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プロローグ

初投稿です。

びっくびくです。

お手柔らかにお願いします。

「ここから逃げる方法が一つだけあるわ。」


気の強そうな眼と後ろに束ねた金髪が印象的な少女がささやく。


「そんな手があるなら最初から言ってくれ。」


燃えるような赤い髪を持つ少年は声をひそめながらも期待が隠せないのか強く言う。


隣の褐色の肌に短く切った黒い髪の少女もうなずいた。


「従属術式を外す手があるなら早く言ってほしい。」


「ごめんなさいね。言わなかった理由は二つあるの。一つは逃げられるタイミングを見るためよ。ばれたら元も子もないわ。」


そう言って窓から外を見る。確かに今日は新月で外も暗い。


「もう一つは、従属の術を消すわけではないからよ。もっと強い術で上書きするの。結構なリスクがあるわ。それでも聞く?」


「へっ、今よりひどい状況なんてそうそう存在しないんだ。のるぜ。」


「奴隷として一生を過ごすくらいならどんなリスクでものむ。だから、説明してほしい。」


そんな赤髪の少年と黒髪の少女をみて金髪の少女は満足げにうなずいた。


「これは禁術の一つ。自分の未来を他人にゆだねる術よ。」



***



初夏の日差しがさんさんと降り注ぐ中、帝国第2軍軽装騎馬隊の人たちは聞きたくもない演説を聞かされていた。


「こんな暑い日に長話。戦意高揚なら直前で良いのに。」


赤髪の少年グレンは隣にいる同僚にぼやいた。


「だから、直前にやってんだろ?あいつら前にゃ出てこないんだからさ。」

グレンと同じ部族から来た少年は肩をすくめて答える。うんざりしたような顔は決して気のせいではない。


周りを見渡せばグレンたちと同じようなうんざりした顔の人たちがそこかしこに居る。


そんな様子が演説人に伝わったのか、彼はさらに声を張り上げた。


「……であるからして!!我々栄光ある帝国軍は!!かの王国の攻撃に屈せ……」


「なーにが『我々栄光ある帝国軍』はっだ。戦うのはクトラじゃないか。」


そうつぶやく前のおっさんを見ながら、グレンは苦笑した。


彼らクトラ族は30年前にエイジア帝国に正式に参入した帝国の中では比較的若輩と呼ばれる部類の一族だ。


元々遊牧の民だった一族の馬を駆る技術は高く、南方諸王国との小競り合いにおいて頭角を現した。


そのため軽装騎馬隊のほぼすべてはクトラに連なるものと考えていい。


そもそも『軽装騎馬』という兵科が帝国の中にできたこと自体クトラが活躍したからという。


そんなわけで、今でも比較的年季の入ったクトラの騎馬兵は帝国の傭兵みたいな気分で戦う人は多い。


頼りない帝国に力を貸している誇りのあるクトラの一族と言う訳だ。


グレン自身もクトラに誇りはある。ただ、帝国に染まりきった世代であるのか親の教育によるのか、クトラの誇りと言うよりも、『帝国の』クトラの誇りであることの意味が強い。


「……では、作戦の成功を祈る。」


そんなことを考えていると、満足したのか参謀長だかなんだかの話は終わり段を下りて行った。

代わって上がってきたのは軍団長である。


周辺国と小康状態の中、もっとも小競り合いの多い第2軍を統率している風格にグレンは反射的に背を伸ばす。


「今回も敵の様子見だと思うが気を抜くな。10人隊ごとに支給品を取りに来るように。では、解散!!」


熱い中の兵隊の気持ちが分かったのかどうか、軍団長のあいさつはすぐに終わった。


「おいグレン、行こうぜ。」


「おう。」


隣の少年に対して返答しながら、支給品受領所へ歩き出す。


支給品を受け取る等の雑用を受けるのはいつだって小隊で一番若いもの、つまりグレンや隣の少年だ。


今回も早く終わって帰ってこれるといいな。家族の顔を思い浮かべながらグレンはそう思った。



***



「親と上司は選べないというけど。これは考えうる限り最悪だわ。」


金髪のマリーは自分の不運を呪っていた。

上司が無能なら我慢できる。舐めるような目で見てくるのもまあ無視できるだろう。尊大で部下のことを何とも思わないのもどうにかなるかもしれない。


だが、我らが上司の参謀長閣下は全てを兼ね備えていたのだ。


周りもごまをする輩ばかりで第2軍参謀本部はまるで機能していなかった。


今も『戦勝の報告書を書いておけ。なあに、今まで通り負けんさ。いくら帝国に騎士も魔法使いもいなくとも、こちらの兵は敵の5倍以上だ。報告が届き次第送れるようにしておけ。わしは戦勝の前祝いで忙しいからなあ。』などとマリーに伝えて来た。


