上を綱渡りしているという感覚が足りていない。


「黙れ!さっさと失せろ人間!」


見覚えのない方の騎士に厳しい言葉を向けられる。


「頼むよ。俺ではこの子をーー」

「黙れと言っている!……っ!」


忠人の声を遮ったところで急に崩れ落ちる見覚えのない騎士。


「アスター!無理はするな!」


どうやらあの見覚えのない騎士はアスターと言うらしい。そうあたりをつけると忠人はさらに近づいていく。


「……負傷しているようで。もし良ければお治してさしあげますが」


口調が若干攻撃的になっているがそれでもできるだけ譲歩するようにそう提案する。


「……団長!あんな人間の言うことを聞く必要は……」

「……頼む。ただ、怪しい動きをすれば即座に殺す」


背中からぶすり、かい?とつい口にしそうになるが抑える。ここで下手なことを言えば白い髪の少女が保護してもらい難くなる。


「……では、治す間だけでもこの子をお願いします」

「……良いだろう」


いつ再びゾンビが襲いかかってきてもおかしくない。どうなるにせよ結果が出るのは早い方が良い。


忠人はそう思って名前のわからない騎士に少女を渡した。


「……!?」

「どうかしましたか?」


妙な反応。視線は少女の耳に向けられている。なんかまずかったんじゃないかと忠人は思った。


「……いや、なんでもない」

「……そうですか」


一瞬、二人の視線が交錯する。お互いにお互いの腹を探るようなそんな視線で。


「……治します。傷見せてください」

「……」


なんだよ会話しねぇのかよ、と内心毒づきながら忠人はアスターが肩の鎧を外すのを待つ。


「早くやれ」

「……わかりました……“快癒の御手”」


後ろでこちらを見ている騎士にも見えるように手を挙げ“快癒の御手”を使う。


忠人の右手が体内の何かが集まって抜けていく感覚とともに光り出す。


「……さあ、治れ!」


そう言いながら傷に触れるとみるみるうちに傷が塞がっていく。1分もかからぬうちに傷はあったとすらわからないレベルまで治癒していた。


完全に塞がったと見るやいなや立ち上がるアスター。


「……これは……」

「じゃ、これで良いですね」


信じられないとばかりに自らの傷があった場所を触っている。


そんなアスターのことは無視して忠人はもう一人の方に向き直る。若干息が荒いのは“快癒の御手”を使ったからだろう。


「で、どうするんです?その子、保護してくれるんですか?」

「……本気か?」

「は?信用を得るためにわざわざ傷まで治したんです。本気じゃないわけないじゃないですか」


いつ、また新手のゾンビが現れるかわからない。それなのに本気かどうかなどという質問に少しイラつく忠人。


「アスター、この子を預かってくれ」

「……はい……えっ!?」


手渡される少女。その子を見て驚きを隠さないアスター。


「……本当に我々ーー森人族(エルフ)ーーにこの子を渡すのか?」

「渡す」


即座にそしてはっきりと答える忠人。それは迷いのない答え方だった。


(……えるふ?え?ちょ、まじで?えるふってエルフだよな?エルフってあの魔法系統の才能がありえないほど高くてゲームではバランスを取るために紙装甲にされがちな引きこもり種族にしてある意味日本人のロマンでもあるあのエルフだよな!?)


ようやくここが普通な場所ではないことを察する忠人。というか“エアブリット”だったり“快癒の御手”の時点で気付け。


「……おい!聞いているのか!?」

「え、はい!新明高校二年、夜梨忠人です!」

「……何を言ってるんだ?」

「あ」


つい、自らの高校名を口走る忠人。いくら何でも動揺しすぎである。


「……部下の傷を治してくれて感謝する。私の名はビオラ・ウォーキンスと言う……聞いているか?」

「え、あ、はい!どうぞよろしくお願いします!」


あわあわしている忠人。その様子を見て毒気を抜かれる二人。


「と、とりあえずあれです!その子のことを頼みます!」


なぜか手をぐっと握ってそんなことを言う忠人。自身も危険だということは頭から抜け落ちていた。


夜梨忠人、この男意外とアホである。


「……アスター、どう思う?」

「……いえ……所詮人間ですし……しかし、敵とは見受けられないですが……ただ、演技と言う可能性も……」


ひそひそと忠人(アホ)の扱いを相談する二人。

そんな二人には気付かず忠人は落ち着くために深呼吸を繰り返していた。


「……ええと、それで、その子はいったい何者なんですかね?」


もうどんな態度を取っても素が割れているだろうと丁寧語こそ外していないもののいつも通りに話しかける忠人。


「……いくらお前がこの子を助けてくれたとはいえ人間をそう簡単に信用することはできん」

「……信用できぬゆえ仕方ない。感謝はしているーー」

「そうそうそれで良い」


腰の剣に手をかけたビオラに対して笑顔で手を振る忠人。


「非常にベタなセリフになるけど言わせもらう。()()()()()()()()()


モップを拾い上げた忠人が振り向いたその先には複数のゾンビがこちらに向かって突撃してきていた。

忠人「いい加減着替えたい」

ビオラ「こちらもそれは同じ思いだな。汗とか血とか……」

忠人「え、ちょっと近づかないで」

ビオラ「刺すぞ」







テスト期間のあれこれでしばらく投稿できないのでとりあえずこの話を。暇を見て書いて頑張って更新します!

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