第2話 クラフ製の相棒
「クラフさん。俺の武器できてますか」
壁に掛けられた様々な武器。
その他にも多くの防具や道具が存在する。
そんな石造の空間に俺の声が伝わる。
俺は今クラフさんの鍛冶屋に来ていた。
危険が比較的少ない場所とは言え流石に丸腰で森に入る訳にはいかないので武器の調達に来たのだ。
クラフさんは武器や防具から便利な道具まで幅広くいろんなものを作っているドワーフ族の腕利き女性鍛冶師だ。
20代前半ぐらいに見えるが実際は100年ほど生きているらしい。
とはいえドワーフ族は長命なので100歳はまだまだ若者なんだそうだ。
「え? もしかしてラント、もう冒険者になったの!?」
「そうですよ。約束通り俺の武器を作ってくれたんですよね」
そう。お金に余裕がない俺は三年前、クラフさんの提案で冒険者になるまで鍛冶屋の手伝いをする事を条件にただで武器を作ってくれるという約束をしていたのである。
「たしかに武器はもう作ってあるけど……」
「けど?」
「けど……ラントともっと一緒に鍛冶がしたいよ〜!」
その刹那、クラフさんが明るめ茶髪のミディアムボブに乗せたゴーグルを揺らしながら急接近して俺に抱きついてきた。
むにっ。
クラフさんの豊満な胸がギュッと押し当てられる。
黒のタンクトップと腰に巻いたツナギ越しにクラフさんの柔らかい身体の感触が鮮明に伝わってくる。
そんなことよりこれはまずい。
そう思い脱出を図ろうとしたのも束の間。
抱き締める力が一気に強くなり、鍛冶仕事で鍛えられつつも細い両腕が俺の身体をキリキリと締め上げた。
死。
そんな単語が頭をよぎる。
「クラフさんっ……くるしっ……死ぬっ……」
180越えの身長と魔物級の腕力的にこうなっては俺の力での抵抗は意味をなさない。なんとか声を絞り出して助けを求める。
「わぁ! ごめん! 寂しくなっちゃってつい!」
クラフさんがはっと我に返り、慌てて離れた。
飛びかけた意識をなんとか押し戻しつつ何度も深く呼吸をして生きていることを実感する。
「でも約束だもんね。ラントの武器取ってくるよ」
そう言ってクラフさんが奥の部屋に引っ込んで行った。
前から思っていたがクラフさんには自分の人並みはずれた力を自覚して行動してほしい。毎度のことながらヒヤヒヤする。と言うか、あの華奢な腕のどこにあんなパワーが……。
「ラントー、持ってきたよ」
そんな事を考えているとクラフさんが黒色の鞘に入った一本の短刀といつも鍛冶仕事で使っている小槌を手にして戻ってきた。
「これねーすごいんだよ」
鞘から抜かれると白金色の刀身が現れた。
鞘の黒とのコントラストによって刀身の白さがより際立って見える。
「ちょっとこれ持ってて」
「? はい」
言われるがままに手渡された短刀の柄を両手で持つ。
なんだか嫌な予感がする。
「じゃあ、そのまましっかり持っててね」
「まさか……!」
「いくよー」
そう言いながらクラフさんが小槌を大きく振りかぶった。
その刹那、小槌が短刀へと高速で迫る。
やっぱこいつやりやがった!
そう思いつつ短刀を握る手に力を入れ、来たる衝撃に備える。
大きな衝撃と激しい金属音。それと共に宙を舞う刃の破片。
手には少しの痺れと刀身の根元から上が無くなった見るも無惨な姿の短刀だけが残っていた。
「あああああ! 俺の無賃労働三年間の結晶が! あっさりと! ポッキリと!」
「まあまあ落ち着いて。見ててよ」
そう言ってクラフさんが俺から短刀を取り上げる。
すると刃の断面が光を放ち、そこから徐々に刀身が生えてくるようにして形成されていき、やがて元通りになった。
「!! ――直った!?」
異常な光景に驚きを隠せない。
「この短刀はね、吸収した魔力を消費して自己修復できるんだよ」
「何度壊れても元通りになる短刀――リバイブダガーだよ。クラフ印の完全オリジナル武器さ」
「何度壊れても元通りに……それは凄いんですけどそれを説明するだけならわざわざ小槌振って壊す必要ありました?」
「いやぁ、こうするのが一番手っ取り早いと思って……」
そう言ってわかりやすくクラフさんが視線を泳がせた。
鍛冶屋で働いたこの3年間で何度こんな目にあった事やら。この人新しい物作る度にいつも俺で試そうとするからな……。
「まあいいですよいつもの事ですし……でも魔力によって修復されるんですよね。俺のスキルは魔法系じゃないから魔力なんて出せないですよ」
そう。魔力は魔法系のスキルを与えられた者か特別な修行をして魔法を習得した者にしか無いものだから俺に魔力はない。
「なら魔力を生み出す練習をすればいいんだよ」
「クラフさんなら知ってますよね。魔法はまず教えてくれる人を探してそれから長い期間修練を積み、その上でその魔法に適性があってやっと習得できるんですよ。そんな不確実なことを悠長にやる時間はないんですよ」
