第3話 初めての依頼
木々が歓迎するかの様にざわざわと騒ぎ立て、木漏れ日が優しく草木を照らしている。
俺はあれからアンゼプアを後にし、シルヴァルフ森林に到着していた。
しかしここはまだ森の入り口。
お目当てのバンテ草が生えているのはさらに奥の方だ。
せっかくだし進みながらスキルを試してみよう。
時間は有限。有効活用しないとな。
たしかシスターさんが植物の探知と操作と成長促進ができると言っていたな。
まずは探知を試してみよう。
バンテ草を探すのに役立ちそうだし。
「……とは言ったもののどうやればいいんだ?」
思えば当然だ。今日授かったばかりの能力の使い方などわかる訳がないのだ。
思わぬ落とし穴にはまりつつも、自分なりに使い方を推理してみる。
必死に頭を働かせて熟考すること数分。
俺は結論に至った。
「目だ。目に意識を集中させればいける気がする」
正直言うと考え始めてすぐに、正解に辿り着くのは無理だと判断していた。何せヒントが少なすぎる。
しかし時間はあるため思いついた案をものは試しの精神で片っ端から試してみることにした。
これでスキルが使えればバンテ草が探しやすくなって儲け物だろう。
情報を遮断するために一旦目を瞑り、その暗闇の中で自分の双眸に全ての意識を向ける。
その集中を継続しつつ目を開く。
見えた景色は今までと同じ様で何かが違う。
その違和感の正体に気づくのに時間はかからなかった。
「――何じゃこりゃ!」
視界の端に30mという文字や自分の進行方向と同じ向きを指す矢印が表示されていたのだ。
目がおかしくなったのかもしれない。そう思って目を擦り再び目を開くが見える景色に変化は無かった。
「たぶんこれが俺のスキルだよな。まさか本当に発動するとはな……」
自分の直感力と運の良さに驚きつつ、次はこの能力について色々と実験してみることにした。
◇◇◇
しばらくスキルを試してみた結果、かなり多くの収穫が得られた。
まず一つ目は最初に発動した能力についてだ。
簡潔に言うと欲しい植物までの距離と方角がわかる能力。
植物を思い浮かべると、自動的に自分から一番近いその植物までの距離と方角を数字と矢印で示してくれるといった感じだ。
実はこの能力、思いの外使い勝手が良い。
先ほど自分から一番近い植物が対象になるという感じで言ったが、それは自動的にはというだけで実際は任意で対象を変更できる。
例えばバンテ草を思い浮かべた場合、20m先にあるバンテ草と100m先のバンテ草があるとすると、自動的に最初は20mの方が対象になるが変更しようと思えば100m先バンテ草にも変更できるということだ。
距離制限がおそらく無いことや知っている植物が全て対象内であったことなどを考えると機能面はかなり充実していると言っていいだろう。
そして二つ目は他二つの能力についてだ。
結論から言うと発動は叶わなかった。
植物を動かしたり成長させようと色々な方法を試した。
念じたり、手をかざしたり、歌ったり、踊ったり、即席のオリジナル呪文を叫んでみたり――。
とにかく思いつく限り試したが何も起こらず、得たものは虚無感と自分の口から漏れた失笑だけだった。
そのため今は諦めて、今後の課題とすることにした。
そして三つ目はバンテ草だ。
実験の過程で採取しまくったところ依頼のノルマ30枚を軽く超え、56枚も採取してしまった。
だが超過分は個人的にギルドへ売ることができるため無駄という訳ではない。依頼で納品するのに比べたら一枚あたりの値はかなり落ちてしまい、労力の割に合わない悲しい金額になるのだが……。
まあ、何はともあれ目的は達成。さっさとギルドに戻るとしよう。
そう思い、来た道を戻ろうと振り返る。
すると突然少し遠くの茂みがガサガサと揺れ始めた。
「魔物か?」
そう警戒しつつ短刀を鞘から抜き、様子を伺う。
そうしていると突如。茂みから何かが飛び出した。
小さな身体、緑色の肌、尖った耳、そして手には原始的な木製の棍棒。
ゴブリン……いや、サイズ的にレッサーゴブリンか。
ゴブリン種の中でも最弱とされる魔物だが、こちらはかけだし冒険者。油断は禁物だ。
「グギャギャギャギャ!」
あちらは戦う気満々らしい。棍棒を高らかに掲げながら雄叫びを上げている。
こちらとしても戦うつもりだ。レッサーゴブリンに勝てない様では冒険者としてやっていけないし、初戦闘にはうってつけの相手だ。
戦いの火蓋を切ったのはレッサーゴブリンだった。
走ってこちらに向かって来る。対する俺は動かずに待ち、武器を構える。
レッサーゴブリンが俺を射程圏内に捉える。それと同時に振り下ろされる棍棒。
それを短刀で迎え撃つ。
互いの武器がぶつかり合い動きを止める。
「うおりゃ!」
一瞬の静寂の後、短刀で棍棒を大きく払いのける。
レッサーゴブリンが後ろによろめく。
「これでもくらえ!」
その隙をついて姿勢を低くし喉元に向けて短刀を勢いよく突き出す。
「グッ……ゲ……」
レッサーゴブリンの喉元に刃が深く入り込む。刃物で生物を刺すというのは想像以上に嫌な感覚だった。
そんなことを思いながら素早く刃を抜くと刺し傷から紫色の血液が吹き出てレッサーゴブリンは白目を剥きその場に倒れ伏した。
「やった……のか?」
レッサーゴブリンはしばらくピクピクと動いていたが、少し経つと完全に動きを止めた。どうやら倒せたようだ。
「よっしゃあああ!」
ガッツポーズをしながら天に向けて雄叫びを上げる。
相手が最弱のレッサーゴブリンとはいえ初戦闘・初勝利は嬉しい。最初は自分が戦えるか少し不安だったが、いざ戦ってみると意外と動けて驚くと同時に安心した。
案ずるより産むが易しとはよく言ったものだ。
さて、戦闘後にする事といえば戦利品の回収だ。レッサーゴブリンでも売れば金になる。正直言って生物を解体するのは気が進まないが生きるためには仕方ない。
きれいに解体できればその分買取額も高くなる。
短刀を使って慎重に解体開始。作業は順調に進む……はずだった。
解体作業をなめていた。思ったより難しい。その上……予想以上にグロテスク。
試行錯誤を繰り返した結果、レッサーゴブリンは見るも無惨なバラバラ死体に成り果てていた。我ながら酷い出来である上、見ているとその惨たらしさに今日の昼食を戻しそうになる。
申し訳なさを感じつつも、辛うじて解体に成功した箇所の素材を回収して俺は帰路についた。
「魔物の解体は練習した方が良さそうだな……」
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