8頁目 先輩達
授業中なので、行き交う人は一人もいない。
「桜莉ちゃんかぁ…可愛かったな。」
自分の教室の前まで来て、ドアを開ける。
自分のところに一斉に目線が集まるのも気にせずに席へと向かう。
が、先生に止められた。
「齋藤!何をしてたんだ!もう、授業は終わりだぞ!」
「あれ?先生、まじですか?あちゃー、時間配分間違ってた」
失敗、失敗と言いながらまた席に向かう。
「おい!まだ終わってないぞ!」
「じゃぁ先生はー、泣いてる女の子をほっとけって言うんですかぁ?」
「うっ!まぁ、いい!今度はないと思えよ!今日の授業はこれで終わりだ。次の授業までに~と~を終わらせておくように」
「きりーつ、れー」とやる気のない当番の声がした。
「なぁなぁ、龍。聞いてくれん?」
授業が終わったことを良いことに隣の倉敷龍に話し掛けた。
「何をだ?」
「今日さぁ、登校中にかわいいこにあったんだよー」
「あぁ……」
「何だよー、他に感想無いのかよー」
「無いな。お前の『かわいいこに会った』を聞いたのが何回目だと思う?」
「えぇー、何だよ、それ。人を何だと思ってるんだー」
「無類の女好きだが?」
「ちょっ、それ。語弊があるから俺は女好きじゃなくて皆に優しいのっ」
「前もそう言ってなかったか?」
「だから、全部誤解だってば。今日の子は本当にレベル高かったなぁ……天宮桜莉っていうんだって。」
「天宮?昨日弓道に来ていた。」
「えっ!?まじで?何で言ってくれないんだよー、親友だろ~?」
和巳が両手で顔を覆って泣いてるふりをする。
「親友になった覚えはないが?」
「うわっ、ひでぇ。あの夜の事は遊びだったのかよっ!」
「遊びも何もした覚えがない。」
「なぁに話してんのっ?」
和巳と龍の会話に入ってきたのは香澄だった。
「香澄ちゃぁんっ今日も可愛いねぇ~」
軽い調子で香澄の前で両手を広げた。
そんな和巳を無視して龍の机に手を置いた。
「で?何の話?」
余談だが、龍、和巳、香澄は3-Bで同じクラスだったりする。
「…何で俺に聞く?和巳に聞け」
そう答えると目を読んでいた本に移した。
「え~!だって和巳うるさいんだもんっ」
「香澄ちゃんひでぇ!」
いかにもショックだという顔をつくる和巳。
「…仕方ないなぁ。で?何の話してたの?また女の子の話?」
「香澄ちゃんまでそんな事言うのっ?ショックやわぁ…」
少し肩を落としてから話始めた。
「朝、学校来るとき可愛い女の子に会ったんだ~って話!」
「ほら!やっぱり女の子じゃないっ」
呆れた、と付け加えてため息をついた。
「いや!大事なのはここからでさ!その子、泣いてたのっ」
「へぇ~。で、和巳がハンカチでも貸してあげたと?」
「イエス!」
ニカッと笑ってそのハンカチをひらひらと見せた。
「涙付き!」
「引くっ!」
香澄は和巳との距離を置いた。
「引くなよっ!」
慌てて距離を縮めようと和巳は香澄に近寄った。
でも、和巳が歩を進めると同時に香澄も後ろに後ずさった。
すると、今まで黙って本を読んでいた龍が顔を上げて隣で茶番劇をやっている2人に声をかけた。
「…おい。もう授業始まるぞ。席につけ。」
「えぇ~龍、真面目過ぎるぞ」
「文句言わないの!次数学よ?」
ヘイヘイ、と和巳はダルそうに席についた。
(お熱いねぇ…香澄ちゃんったら。)
横目で香澄を見て、そんなことを声に出さずに言った。
3人がそんなやり取りをする前、桜莉はというと…
教室に入れないでいた。
(遅刻しちゃた…しかももう授業終わりそうっ)
半泣き状態で後ろのドアから教室を覗いていた。
(どうしよ…欠席扱いされちゃったよ…ね?絶対に…)