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ボーン・イーター ~骨食みスキルを手に入れた俺は魔物の骨を食らって成長する~

作者: 藤浪保

「前方から、スケルトン五体! ……違った、スケルトンガーディアンよ!」


 探知魔法に引っかかったモンスターの情報をセレナが叫ぶ。


「了解っ」


 俺は剣を納めて前方へと駆けた。


 スケルトンガーディアンはスケルトンの上位モンスターだ。(よろい)や盾で身を守っており、守備力が高い。だけどしょせんは骸骨(がいこつ)だ。なら、オークジェネラルのこれだろ。


「『突進(タックルクラッシュ)』」


 発動したスキルによって、俺の周りに厚い風の膜ができ、スピードが上がる。


 膜をまとったまま、スケルトンガーディアンの集団に突っ込んだ。


 戦闘の一体はぶつかった衝撃でバラバラに。残りの四体も風の膜によって傷つきながら、そのまま背後の岩壁にぶち当たって、同じくバラバラになった。


 もちろん一緒に衝突した俺はノーダメージだ。


「ふぅ」


 カタカタ(あご)を鳴らしていた頭蓋骨(ずがいこつ)をブーツで踏み抜いて黙らせると、その場に動く物はなくなった。


 ――と思った瞬間、横から炎が吹きつけてきた。


 とっさにアクアリザードのスキルを唱える。


「『水盾(ウォーターシールド)』」


 剣を抜いて、アクアナイトの――。


「『水流斬(ウォーターカッター)』!」


 炎を吹き付けてきた張本人――炎のエレメントを水をまとった剣で一刀両断にする。


「ふぅ」


 今度こそ終わりだな。


「ごめん! レベルが高すぎて探知できなかった!」

「ああ、いいよ、なんともなかったし」

「それはよかった……んだけど、エレメントを剣で真っ二つって、ヴァルクってほんとに規格外……」

「そうなのか?」

「そうなのよ」


 セレナがため息をつくが、俺にはピンとこなかった。


「前のパーティじゃ――」

「はいはい。みんなできたって言うんでしょ。何度も聞いたわ。そして私も何度でも言わせてもらう。Sランクパーティを基準にしないで。エレメントの討伐って、Aランクパーティが複数でやるクエストなのよ」


 呆れたように言われて、俺は肩を(すく)めた。


「それに、個人で使える魔法の属性は普通は一つ。複数属性の魔法を使える人は冒険者になんかならずに宮廷魔術師とかになるの。複数属性使える人なんて、それこそ『(あかつき)(きらめ)き』にだっていないでしょ」