「違うよ。魔法を習得するんじゃなくて魔力を生み出す練習をするんだよ」
「……何言ってるんだこの人は」
「ちょっと! そんな懐疑的な目で見ないでよ! 魔法を習得しなくても魔力を出せるようになれるんだよ。大昔はよく知られていたらしいんだけどね」
そんな話聞いた事がないが長い時を生きていろんな場所を訪れたことがあるクラフさんの知識なら本当なのだろう。
「わかりました。なら信じますけど魔力は確実に出せる様になるんですか?」
「魔力の生成は修練期間や魔力量に個人差はあれど基本的に誰でもできる様になるっていう話だよ。修練期間は半年から一年ってところらしいよ」
なるほど。俺に才能が無かったとしても修練を積めば一年ほどで確実に魔力が手に入り、リバイブダガーの性能を存分に発揮できるようになるのか。武器破損のリスクが無くなることを考えるとやる価値はあるな。
「なら練習したいんですけれど誰に教わればいいんです?」
そう言うとクラフさんが得意げな顔で自身に指を指した。
「? ……ああ、クラフさんが魔力に詳しいお友達を紹介してくれるんですね。ありがとうございます」
「違うよ」
「!! ごめんなさい……クラフさんにお友達はいないですよね。悪いことを言いまし――」
「いやお友達ぐらいいるよ!」
俺の謝罪にクラフさんの声が勢いよく割り込んできた。
「あたしがラントに教えるの!」
「……クラフさんが?」
「あたしが」
「俺に?」
「ラントに」
「マジで?」
「大マジ」
「……終わったな」
クラフさんが魔力を持っていることはわかっている。だがこの人からものを教わるのは不安でしかない。
「それならあたしに魔力の生成を教えてくれた師匠を呼んであげるよー。あっちも忙しいだろうから来られるのがいつになるかわからないけどねー。あたしに教わりたくないなら仕方ないかー」
「――ごめんなさいクラフさんが良いですクラフさんに教わりたいです何卒よろしくお願いいたします!」
即座に跪き石造の床に額を擦り付けながら早口で謝罪の旨を述べた。怒りの笑みと棒読みの結合体は非常に恐ろしい。
「うむ。そこまで言うなら教えてしんぜよう。毎日早朝にあたしの家に来るが良い」
クラフさんが腕組みをしながら堂々と一国の王のような口調で言った。クラフさんの家ということはこの鍛冶屋に来いってことか。
「……ちなみに条件は何ですか」
商魂たくましいクラフさんのことだ。ただで教えてくれるとは到底思えない。俺は立ち上がりながら言う。
「何も無いよ。大切なお客様に対するアフターサービスってやつさ!」
そう言って元気に笑顔でサムズアップ。
「そんな馬鹿な……! 店に来た客に試し斬りを勧めてさせた後にお試し料と称して金を請求したあの金銭欲の権化が銅貨一枚の得にもならないことをするだと……!」
「失礼だな。全然いいんだよ。ラントには三年間も手伝ってもらったしそれに……あたしの武器を使ってラントが活躍して有名になればそれに乗じてあたしの店の評判も鰻登りだろうしね!」
そう言って二ヒヒと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「……やっぱりがめついな」
少しでもクラフさんを見直しかけた俺が馬鹿だった。
「そんなことより冒険者になったんなら依頼を受けたんでしょ。早く行ってきなよ」
「はい。何かとありがとうございました。行ってきます!」
そう言って鍛冶屋を後にしようとした時、ふと言わなければいけないことを思い出した。
「――あ! いつも言ってますが俺がいなくても自分でちゃんと掃除はしてくださいね。でないと大陸随一のズボラ鍛冶師が営む最高に散らかった店として評判になりますよ」
言い過ぎだと思うかもしれないが、実際初めて来た時はその荒れように言葉を失うと同時にこの店への異常な客足の少なさに自然と納得するレベルで散らかっていたのだ。
クラフさんは鍛冶の名匠ではあるが掃除、洗濯、料理などの家事の類は面倒だと言ってやる素振りすら見せない。どっちの"かじ"もきっちりやって欲しいものだが……。
そのためこの3年間の手伝いの内容は家事全般と試作品の被験体が9割を占めていた。
「もう! わかってるって! 余計なお世話! ラントがいなくてもちゃんと自分で掃除ぐらいできるよ!」
頬を膨らませてそっぽを向き不満気にそう表明した。
「その言葉忘れないでくださいよ。じゃあ改めて行ってきます!」
「行ってらっしゃい、ラント! 安全第一でね」
俺を見送る言葉を元気にサムズアップしながら言うクラフさんを背にして一本の短刀を腰に差し、バンテ草が採れるシルヴァルフ森林へと出立した。
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