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プロローグ(殴打)

初!連載作品!応援よろしくお願いしまーす!

一人の少年が息を荒げ建物の廊下をまさに必死な様子で走っていた。

着ている学ランの左肩は何か鋭利な刃物で切り裂かれ少年の血が流れ出している。


建物に人気はなく少年の足音が廊下に只々木霊する。窓の外には必死に足を運ぶ少年を嘲笑うかのように美しい満月が空に浮かんでいる。


少年がちらりと月を見たーー。


直後、少年がつい先ほどまで立っていた場所を何かが通り過ぎる。


少年が目をやると廊下の突き当たりの壁にその何かはぶつかりーー壁を爆散させた。凝った装飾の施された壁が台無しになり飛び散った石片が宙を舞う。


「またこれかよ……」


少年は何かを呪うようにそう呟く。


廊下の向こうを見やれば案の定全身甲冑の人影が走ってくる。その右手は何かが通り過ぎたその直線上に位置していた。


少年の常識からすれば人間が飛び道具無しで遠くのものを破壊するなどーーしかもその攻撃は不可視ときているーーあり得ないことだった。


少年が壁に目をやっている間に鎧姿の人物は右手を僅かに動かす。


普通ならその動きを少年が気づくことはなかったろう。


しかし鎧姿の人物が足を止めて生まれた静寂。


そして死を感じ研ぎ澄まされた少年の五感はその微細な動きが発生させた音を聞き取った。


反射的にたまたま開いていた扉に飛び込む。

とその後ろを再び何かが駆け抜けていく。


炸裂音。


少年が飛び込んだそこはいわゆる食堂と呼ばれる場所だった。パッと目を走らせると複数の質素なテーブルと椅子が並び奥には厨房らしきものが見える。


少年は奥まで進むと近くにあった椅子を手に取る。木でできたそれは少年でも軽く持ち上げることができた。


収まる気配すらない心臓の鼓動を煩わしく感じながら少年はどうしてこんなことになったのかを思い返していた。


◆◇◆◇◆◇


数時間前、地球、日本。


「ありゃ?借りられてんのか」


図書館にあるパソコンで本を探していた学校帰りなのだろう、学ランに身を包んだ少年は思わずそう口に出していた。


今は12月末。学生にとって小休止である冬休みだ。2週間ほどしかない休みの中で現役高校生は部活に宿題に忙しい。


そして彼もまた課題として出たレポートを書くため部活帰りにその資料を探していた。


「ったく。学生の切り札、某ネット辞典と知恵の袋を封じられたらレポート2週間で書けるかってのー」


借りようとした本もなく諦めて自分で楽しむための本でも探すかなと少年、夜梨忠人はリュック片手に妙に滑らかに席を立つ。


「ちゃら、らんらら、ちゃららら、ちゃらららー、ちゃららー、ちゃららー、ちゃら、ちゃららー」


上機嫌に鼻歌を歌いながら当て所もなくおもしろそうな本を求め歩く。しかし歌っているのは『一週間の歌』である。流行りの歌ではないところがそこはかとなく少年の残念さを醸し出していた。


「あれ?こんなとこに部屋なんてあったっけ?」


怪訝な表情をして忠人が足を止める。そこにはひとつぽつんと部屋があった。


窓から太陽の光が差し込み本棚を照らしている。何度も通った図書館に知らない部屋があったことに驚きつつ気がつけば忠人は吸い込まれるようにその部屋に足を踏み入れていた。


「この本棚の本、全部題が書いてないな」


忠人はふと目についた一冊の本を抜き出す。臙脂色の背表紙に何か重みを感じさせる本だ。古めかしい割に傷は無く手触りも寧ろ良く手に馴染む。


初めて見た本なのに忠人はその本がまるで一度も手放したことのないもののように。自分の手の内に収まっていることが当然であるもののように感じていた。


一度本を本棚に戻しリュックを背負い両手を自由にすると再び手に取る。そして深く考えもせずその本を開いた。


バタンッ!!