 『暁の煌き』は俺が以前所属していたパーティだ。俺がいたときはAランクだったが、俺の代わりに優秀な補助魔術師が加入し、Sランクに上がった。


「俺のは魔法じゃなくてスキルだから。魔法はてんで駄目」

「スキルでもすごいんだってば!」


 そう言われても、俺は『暁の煌き』しか知らないから、どうしてもそれと比べてしまう。あいつら四人は化け物ぞろいだった。


 再び肩を(すく)めた俺は、ただの骨の山と化したスケルトンジェネラルの脇にしゃがんだ。


 がさがさと骨を漁る。


 目当ての骨はすぐに見つかった。


 はじめから骨になっている奴は楽だなぁ。普通ならまず解体しなきゃいけない。


 最初にバラバラになったスケルトンジェネラルの物も併せて五つの骨を拾う。


 大きさや形は揃っていない。だがどれも一部が脈打つように赤く点滅している。


「んじゃ、いただきまーす」


 俺はおもむろにがぶりと骨にかみついた。


 赤い点滅部分をかじりとり、ガリッ、ゴリリッと咀嚼(そしゃく)する。


「何度見てもすごい食べっぷり……」


 あわわ、とセレナが口に手を当ててこっちを見ていた。歯が欠けそうで心配になるらしい。


「セレナも食う? あんま美味くないけど」


 俺はかじり取り終えた残り骨をセレナへと差し出した。


「食べないわよ。美味しくないのに勧めないで」


 粉々にした骨を、ごくりと飲み込む。


 すると、腹がほわりと温かくなった。


 と同時に、ピロンと音が鳴った。


「あ、レベルが上がったっぽい」

「骨を食べて経験値が入るとか、ほんと謎よね、その『骨食い』ってスキル」

「『骨食(ほねは)み』な」


 俺は次の骨にかぶりついた。


「戦闘で入る経験値に加えて食べても入るんでしょ。ダブルで入るなんてずるいわよ。それに、モンスターのスキルまで手に入るなんて」

「骨が残るモンスターに限るけど」


 いま倒した炎のエレメントは骨が残らないから吸収することができない。エレメント系の他、スライムとか、レイスもダメだ。


「『暁の煌き』はなんでヴァルクを手放したのかしら。高ランクパーティが倒した高ランクモンスターを食べさせればすごく効率がいいのに」

「スキルが発現する前だったから」


 だから足を引っ張るだけだった俺を脱退させようとしたのは納得がいく。そのやり方は到底容認できるものではなかったけれど。


「今からでも戻ればいいじゃない」

「もう後釜がいるんだから無理だろ」


 それに、俺も二度とあいつらと組む気はない。


「そう? 私はヴァルクとパーティが組めて助かるけど……」

「それより、この先の道はわかってるのか?」


 今いる場所はちょっとした広場になっているが、出口が複数ある。俺はもうどこから入ってきたかも覚えていない。


「え? ああうん、もちろんよ」


 セレナは懐から地図を取り出して広げた。


「今はここ。ここから出て、この先の分かれ道を右に進んで、何度か道を曲がって、隠し部屋の奥にある坂道を降りた先にドラゴンがいたはずよ。伝承によれば、だけど」


 何百年も前に絶滅し、いまや伝説となってしまったドラゴン。セレナはドラゴンの伝承を集めている研究者だ。


 この国では人々の安全を脅かすモンスターの研究が盛んに行われているが、とうにいなくなったドラゴンの研究は意味がないと思われており、研究者も非常に少ない。


 ドラゴンを見つけたい俺と、研究を進めたいセレナの利害が一致して、こうしてパーティを組むに至った。


 最後の骨をごくりと飲み込んだ俺は、水筒の水を一口飲み、腕で口を拭った。


「道がわかってるなら先に進もう。この先にモンスターはいそうか?」

「複数いるのはわかるけど、離れすぎてて種類までは特定できない。あと、さっきみたいに、相手のレベルが高すぎると探知できないわ」

「わかってる」


 それはパーティを組む時に説明されたから承知している。セレナのランクはCだから、そもそもこのAランクダンジョンに潜る実力は備えていないし、戦力としても数えていない。道案内さえしてもらえればそれでよかった。


「探知能力ならヴァルクの方がありそうなのに」

「残念ながら探知系のスキルはこれまで手に入らなかったんだ」


 探知スキルを持つモンスターはたいていが弱い。自身が強ければ敵を探知する必要がないからだ。もしくは魔力操作に()けたエレメントなどの骨の残らない系のモンスターが持つことが多い。


 今さら弱いモンスターを大量に狩るのも面倒だし、そのあと小さな骨を一つ一つ食いまくるのも面倒だし、習得したところで自分よりもレベルが高すぎると探知できないなら、あんまり意味がない。


 不意打ちで攻撃されても大体は対処ができるから、それなら要らないなと思ってしまったのだ。


 だから、面倒な思いまでして探知スキルを取得しようとは思わない。が、探知してもらえるのであれば、楽なので助かる。


 俺はセレナの道案内に従って先へと進んでいった。


 途中、何度か不意打ちを食らったが、危なげなく対処した。モンスターを倒した後は、死体が残れば焼いて骨を食い、残らなければそのままにする。


 そして、ついにドラゴンがいたという場所にたどり着いた。


「この扉の先のはずよ」


 大きな石造りの扉だ。装飾が凝っている。宝石がはめ込まれていたような跡があるが、すでに誰かに持ち去られてしまったようだ。


「本当に入るの?」

「もちろん」


 震える声でセレナに言われ、俺は力強く頷いた。


 でなけりゃここまで来た意味がない。


 俺はゆっくりと扉を開けた。


 ごくり、とセレナの喉が鳴る。


 扉の先は、石造りの大きな部屋だった。天井の一部が崩れていて、部屋の中心に日光が差し込んでいる。


 ――といっても、ここはダンジョンの中でしかも地下深いから、本当に日光が差し込んでいるわけではない。ダンジョン内でこういう演出がなされていることはままあった。地下なのになぜか森の中で青空が見える、なんてこともあるから、ダンジョンとは不思議な場所だ。


