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アンケート  作者: 菊池まりな


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第82話 闇の対峙

突如、廊下の蛍光灯がすべて消え、深い闇が美佳たちを呑み込んだ。


 視界は完全に奪われ、空気が一層重苦しくなる。息をする音すら、敵に聞き取られてしまいそうな緊張が漂った。




 「純……」


 美佳が小さく呼びかけると、すぐ隣から低い声が返る。


 「大丈夫だ。動くな」




 次の瞬間、闇の奥で何かが擦れる音がした。


 布が揺れるような、しかし金属質を帯びた不気味な響き。




 「……やっと会えたな」


 あの声が、再び耳を震わせる。機械を通したような歪んだ声。それでも、明確に美佳へと向けられているのがわかった。




 「あなたは……誰なの?」


 闇の中で、美佳は声を震わせながら問い返す。




 影は笑ったようだった。空気がかすかに歪み、その気配が肌を刺す。


 「お前が持っている“鍵”……それこそが、すべてを繋ぐものだ。お前が答えるべき“アンケート”の、最後の問いだ」




 「アンケート……?」


 その言葉に、美佳の心臓が跳ねる。


 最初に届いた不可解なアンケートの依頼。軽い気持ちで答えたはずのあの出来事が、今もなお彼女を縛り続けている。




 「ふざけるな」


 純が鋭く声を上げ、一歩踏み出す。その足音が闇に響くと同時に、玲が光源を展開しようと手を動かした。


 だが、その瞬間——。




 耳をつんざくような高周波が鳴り響き、玲の魔術回路が強制的に遮断された。


 「くっ……! 干渉されてる……!」




 翔も端末を操作するが、画面には意味不明な文字列が次々と流れ、制御を奪われていく。


 「……こっちもやられたか」




 闇の中で、影の声が低く囁く。


 「答えろ。お前は、未来を選ぶか。過去に縛られるか」




 その言葉に、美佳の胸の奥で熱いものが揺らいだ。


 未来か、過去か。


 まるであのアンケートの設問のように、二者択一を迫る響きだった。




 「美佳!」


 純の声が鋭く響く。


 「惑わされるな! 選択を急ぐ必要はない!」




 だが美佳は、影の声に囚われていた。


 彩音から渡された“鍵”を握る手が震え、その冷たさが逆に現実感を増す。




 そのとき、影がはっきりと口にした。


 「お前が“扉”を開くのだ、三枝美佳——」




 バチッ、と火花が散り、闇の一角に光が走る。


 純が懐から閃光弾を投げ込んだのだ。


 眩い光が廊下を焼き、一瞬だけ影の輪郭が浮かび上がる。




 それは確かに人の形をしていた。しかし、その顔は奇妙に歪み、まるで複数の人物の顔を重ね合わせたような、不安定な存在だった。




 「なっ……」


 美佳の喉から声が漏れる。


 「これは……人なの……?」




 影は光を嫌うように後退し、歪んだ声を残して闇の奥へと消えていった。


 「また会おう。答えを出す、その時にな」




 残されたのは、焦げた匂いと、不気味な余韻だけだった。




 純は深く息を吐き、美佳の肩に手を置く。


 「……大丈夫か」


 美佳は震える声で答えた。


 「うん……でも、私……きっと、逃げられない」




 その言葉が、誰よりも重く響いていた。





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