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アンケート  作者: 菊池まりな


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55/104

第55話 眠る都市の地下

真夜中の藍都学園都市。


地上のざわめきとは無縁の、冷たいコンクリートの下──そのさらに奥へと続く旧式の非常通路を、美佳は駆けていた。




足元には積もった粉塵、壁には旧時代の警告標識。


かつて避難ルートとして設計された通路は、今や都市の記憶の中にさえ存在していない。




「……純……大丈夫だよね……」




呟く声も、コツコツという足音にすぐかき消されていく。




狭く、湿った通路を進むにつれ、空気が変わっていくのを感じた。


人工的な匂い。電気のうなる音。どこかで誰かが「動かしている」気配──。




「……ここ、どこに続いてるの……?」




道は一度右に折れ、下り階段へとつながっていた。


その先に待っていたのは、明らかに「研究施設」の名残だった。




むき出しの配線、半壊したブラインド、そして錆びた金属製のプレートに残されたロゴ。




《LAPIS旧管理区画 No.05》




「LAPISの……旧本部?」




薄暗い光の中で、美佳の指先が震える。


旧施設が都市の地下に封印されていた──それは、都市に住む誰もが知らなかった、あるいは“知ってはいけなかった”事実だった。




持っていた端末の表示が急に乱れ、ノイズ混じりに何かの映像が浮かび上がる。




《……記録再生開始……》




それは、かつてこの施設で行われていた実験記録だった。




映像の中、幼い少女たちが並べられ、無機質な声で何かの質問に答えさせられている。


その形式は――アンケート。


だが、回答によって彼女たちの処遇が変わっていた。




「これは……」




その中に、見覚えのある顔があった。


髪の長い少女。凛とした目をしたまま、答えを口にする。




「……七海、彩音……?」




美佳は絶句した。


彩音はこの場所で――実験対象として、生かされ、そして使われていた?




「嘘……こんな……」




震える手で端末を握りしめた瞬間、通路の奥から扉が自動で開く音が響いた。




誰かが、来る。




美佳は反射的にデータをダウンロードし、端末を懐に隠すと、静かに物陰へ身を隠した。




足音は一人分。だがそのリズムに、聞き覚えがあった。




「……美佳? ……いるんだろ?」




聞こえた声に、美佳の胸が跳ね上がる。




「純……!?」




だが、その姿を確認した瞬間、美佳は違和感を覚えた。




制服は乱れ、目は赤く充血し、口元には血の痕。そして──その表情は、どこか“空虚”だった。




「お前に……渡してもらうものがある」




純はそう言いながら、ゆっくりと手を差し出した。


その手に握られていたのは、あの“鍵”──七海彩音が託した、記憶の鍵だった。




だが──なぜ、彼がそれを持っている?




「それ、どこで……」




問いかけようとした瞬間、美佳の背筋に冷たい戦慄が走った。




“この純は、本当に……朝倉純なのか?”



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