 数歩足を踏み入れると、後ろからセレナもそろそろと部屋へと入ってきた。


 ひゅっ、とセレナが息を吸う。


 日光に照らされた床には、ドラゴンがいた。


 伏したその体格は立派で、すさまじい強さを誇っていた様子が伺える。


 だがその姿は――。


 セレナは無言でドラゴンへと近づいていった。


 そしてその鼻先へと手を乗せる。


「がっかりしたか?」

「そうね……。わかってたことだけど、でも、もしかしたら、って期待はしちゃってたわね」

「伝承通りだろ。よかったじゃないか」

「複雑」


 伝承によれば、この宝物庫を守っていたドラゴンは、数百年前にある冒険者によって倒された。運良く見つけた莫大な財宝を元に、冒険者は新たな国を興したという。その国も、今はもうない。


 俺も朽ちて白骨化したドラゴンの鼻を撫でた。


「きれいに残っているのね」

「ドラゴンの骨は硬すぎて加工ができないからな」


 鱗や皮、牙、爪、肉、内臓などは使うが、骨だけは使えない。


 記念に頭蓋骨だけでも持っていけばよかったのにと思うが、当時はドラゴンなどありふれていて、一々そんなことをする必要はなかったのだろう。ドラゴンよりも、財宝の方がよほど重要だった。


「ねえ、もし、まだこのドラゴンが生きてたら、倒せた?」

「倒せるわけないだろ」

 

 (かなめ)となるドラゴンを失い、このダンジョンは弱体化したはずだ。それなのに、現代の冒険者では、ここにたどり着くのでさえ危うい。ドラゴンを倒すなんて、SSSランク冒険者だって無理だろう。


 俺だって、ドラゴンが骨になっているという確証があったから来たのだ。生きてたらここまで来ていない。


「そうよね」


 セレナが嬉しそうに笑った。どっちの味方なんだと思うが、気持ちはわかる。


「本当に食べちゃうの?」

「そりゃあな、そのために来たんだし」


 俺は赤く光る部分を探し始めた。セレナはセレナで、骨を並べて、様々な部位の大きさを測定してはメモを書いている。


「お、あったあった。これもういい?」


 なかなか見つからなかったが、セレナが並べていた骨の一つに赤い光があった。


「いいけど、それ、足の小指じゃない。そんな端にあるの? 生きてるうちに切り落とされちゃったらどうするの?」

「さあ? まあ、あったんだからいいだろ」


 小指の骨と言っても、大きさが大きさだ。一飲みというわけにはいかない。


 俺はこれまで同様、がぶりと噛みついた。


 バキッ、ガリッ、ゴリッと咀嚼音が響き渡る。骨食みのスキルがなければ、歯はボロボロで口の中も傷だらけになっているだろう。そもそもかじり取ることもできないだろうが。


 ドラゴンだからなのか、古いからなのか、食べ終わるまでにだいぶ時間がかかった。


 最後の一欠をゴクリと飲み込むと、ふわりと腹が温かくなる。


 そしてーー。


 ピコンピコンピコンピコンピコンピコン……。


 レベルアップの嵐がきた。


 音が鳴り止んだ後、ステータス画面を開く。


「うわぁ……」


 レベルは一気に十も上がり、各種数値の補正値が酷いことになっていた。


「え、何、大丈夫!? デバフとか!?」


 思わず漏らした俺の声を聞いて、セレナが慌てて走り寄ってくる。


「いや、大丈夫。ステが上がりすぎて驚いただけ」

「ならいいけど、上がりすぎって……えぇー……」


 セレナは若干引いていた。


 いやだって、この効果、重複するとは思わないじゃん。


 元々持っていた『竜喰らい』の称号が、「✕2」になっていた。


 一つ持っていれば、ステータスが五倍になる。二つあれば十倍、もしくは重複せずに五倍のままかと思っていたら――。


 二十五倍って!


 エっっっっグ!!


 これ、あいつらのステ超えて――るわけはないか。


 その他にも竜のスキルもいくつか獲得していた。火竜らしく、炎系のスキルが多い。


「こっちも終わったわ」


 セレナに言われて、ステータス画面を閉じた。後でゆっくり確認しよう。どんなスキルなのか確かめるのもその時だ。


「それだけでいいのか?」


 セレナがもう一方の足の小指の骨を鞄に入れたのを見て、声をかける。頭蓋骨だって持ち出してやるのに。


「これだけで十分よ。あとはここに置いていくわ」

「そうか」


 部屋を出る時、セレナはドラゴンに向かって祈りを捧げた。


 俺はそれを見守ってから、扉を閉める。


「よし、じゃあさっさと地上に戻って、数日休んだらまた出発だな。次はどこに行く?」

「エルドア森林の奥にドラゴン討伐の伝説が残ってるわ」

「よし、じゃあ、そこにしよう」


 森林ってことは、次は木竜か。楽しみだ。


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