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【4位感謝】水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊…地図にない場所…描けない池…  作者: 夏風
第一章 水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊 剣巫女・剣奈の肝試し
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9 怪異岩屋の犬 終わりなき凌辱


  

「この子のは可愛い子。岩屋観音様(ゆかり)の子よ?このあたりをウロウロしてたから「おいで?」って声をかけたの。そしたらついてきたの」


「うむむむむむ」


 藤倉は「岩屋の犬」伝説を思い出していた。江戸時代に岩屋観音で飼われていた犬の話である。

 その犬は毎日海を見ていた。賢いその犬は潮が月に一日だけ速い日があることに気がついた。

 って、潮の流れの変化に気づくだと?いったいどんな犬なんだ?藤倉は自分の想像の中でさらに一人ツッコミを入れた。

 

 ある日、その犬は浜辺で拾った木切れを沖に投げた。そしてその木がどう流れるかを高台から見守った。

 えっ?犬が木を拾う?そしてそれを投げる?いやいやいやいや。それ明らかに人だろ?犬塚さんとか、犬養さんとか、犬山さんとかじゃないの?藤倉は再び心のなかで盛大にツッコミを入れた。

 さて、それはともかくである。その犬は潮の流れの変化を見抜き、岩屋から堺への安全な航路を発見したのだという。


 淡路島と本州との間の航路の最初の具体的な記録は八四五年(承和 一二年)である。淡路国石屋浜と播磨国明石浜に渡し船が使われたとの記載が『続日本後紀』に見られる。

 ただしそれよりも百年以上前に編纂された『日本書紀』や『古事記』にも淡路島との交流の記録がある。

 なんといっても淡路島は日本で最初にできた島(神話上)なのである。当然行き来はあったであろう。

 ただしそれは明石海峡経由の話である。


 岩屋と堺を結ぶ航路について一五八五年のイエズス会士フランシスコ・パショの記録に岩屋から兵庫を経て堺に至り京都に向かう航路が記録されている。

 『イエズス会日本報告』には畿内と九州を結ぶルートの一部として堺と岩屋の名前が記載されている。

 しかし堺と岩屋の直行ルートは明治以降になるまで記録は見当たらない。堺と淡路島の間は、明石・淡路島間と比べて距離が遠い。潮流も複雑である。普通に淡路島にたどり着けるのに、あえて危険な航路を経なくてもよかったのかもしれない。


「海岸をトボトボ歩いて寂しそうにしていたから一緒に暮らしてあげることにしたの。とっても賢い子なのよ」

『どうやら怪異のようじゃの。しかし悪性は感じられぬ。善性の怪異なんじゃろうのう』

「国光さんが時々言う、人の思いが積み重なったってやつ?」

『恐らくそうじゃろうのう』

「蛇だの犬だのはどうでもいいんだよ。剣奈のところに行かなくて良いのかよ?」


 黙って聞いていた玲奈が我慢しきれず口を開いた。短気な玲奈にしてはよく我慢したほうだろう。


「それなんだけど、今は見守ってあげることはできないかしら?ずっと成仏できずにフラフラしてたあの娘がようやく呪縛から解き放たれるかどうかの瀬戸際なのよ」


 白蛇の化身が上目遣いで藤倉たちをちらっと見上げて言った。さっきは「のじゃ」言葉を使っていたのに、お願いする時になるとガラッと口調を変えてきた。実にあざとい。


「そうだね」

『じゃのう』

 

 藤倉と来国光はその言葉にほだされそうになっていた。ところが。


「それがアタシらに何の関係がある?アタシにとって大切なのは剣奈だけだ。何で見も知らぬそいつのことを気にしなきゃなんねえ?なんならアタシがそいつの核を撃ち抜いてあっという間に浄化させてやろうか?」


 玲奈くん、恐らくそれは浄化ではない。討伐である。

 白蛇ちゃんの女子あざとさは同じ女性の玲奈には何の効果もなかったようである。白蛇ちゃん残念。


…………


 さて、剣奈と篠の話に戻ろう。

 

