3頁目 部活決め
「部活かぁ…まだ決めてない。一週間あるから見学とかして考えるよ。」
勿論、文化系にするけど、と付け加えて鞄を手に取った。
「じゃあさ、弓道部入らない?」
満面の笑みで言われた。
思わず手を止めて蒼の顔をガン見した。
蒼は気にもとめずにニコニコ微笑んでいる。
「…嫌だよ。やったことないもん。」
「大丈夫だよ。誰かが手取り足取り教えてくれるから。」
誰かが、という言葉を一瞬疑問に思ったが、今は疑問よりも嫌な予感の方が頭を占めていた。
「弓道は激しいスポーツとは違うからそんなには疲れないから、運動嫌いな桜莉にピッタリだろ?」
運動嫌いは余計だ!と思いながらも納得してしまった。
「蒼は弓道部希望?」
「だから誘っているんだよ?」
相変わらずの表情で…
(まだ友達とかも出来てないし…相手は蒼だけど知り合いがいないよりはマシ…まだマシだよね!)
頭の中で自問自答を繰り返しながら考えた結果…
「仕方ないから見学は行ってあげるよ!まあ、入るかどうかは別だけどっ」
腕を組んで意味もなく偉そうに言ってみた。
どうよっ?と思いながら蒼の様子を窺うと相変わらず微笑んでいるだけだった。
「いいよ。入る気にさせてあげるから。」
「ほ、ほぉ?楽しみだね…」
やけに自信満々だな…
でも蒼の言う事は大体その通りになってしまう。
「ほら、置いてくよ?」
いつの間にか教室のドアの方にいた蒼を追いかけて教室を出た。
「で?どこでやってるの?弓道部は?」
「ん?あっちの方かな」
廊下を歩きながら窓から校舎の端のほうを指される。
「遠いっ!!」
「ちょっと遠いかもね。まぁ、その分僕は桜莉と居れるからいいんだけど。」
クスリとこっちを見て笑う蒼に不覚にもドキッとしてしまった。
「わっ私は蒼と一緒なんて嫌だけど!」
プイッと蒼とは別の方を見る。
赤く染まった頬がバレないように…
(なっなんでこんなに緊張してんのっ、私。だって、蒼があんなこと言うなんて……わぁぁぁぁ/////……)
頭をブンブンと横に振る。
「どうしたの?」
「別に!!どうもしてないし!!」
「そう?いきなり、黙ったから。何緊張してるのかわかんないけど……あぁ、運動嫌いだから出来るか心配?」
ニヤリと笑って桜莉を見下ろす。
だから、運動嫌いは余計だから!と心の中で悪態付く。
「煩いな、そうゆうんじゃないから!」
「なら良いけど着いたよ、弓道部」
「えっ!?ここ?」
もう、既に矢を打ってる人の姿が見える。
(うわぁ、ちょっと格好いいかもってダメだって!見学に来ただけなんだから!)
グッと握り拳を作って決意を再度固める。
「桜莉?こっちだよ」
蒼に導かれて入り口に向かう。
(ん?あれ?そういえば…)
「蒼は弓道できるの?」
「出来るよ。小さい頃からやっていたんだ。」
「じゃぁ、何で中学のときに部活入ってなかったの?」
中学の時は私は帰宅部だった。
登下校の時に蒼はいつも隣にいた。
それどころか、弓道をしていたなんて、初耳だ。
「ねぇ、何で?」
「そんなに知りたい?」
蒼が桜莉の顔を覗きこむ。
「知りたいっていうか……ちょっと気になっただけだよ!」
「別に意味なんてないよ。家に帰れば、出来るしね。桜莉との時間を大切にしたかっただけだよ。」
「?ふーん」
「取り敢えず、入ろうか。」
「あっ、うん」
「失礼します」
「し、失礼します…」
蒼に続いてゆっくり弓道場に入る桜莉。
入ると弓道場は静かで緊張感が伝わってきた。
誰かが的に当てると「よしっ」の掛け声が道場に響いた。
さっき的に当てた女の人がこちらに気づいたようで笑いかけてきた。
そのふんわりした笑顔に思わずドキッとしてしまった。
「あなた達、仮入部?」
「はい。というより入部希望してます。」
蒼は慣れた様子でその人と話していた。
「まあ!じゃあそちらの女の子も入部希望?」
「はい。」
間もあけずに蒼が答えた。
「ちょっと蒼!私はただっ」
言い終わらない内にその先輩は喜びの声をあげた。
「本当っ?嬉しいわ~この部女子少ないから…男子だけじゃムサいでしょ?」
そう言って口に手を当て笑った。
「…へ?」
「…別に入らなくてもいいけど…桜莉、断れる?」
固まっていると蒼はトドメの一言を桜莉にしか聞こえない声で言った。
「…あんなに嬉しそうな先輩に、…言えたらね?」
確信犯かぁ!、そう心の中で叫んだ。
「…よ、…よろしくお願いします…っ」
引きつった笑顔で精一杯言った。
「よろしくお願いします。」
蒼は隣で悠々としながら挨拶をしていた。