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アンケート  作者: 菊池まりな


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50/104

第50話 対話の果て

藍都学苑・中央棟の屋上。風が静かに吹き抜け、校舎の影が伸びる夕暮れ時。




三枝美佳は、手の中にある鍵をそっと見つめていた。七海彩音から託されたそれは、重み以上に意味を孕んでいるようだった。




「それ、本当に渡されちゃったんだな」




後ろから声をかけてきたのは、朝倉純だった。彼の表情は、どこか複雑で、それでもどこか決意を秘めている。




「彩音は……俺じゃなくて、美佳に渡したんだね」




「うん……でも、私もまだ何を開ければいいのか分かってない」




「彩音は、“心を開ける鍵”って言ってたっけ」




純はため息をつき、屋上の縁に背中を預けた。空の彼方で、群青色が濃くなってゆく。




「たぶん、あいつは俺たちにちゃんと向き合って欲しかったんだと思う。“過去”を、そして“今”を」




「……過去?」




美佳は思わず問い返す。




「美佳、知らないんだよな。俺がLAPISに入った理由。彩音が“消えかけた”日のこと」




彼の目が、遠い日を見つめていた。




「俺と彩音は、中学の時からの付き合いでさ。彼女はずっと、自分の存在に怯えてた。“誰かに見られることが怖い”って。だけど、同時に“誰かに見ていて欲しい”って──すごく矛盾した気持ちを抱えてた」




「……分かる気がする」




「ある日、あいつは“いらない自分を消す方法”を探し始めて……それが、“再構築プログラム”に触れたきっかけだった。でも、自分の意思じゃ制御できない。そこで、LAPISが動いた」




純はポケットから小さなペンダントを取り出した。それはかつて彩音が身につけていたものだった。




「俺は、彩音を止めるためにLAPISに入ったんだ。けど、結果的に、彼女を“システムに預ける”ことしかできなかった」




「……それで、後悔してる?」




「ずっと、してるよ。でも、美佳。今はもう、“何かを壊す”ためじゃなくて、“守るため”に、この場所にいる」




彼は静かに微笑んだ。




美佳は、握っていた鍵をそっと見つめ直した。




「この鍵で、誰かの心を開けることができるなら……私は、開けてみたい。彩音の願いも、あなたの想いも、無駄にしないように」




純は、ほんの少しだけ目を細めて頷いた。




「頼んだよ、“アンケートの回答者”さん」




夕焼けが、二人を優しく照らしていた。





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