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【4位感謝】水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊…地図にない場所…描けない池…  作者: 夏風
第一章 水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊 剣巫女・剣奈の肝試し
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8 淡路蛇龍伝説の正体


「ちっなんだ前に進めねえ」


 ゴンッ。玲奈が立ちふさがる見えない壁を殴りつけた。

 カチャ。玲奈は太もものホルスターからワルサーP38を抜いて前方に構えた。


「待ってください」


 何処からか声が聞こえた。


「はぁ?誰だてめぇは」


 玲奈には見えた。壁の向こうから現れた何かが。それは女だった。犬を連れていた。しかし玲奈は女の中にさらに何かを見た。


「妾はここを守るただの蛇。この子は私と暮らすお友達」女は答えた。

「そうかよ。お友達同士仲良くて何よりだ。ところでアタイは仲間のところに急いでんだ。さっさと道をあけな」

「あの娘は良い子。懐かしい風をまとっている。いとおしい風」

「はぁ?何わかんねえこと言ってやがる。通さねえとこの壁ぶち破るぞ」

「あの娘は大丈夫。あの娘に害を及ぼすものはここには居ないわ」

「じゃああの悲鳴はなんだ?」

「おほほほほほ。ちょっと妾の知り合いがびっくりさせちゃったみたい。まあ、あの娘が勝手にびっくりしたのだけれど」

「手前勝手なことほざいてんじゃねえぞ。ぶっ殺すぞ」玲奈の殺気が高まった。

『まあ待つのじゃ。玲奈殿よ。おぬしにも見えているんじゃろ?あの白蛇、いやあるいは白龍かもしれぬが、神の眷属じゃと』

「神様の眷属だって?」


 藤倉がびっくりして目の前に現れた女性を見つめた。美しい女性だった。「美しい女性」、「白蛇、白龍」、「神の使い」。藤倉の心に稲妻が走った。


「あなたはもしかして「美女池」の主様ですか?」藤倉が尋ねた。

「池の主?違うわ?ちょっと前、池で水浴びをしていて、それで男に見られて騒がれたことはあったわ。でもあそこはただこの場所と位相が繋がっていただけ。あそこの主じゃないわ」


 藤倉は思った。江戸時代が「ちょっと前」、さすがに神の眷属は時間の感覚が雄大だと。

 

「ひょっとして安乎岩戸信龍神社あいがいわどしんりゅうじんじゃにお祀りされているのはあなた?」


 安乎岩戸信龍神社あいがいわどしんりゅうじんじゃは淡路島洲本市安乎町にある神社である。洞窟の中に小さな祠が祀られ不思議な雰囲気を持つ。

 祠から振り返ると鳥居越しに美しい大阪湾がのぞめる。

 洞窟の祠、美しい展望。神秘的な空気が感じられるパワースポットとして知る人ぞ知る神社である。

 もとは岩戸神社の祠が建てられていたのだがすっかり廃れてしまっていた。鳥居には一八四九年(嘉永二酉年)の文字が刻まれている。二〇二一年に地元関係者が龍神を祀る神社として再興した。

 新しく建てられた神社由来の看板には次のような内容が刻まれている。

 かつてこの地には岩戸神社という小さな社があり、そこに少彦名命と一匹の龍が仲良く暮らしていたと。しかし時が経ち社は廃れ、村人たちは神様が寂しくないように近隣の安乎八幡神社へ神様を遷座させたという。その時一緒に暮らしていた龍は神様のおつかいで社を留守にしいた。お使いからもどった時には神様が移された後だった。一人(匹?柱?)ぼっちになった龍は神様がいつか戻ってくると信じて、今もこの地で待ち続けているのだという。

 切ない話である。


「いや、ないない。移動したと言ってもすぐそこじゃろ?それで分からないなど妾はどれほど馬鹿なのじゃ?カッカッカッカッカッ」

「そりゃそうか」藤倉が答えた。

「まあ少彦名様と一緒におった時期があったのは本当じゃがの。しかし妾はここの守り主じゃぞ?あの洞穴には立ち寄ることはあっても住み着いてはおらぬわ」

「一緒に暮らしていた時期があるんだ…… 立ち寄ってはいたんだ……」


 藤倉はじとっと美女を見つめた。話し方が女性らしい話し方から地が出てきたのか「のじゃ」に変わってきていた。

 もしかして、ポンコ……、残念美じ……。いや神様の眷属に恐れ多い。

 この件にはこれ以上触れないほうがよさそうだ。藤倉は口をつぐんだ。

 

 淡路島にはヘビにまつわる神社や神事は少なくない。「蛇供養」を行う安住寺、蛇神様をお祀りするという八王子神社や岩上神社。淡路弁財天の厳島神社も蛇と(ゆかり)がある。

 このうかつ……ゲフンゲフン、フットワークの軽そうな白蛇様が淡路島中で出没していたとすれば……。藤倉は妙に辻褄が合う気がした。


「ところでここは幽世ですよね。貴女はこちらに住んでおられるのですか?」

「うむ。こちらは静かじゃからの。あちらは何だかんだと騒がしい。とはいえ誰も来ぬと寂しいしの。まあ風の吹くまま、気のおもむくままじゃ」


 藤倉は思った。さすがは神様の眷属である。どうやら自由に幽世と現世を行き来できるようだ。とすると……。

 藤倉は一人で納得して頷いた。 


「分かりました。貴女はここを守っていらゃったのですね。そして淡路島の各地にお出ましになられていたと。素晴らしいことです。ところでそのお犬はどのような?」


 藤倉は尋ねた。白蛇あるいは白龍の連れている犬がただの犬であるはずがない。

 


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