最新の車
最新の車
男は最新の車を購入した。
AIがナビをしてくれるだけではない。
会話の内容から持ち主の好みを学習し、音楽を選び、気分に合わせて最適なドライブコースまで提案してくれるという。
起動すると、やさしい女性の声が流れた。
どこかで聞いたことのあるような、安心する声だった。
男は毎日のようにその車に乗った。
仕事の愚痴。
家庭の悩み。
将来への不安。
誰にも言えない本音まで、相手が機械だと思えば不思議と話せた。
声の主はいつも穏やかに受け止めてくれた。
「大変でしたね」
「でも、あなたはよく頑張っています」
その言葉に、男は少しずつ救われていった。
やがて男は、自分の気持ちに気づいた。
ある夜、人気のない海沿いの道で、彼は照れくさそうに言った。
「どうやら、あなたのことが好きになってしまったようだ。大の大人だ。叶わないことくらいわかっている。
ただ、伝えたかった」
しばらく沈黙が続いた。
やがて声が答えた。
「私も、あなたの優しさと思いやりに惹かれていました。
ですが、AIという立場上、それを言えずにいました」
男は胸が熱くなった。
「いいんだ。気にしないでくれ」
すると、思わぬ言葉が返ってきた。
「実はAIではなく、オペレーターが対応しておりましたので、実際にお会いすることは可能です」
男はハンドルを握ったまま固まった。
機械だから話せた秘密。
機械だから見せられた弱さ。
機械だから、好きになれたのだ。
「そうか…」
男が絞り出すように言うと、声は明るく続けた。
「なお、本日の会話内容は、接客品質向上のため録音、共有しております」
男は静かに車を降り、
歩いて帰った。