 剣奈と金山ダムの赤い服の女、篠は隣り合って話しを続けていた。剣奈は乙女座り、篠はお姉さん座りで隣同士で肩を並べていた。いや、篠のほうがずっと肩は高いのだが。

 剣奈のお尻の下にはおもらしの水たまりができていた。話に夢中の剣奈はすっかりその事を忘れていた。そして篠はおもらしにはとても寛容だった。篠が発見された哀しい出来事に由来する。


「そうだったんだね。でも無事島にたどり着けてよかったね?」


 剣奈はあまりに酷い篠の境遇に心を痛めていた。そして嵐で貿易船が沈み、篠が解放された成り行きにホッとして声をかけた。

 しかしその話はまだ序章に過ぎなかったのである。


 アタ……シハ……ソ……レカラ……

 ヤエモン……ノ……ム……ラニ……

 ムカッ……タ……


 篠は弥右衛門の提案に乗って彼らの村に向かった。道中の話の内容や言葉から篠が裕福な出でもなく、高貴な身分でもないことはすっかりバレていた。弥右衛門は言った。


「それは大変だったね。船が遭難してしまって記憶がないんだね?よかったら私たちが君の面倒を見ようか?」

「いいんですか?」

「村の外れに空き家がある。君はそこに住めば良い。食料も届けよう」

「ありがとうございます。一生懸命村の仕事のお手伝いをさせていただきます」

「いや、お手伝いは必要ない」

「でも住まわせていただくんですから恩返しがしたいです。村の役に立ちたいんです」


 弥右衛門はニヤリと笑った。


「君がそこまで言うなら村の役に立ってもらって良いかな?」

「もちろんです。何をすれば良いんですか?」

「毎晩村の男に君に食べ物を持ってこさせるよ」

「はい」

「君はただそいつらをもてなせば良い」

「もてなすと言われましても、もてなすものがなにもなくて……」

「いや、何も必要ない。でも、分かるだろう?」


 そして弥右衛門一行と篠は村外れのあばら家に到着した。弥右衛門の取り巻きは先に入って扉を開け放った。

 取り巻きたちはすでに野獣のように高ぶっていた。


「わかるだろう?」


 弥右衛門は篠の帯を解いて耳元で囁いた。


「君の身体でもてなしてくれれば良いんだよ」


 篠は絶句した。目の前が真っ暗になった。弥右衛門は慣れた手つきで篠の着物をすっかりはぎ取った。そして行為に及んだ。前戯も何もなかった。ただ己の欲望を若い篠にぶつけた。

 篠はいきなりの行為による痛みに顔をしかめた。しかし野盗たちに散々に殴られたことを思い出し、笑顔を浮かべた。

 好意の最中に笑顔さえ浮かべれば野盗たちは優しくしてくれた。


「気持ちいい……」


 ただ苦痛なだけでも「気持ちいい」といえば野党たちに殴られなかった。篠が覚え込まされた哀しい防衛反応だった。


 弥右衛門たちはそんなことは分からない。いきなり服をはぎ取られて乱暴されたのに笑顔で「気持ちいい」という美少女をみてニヤニヤと笑った。


「おいおい、淫売かよ。なら遠慮は要らねえよな」


 篠は一晩中、弥右衛門と取り巻きに散々に陵辱された。そしてそれは篠に繰り返されるいつもの日常となった。終わりなき凌辱、果てしなく欲望の炎に焼かれる毎日。

 男たちは厳しい日常を生きる弱い者たちだった。戦を口実とした野盗はときおり村を略奪した。篠の村のように破壊されつくされなかったのは生かしておいた方が長く搾り取れるとここの賊が判断したに過ぎなかった。

 支配者は何かと理由をつけては村の作物を奪っていった。気候はゆらぎ、潮にさらされ、作物の実りは安定しなった。

 妻からは甲斐性無しとののしられ、なんの楽しみもない毎日だった。


 そこに好きにできる都合の良い女が現れたのである。都合の良いことに()()だった。

 それは弱いものがさらに弱いものを叩く惨めな構図だった。


 そんな営みの最下層に篠は生きざるを得なかったのである。

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