突如として開いていたはずの部屋の扉が風もないのに大きな音を立て閉まる。


気がつけば射し込んでいたはずの陽の光も消え部屋には不気味な暗がりに包まれていた。


咄嗟に手に持っていた本を窓に投げ付けるがその本は窓に届くことはなかった。


しかも信じられないことに空中に浮きだしたのだ。


そしてさらにあり得ないことに本がひとりでに開き見たことのない光り輝く文字が帯になり飛び出してきた。文字は忠人の周りで取り囲むように輪を描く。


その光景は忠人の思考を奪うのに十分に現実離れしていた。それでも理解できない状況への恐怖から忠人がその文字が作る円から逃げ出そうとしたそのとき文字の光がより一層輝きを増した。


何かが擦れるような音が鳴りそれに連れ輝きもさらに増していく。


後ずさりしようとするものの金縛りにでもあったかのように足が全く動かない。一瞬だけ音と光が弱まったもののまた持ち直して。


そして輝きが最高潮に達し----











----光が収まったときには忠人の姿はなかった。この図書館にも。この国にも。この世界にも。


淡く光りぽとりと本が床に落ちる。その音がより静けさを際立たさせる。


そして誰にも気がつかれることなく閉まった扉は溶けるように消えた。



◆◇◆◇◆◇



目の前を覆い尽くしていた光が消える。

忠人が目を開いたとき、そこは既にあの部屋ではなかった。さらに言えば図書館ではなかった。もっと言えば彼が知っている場所ではなかった。


辺りを見回せばパルテなんとか神殿みたいな柱。上を向けば世界史の教科書に乗っていたベルうんぬん宮殿みたいな凝った装飾。流石にシャンデリアは無いけれども。そして下を向けば国会なんちゃら堂みたいな大理石の床だった。


(なんだコレ。中世ヨーロッパかよ)


そんな感想を真っ先に抱くような内装だった。忠人にはこんな場所が図書館に会った覚えは一欠片もなかった。


そして一番重要だと思われること。

床の大理石になにやら溝が彫られていたのだ。


その溝はどうやら忠人を中心に彫られているようで最遠部は円を描いていた。そしてある方向から一本亀裂が入っておりそれが完璧な円を台無しにしていた。


「これはいったい……?」

「そこのおまえ!」

「え?」


声が広間に響きわたった。

亀裂の先に視線を向ければ先ほどは気がつかなかったが暗がりにひとつ人影があった。暗がりに立っていたから気がつかなかったとも言えるが。


「尋ねたいことがある。おまえはどんな人間だ?そして奴はどうしている?」


鋭い声で人影が問う。

雲が切れたのだろうか、窓から月の光が射し込んできた。その光に依ってようやく人影の全身が見えた。


その人物は丸みを帯びた甲冑に身を包んでいた。フルフェイスの兜を被っているため顔は見えない。


細身で忠人は自身より背の高い人物だと判断した。ーー忠人は高校生基準で言えばかなり背の低い方で女子とどっこいどっこいだが。


(だいたい距離は俺から20メートルくらいかな……。そんなことよりも問題はアレだよな)


忠人が問題としていたのはもちろんその人物が右手に持っていた剣だ。月の光で薄ら寒い光を反射している。彼はそれが模造品であることを祈った。


「早く答えてくれないか?」


再び甲冑から鋭い声が飛ぶ。

そのあまりの迫力に忠人の身がすくむ。心臓の鼓動が速くなり、先ほどまで好調に回転していた思考も停止する。


当然だ。相手はつい先ほどまで殺し合いをして来た強者とでも言うべき人物なのだ。喧嘩すらさほど経験したことのない少年には強烈過ぎた。


「……ぁ……う……」


いくら喋ろうとしてもカエルが潰れたような声しか出てこなかった。完全に威圧されてしまっていた。殺されるかもしれないという事実が忠人の恐怖を加速させる。


「答えろと言っている!」


剣の先端が忠人に向けられる。口から出る言葉もより圧を増す。明らかに近づく死の足音に呼吸が浅くなる。


そして忠人はーー






















ーー自分の額を思いっきり殴った。

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