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アンケート  作者: 菊池まりな


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第95話 揺れる街、芽吹く声

夜明けの光が都市を包むにつれて、藍都学園都市の景色は静かに変わっていった。


 街を縫うように走る情報網は、これまでの冷たい監視の光ではなく、温もりを帯びた緩やかな脈動を見せている。電光掲示板には、行政からの命令ではなく、市民同士のやり取りや、誰かの小さな想いが反映され始めていた。




 「……すごい」


 ユリは広場に立ち尽くし、目を見開いた。


 「市民の声が、そのまま街に流れ込んでる。まるで都市全体が一つの生き物になったみたい」




 玲が端末を操作しながら頷く。


 「情報のフィルターが消えたんだ。今まで制御されていた感情や選択が、そのまま都市に反映されてる」


 その声には研究者らしい熱が混じっている。




 美佳は人々の表情を見ていた。


 笑顔もあれば、不安もある。


 「自由」という光が解き放たれた瞬間、人々は戸惑いながらも、その重さを直感しているようだった。




 「なぁ、美佳」


 純が隣に立ち、少しだけためらうように口を開く。


 「これから俺たちは……どうするんだ?」




 その問いに、美佳はすぐには答えられなかった。


 今、街は彼女の選択で大きく舵を切った。だが、その先の道筋までは誰も保証してくれない。




 沈黙を破ったのは翔だった。


 「まずは見届けることだ」


 腕を組んだまま、人々の群れを見渡しながら言う。


 「この変化に、都市がどう応えるか。人がどう変わろうとするか。……それを確かめる責任が、俺たちにはある」




 「責任……」


 美佳は小さく反芻した。


 思えば、ここまで自分は流されてばかりだった。アンケートに答えただけで始まった出来事の渦に、ただ必死で抗ってきた。


 けれど今は違う。


 自分が選んだ道を、多くの人が歩き出している。その重みを無視することはできない。




 「そうだね……私たちが始めたことだから、最後までちゃんと見届けなきゃ」


 その言葉に、ユリも玲も小さく頷いた。




 だが、群衆の一角から声が上がった。


 「これは……本当に正しいのか?」


 「監視がなくなったら、秩序はどうなるんだ?」


 ざわめきが次第に広がり、空気は少しずつ不安で濁り始める。




 「……始まったな」翔が低く呟く。


 「変化を受け入れる者と、拒む者。分断は必ず起こる」




 その現実に、美佳は唇を噛んだ。


 都市を変えたことは間違いではないと信じている。けれど、それが誰にとっても幸福を意味するわけではない。




 「だからこそ、私たちが向き合わなきゃ」


 自分でも驚くほど、声は強かった。


 「彩音が託した“鍵”は、ただ壊すためじゃない。……繋げるためにあるんだよ」




 その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。




 都市の空に輝く網目の光は、まだ揺らめいている。


 人々の心の迷いを映し出すように──だがその中で、新しい芽吹きのような希望の声も確かに聞こえていた。





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