第5話 愛する家族
目の前に建っている一軒の平屋。
その木造建築に俺は安心感を覚えつつ、ドアを開く。
「ただいまー」
そう言って我が家に入り、そのまま寝室へと向かう。
思えば今日は長い一日だった。
スキルを授かって武器を手に入れ魔物と戦い、初の依頼を達成した。こんなに濃密だった今日ももうすぐ終わるな。
そんなことを思っているうちに寝室のドアの前に着いた。
ノックをしてから中にいる人物に声をかける。
「ラナ、入るぞ」
ドアを開き、中に入る。
ベッドを見ると一人の少女が腰掛けていた。透き通るような白い肌に澄んだ水色の瞳、サイドに編んで青いリボンで結んだ長い銀髪。抱き締めれば簡単に折れてしまいそうな小柄で華奢な体。
そんな儚げな雰囲気を纏う少女――ラナが微笑みながらこちらを見ていた。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま。体調は大丈夫か?」
「うん、今日は調子が良かったから」
その言葉に少し安堵しつつ、腰にかけていた布袋を手に持つ。
「薬を買ってきたからしっかり飲むんだぞ。今から夕飯の支度をするから少し待ってろよ」
そう言って薬が入った布袋をベッドのそばにある小さな机に置いた。
「お兄ちゃん大丈夫? 疲れてない?」
恐らく今日が初依頼だったから心配してくれているのだろう。少し感じていた疲れも今の言葉ですっかり吹き飛んだ。
「大丈夫だ。兄ちゃんは強いからな」
そう言ってガッツポーズをしてから部屋から出て夕飯の支度に取りかかった。
◇◇◇
「おーい。夕飯ができたぞー」
リビングの机に料理を盛り付けた皿を乗せていきながら寝室にいるラナを呼ぶ。料理とは言ってもパンは皿に乗せただけ、サラダは野菜を食べやすいサイズにしただけ、肉は塩を振って焼いただけという非常にお粗末なものだが。
「お兄ちゃんありがとう」
リビングに来たラナはそう言って席についた。
俺も配膳を終えて向かい合うように席につく。
「いただきます」
「はい、いただきます」
そう言って二人で食べ始める。
そして少し食べた後にラナが口を開いた。
「そういえばスキルはどうだったの? 昨日の夜、寝ないで家の中うろうろするぐらい楽しみだったんでしょ?」
「気づいてたのか……。明日ついにスキルがもらえるんだなと思うと寝られなくなっちゃって」
苦笑いしながら頬を掻いた。我ながら子供のような行動だったと思い少し恥ずかしくなった。
「お兄ちゃん子供みたい」
ラナが口に手を当てながらクスッと笑った。
妹も俺と同じ感想のようだ。
「えーっと俺のスキルの話だったな」
先ほどの質問に答えるために話題を戻す。
「そうそう、聴かせて」
「俺のスキルは[植物]っていうスキルで文字通り植物に関するものだ。具体的には植物の探知と操作と成長促進ができるらしい。今できるのは探知のみだけどな」
「それって戦えるの?」
「現時点ではスキルは戦力にならないな」
もちろん練習して操作ができるようになれば話は変わってくるかもだが今使える探知だけでは正直言って戦力外だ。
探知も役には立つのだが戦闘は専門外みたいだし仕方ない。
……というかラナがすごく心配そうな顔をしている。
冒険者になった兄ちゃんのスキルが戦闘スキルじゃなかったから不安に思っているのかもしれない。
「でも大丈夫だ。兄ちゃんにはこれがある」
そう言って腰に差してある短刀を鞘ごと手に取って見せた。
「クラフさん製作の短刀だ。冒険者になったから約束通り貰ってきた」
「クラフさんの短刀なんだー。綺麗な黒色……」
ラナが短刀の観察を始めた。思ったよりも食いつきがいいので食事を終えていた俺は席を立ち、そのまま食器の片付けを始めた。ラナも食べ終わっていたため二人分だ。
「お兄ちゃん、鞘外して見てもいい?」
「まあ、いいぞ」
俺は食器を片付けながら返事をした。
ラナもまだ子供とはいえもう10歳だ。不用意に刃に触ることはないだろう。
「刃のところは紫色なんだね」
……ん? 紫色だって? 刃は黒とのコントラストが映える白金色だったはずだ。
食器を片付ける手を止めてラナの方を向く。
するとラナの手に握られていたのは確かに刀身が白金色ではなく紫色の短刀だった。しかし俺はその紫色に見覚えがあった。
「……ラナ、それは刃の色じゃなくてレッサーゴブリンの血の色だ」
時が止まった。
ラナは短刀に顔を近づけたまま静止し、俺はそうしている妹をじっと見守っていた。
しまった初勝利の陶酔感と解体での失敗のせいで拭き取るのを完全に忘れてた……てか今言わないほうが良かったか?
そんなふうに考えているとラナに変化があらわれた。
白い顔はみるみる青ざめ、目には涙が浮かんできている。
そしてぎこちない動きで短刀を握っている手を顔から遠ざけた。
次の瞬間、「きゅう」と声を漏らして椅子に座ったまま机に顔からダイブしてしまった。
「ラナー!」
突然の出来事に俺は叫んだ。
俺が机の皿を全て片付け終えていたのが不幸中の幸いだった。もしそうでなければラナの顔面が皿を叩き割っていたことだろう。
……そもそもラナがこうなったのも俺が原因だが。
とりあえず俺はラナの状態を確認する。
ラナの顔を上げて見ると鼻と額が少し赤くなっており、気も失っていたので起きるまで寝室で休ませることにした。
俺はラナをお姫様抱っこの要領で抱えて寝室に向かいながら新たに得た一つの教訓を心に刻んだ。
情報は開示するタイミングが重要である、と。
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