そんな上司でも上司である。言われたことを成さなければならない。


首都の参謀学校に合格したマリーを笑顔で送り出した村の皆の為にもそう思ったマリーは気合を入れてもう一度報告書を書き始める。


「……アリンダス渓谷を進軍するグルルガン王国の重装歩兵隊2000、軽装歩兵5000重装騎士1000魔法兵100に対してわが軍は軽装騎馬2000を先行させ、特殊工兵隊500を要所に伏せることで遅延作業を決行。敵の進軍を調節することでオリン平原に誘導することに成功した。そこを本隊である……」


つらつらと現在の作戦と敵の兵力、味方の兵力から予想される未来図を描き上げていく。


グルルガン王国はいつもちょっかいをかけてきているため、過去の情報から意外と簡単にできた。


過去と違うのは魔法兵100と言うところだろう。


「それにしても変ねえ。グルルガンも方針を転換したのかしら。」


少し引っ掛かりを覚えてつぶやく。


剣の国と称されるグルルガンが魔法……というよりは飛び道具全般を嫌うのは周知の事実だ。


だからこそかの国騎士は身体強化に全ての魔力をつぎ込むことで難攻不落を誇る。


「まあ、100程度の魔法兵じゃ戦場に影響は少ないか。早く終わらせなきゃ。」


そう独り言を話しながら、報告書を仕上げることにかかる。



***



「敵、予定到達地点に到着。狙撃開始。」


黒髪のアクラは後方に情報を伝えながら自らも弓を構える。


帝国第2軍特殊工兵隊第5小隊が彼女らの部隊である。


今の彼女らの仕事は敵につかず離れずにいる軽装騎馬隊の援護だ。


道々に仕掛けるた罠や指揮をしているとみられる兵を狙撃することで敵の行軍を遅延させ、本隊に有利な場所で会戦出来るようにすることである。


「相変わらずいい仕事だな。」


騎馬隊が釣りだした敵を一矢で仕留めると、後ろから声がかかった。


「作戦行動中は私語禁止。」


「はは、すまんすまん。それにしても遅延作業ももう3日か。明日にゃ開放されそうだな。」

話しかけてきた男は肩をすくめながらも話すことをやめない。


アクラはため息をついて話を合わせる。


「オリン平原でも弓兵として仕事がある。開放はされない。」


「歩兵隊の後ろから安全に撃つだけだろ?こんなにびくびくしなくて済むじゃねえか。」


「否定はしない。」


こんな会話をしていても、彼らの手は止まっていない。


一言話すたびに王国の兵が命を散らしていく。


もともと猟師だった彼女らにとって弓を引くことはごく自然な行為であり会話しようが実は大して効率は変わらないのである。


「そういえば、第一小隊がみたっていう魔法隊が見えねえな。わざわざ対魔法符支給されたってのによ。」


「使わないに越したことは無い。」


そう返しながらも彼女は魔法隊が見えない理由が分かっていた。


たび重なる侵攻でこちらの戦術を研究されたのだろう、敵は被害が出てもよい農奴によって構成された軽装歩兵隊を前面に押し出している。


だから正確には魔道隊『が』見えない訳ではなく、魔道隊『も』見えないが正しい。敵もバカではないのだ。


「でもおかげですごく楽。」


「なんだあ。」


「何でもない。」


そう返しながら黙々と撃つ。今回の仕事は楽だったなと思いながら。



***



第3次オリン会戦は帝国の敗北に終わる。

極秘裏に魔法の研究に優れたシェリオン王国と手を結んだグルルガン王国は100の魔法師を扉にしてシェリオン本国より大規模な儀式術式を発動、帝国軍は壊滅となった。

会戦の敗北を知った周辺国家はこぞって帝国に宣戦。以降帝国の各軍は防戦一方となる。

なお、第3次オリン会戦は戦場で攻撃の為に『ゲート』の魔法が使われた最初の会戦であり、帝国伝統の弓兵による魔法師に対する先制飽和攻撃で防いできた戦術が破綻した瞬間であった。


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