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美食家

作者: R-太朗

すんげー適当にぱぱっと書いたから失望されるかもしれませんね苦笑

 誰しにも食事に関して好物の一つぐらいは持ち合わせているだろう。

 叶うのならば、三食すべて好物で腹を満たしてみたいと思ったことはないか。

 朝、昼、晩――その好物だけを食う。なんと欲に忠実な願望だろうか。そして、この願望は決して手の届か願いではないだろう。妥協さえすれば概ねこの願いは叶うはずだ。三大欲求のうちこれほど叶えやすい願いもないだろう。

 ――しかし、これが三日と続けばどうだろう。さしもの好物といえど、飽きて見ることにすら苦渋を伴うのではないか。

 三日、一週間、一月、半年、一年―――果てには一生に渡り永久に続くとしたらどうだろう。

 その好物に嫌悪を抱き、憎悪するのではないか。気が滅入るどころの話ではない。絶望すら感じるほどの既知感に満ちた食事。

 ――仮に、どんな好物を口にしようと、どんな下手物を口にしようと食事をとる度、この既知感を伴う食生活しか送れない人間がいるとしたらどうだろうか。目の前に並んだ料理が昨日も食った。三日前にも食った。――ああ、もしかしたら自分は一生涯、この料理しか口にしたことがないのではないかという、否、口にできないのではないかという恐怖。

 ならばどうするか、どうすれば真に充たす食事を口にできるか。腹を満たすのではない。欲を充たすのだ。

 ――答えは簡単だ。すべての食事に既知を感じるなら今まで口にしたことがない未知の食事を口にすればいい。或いはその中に欲を充たすモノが存在するかもしれない。



 ここに、男がいる。彼こそがその既知の食事に縛られた哀れな美食家(グルメ)である。名は、そうだな――グルメ、とでも呼んでおこうか。

 グルメは財だけは持っていた。生まれてこの方、部屋から一歩も外を出ずに世界中の料理をすべて味わうほどの莫大な財を。故に彼の舌は古今東西いかなる料理だろうが知らぬ味はない。西に珍奇な料理があると耳にすれば直ち口にし、東に大層美味な料理があると耳にすれば口にした。だが、どんな料理を咀嚼しようとグルメが充たされることはなかった。

 今日もグルメの眼前にはどこかから取り寄せた未知な料理が所狭しとならんでいる。グルメは今度こそはと嬉々とした表情で未知な料理を口に運ぶ。が、嬉々とした表情はそこで色褪せた。

 

 ”嗚呼、これもか……”


 彼はそこでフォークとナイフをテーブルに戻し、使用人に料理を下げさせる。下げられていく料理はすべて一口、口にしただけ。例外はない。

 だんっ、とテーブルが大きな音を立てた。やり場のなにグルメの怒りがテーブルを打ったのである。本日の料理も彼の欲を充たすには至らなかった。使用人の女はさして動揺することもなく、慇懃な動作で並べられていた料理を次々と下げていく。彼女の主がこのような行いをするのは別段珍しいことではない。ただ、今日のグルメはいつにもまして消沈している様子ではあるが。

 グルメは頭を抱え苦悩する。なぜ口にする料理すべてに飽きるほどの既知感を伴うのか。今日並んだ食事もどれも初めて目にする料理ばかりだ。なのになぜ……!

 グルメがいつにも増して落胆するのには理由があった。今日運ばれた食事で世界中にある料理全てが一通りその舌を通ってしまったのだ。これでこの世界に彼を充たす料理が存在しないことが証明されたのだ。

 「――っ」

 使用人の女がすべての料理を荷台に運び終えた時、女の口から苦痛の声が漏れた。最後の皿を運ぶ際、つい指を切ってしまったのだ。女の指先から赤い雫が零れ落ちる。

 グルメはその様子をぼんやりと眺めていた。だが彼の双眸はこれまでにないほど爛々と輝いていた。グルメは静かに、使用人の女の下に歩みより女の傷ついた指先に舌をあてた。傷口を舐める、という行為はさほど珍しいことではない。ただ、それが主と使用人という立場でなければ。

 滅多に同様しない使用人の顔に憔悴の色が浮かぶ。女が知る主は決してこのようなことをする人物ではない。その主が貪るように自分の指を舐めているのだ。――血の気が引いた。微々たる出血によるものではない。主に行為に対してである。女は自分の立場忘れ主をふき払う。けれど女の細腕ではグルメと女の距離を遠のけることはできなかった。一息の間につめれる距離でしかない。

 強引に弾かれたグルメの視線は呆然と宙を彷徨っていた。使用人の意に反した行動にではない。ただ、今に口にしたモノが自己を見失うほど美味しかったという事に対してだ。舌先に残ったかすかな味を味わうように何度も何度も口の中で舌を弄ぶ。グルメは舌先に残った味が完全に消失するとグルリと女に向き直った。グルメの思考を占めていたものは美味という言葉だけだった。今まで口にしたどんな料理よりもそれは美味だった。


 グルメは古今東西あらゆる料理を口にした、だが、彼を充たすモノは存在しなかった。今目の前にある食物以外は――


……Fin

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字は多い。しかしながらそんな事気にしなくなるスムーズな話の流れで、終わりも、おっと、と感じさせる物。良い形の小説になっている。
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