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出立前

本編第二章開始です。

遅れて申し訳ありません。

これからは2日ペースに戻します。

これからもSaLaをよろしくお願い申し上げます。

鮮やかに彩られた花々が草原を染め上げ、人々の目を奪う。

爽やかに吹き渡る春の暖風は、人々の髪をたなびかせる。

生き物が一様に活発になるこの季節。

セイトたちにも大きな転機が訪れようとしていた。


偵察隊が発見の報とともに領内へ帰って来たのとキャンプから父が帰って来たのは、一緒だった。

「おお、セイト、レイヤーになったか」

「おかえり父さん。どうだった?」

家に帰って来て、そう話した後ん?と目をはって

「どこのお嬢さんだ?」

台所に立つクロハの事を尋ねた。ここに来て以来料理はクロハに委ねられた。たまに俺も手伝うけど。

トントンとリズミカルな包丁の音を響かせて手際良く料理の手を進めていくクロハは男2人の視線に気づいていない。

「ファルト族のお嬢さんか?」

ポツリと零した父の言葉には驚いた。

「分かるの?」

ん?ともう一度同じ返事をした父は

「なんとなくだよ」

と真意の掴めない返事をした。そこでようやくこちらに気がついたクロハは、父にぺこりと頭を下げてそのまま手を休めず支度を再開した。

「うんうん、いい子じゃないか。母さんが気に入ったのも頷けるな」

はっはっはっ…と笑って自分の部屋にすっこんだ父の後ろ姿にセイトは不思議な心の広さをなぜか感じた。


「あ」

夕食を終えた一家は、父のキャンプの話を聞きながらお茶を飲んでいた。どんな無茶な依頼をされた、どんな意地悪な依頼を受けた、などと他愛もない土産話をクロハも面白がっていたようだ。

急に話をやめた父が前述した感嘆詞を零して、

「そういえば、お前への土産があったな。鍛冶屋の親父に明日もらいに行け。明後日には出るらしいぞ」

「出るって?」

思わず聞き返してしまった俺だが、その直後に答えに至る。

「ああ。討伐か」

偵察隊によって発見されたバルキュリアドラゴンの討伐クエストの発動は明後日に決まっていた。このシルフでも久々の大規模クエストの実施になるため、領主ファティオをはじめとした執行部も慎重にならざるを得なかった。そんなこともあって、発見から2日という余裕を持った日程を組むことでこちら側の損害をなんとか減らしたかった。

しかし、なんだろうか。父の土産はいつも下らない玩具であったから、今回のように鍛冶屋で受け取れなどと大層なことを言われれば、期待するなという方が無理な話であろう。しかしながら、餓鬼ではないので、その日楽しみで眠れないということはなかったが。

さて、話がひと段落して父の寝るか、というセリフで各々眠りについた。

月明かりが薄く差し込む部屋のベッドでぼんやりと考え事をしながらうとうとしていた。大規模討伐には、犠牲はつきものだと父は過去に言った。しかし、モンスターに殺されて幕下ろす人生は満たされたものなのだろうか。無論、相打ち上等という人もいる。実際に、クロハを助けたときは相打ち上等という気でいた。ここで言っておくが、セイトは哲学者ではない。依って、この疑問に解がないことなど分かり切っていた。されど、一度はまった思考の渦から抜け出せず、グルグルと沈むうちに眠りに入っていた。

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