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2-13 緊急地震速報 異界の鼓動

黒雲覆島裂大地

 現世暗門潜其裏

玲奈魂魄化霧白

 異界幽境與世移

非常地震招潮声

 金狐遥望潮後影


 ――――――――――


 ブーブーブーブー ―――


《緊急地震速報です。緊急地震速報です。淡路島周辺で強い揺れが予想されます。揺れに備えてください。津波警報が発令されています。沿岸部の方は、ただちに高台へ避難してください》


 突然、スマートフォンや街頭スピーカー、防災無線が一斉に警報を鳴らし始めた。


 きっかけは、JAXAが運用する日本の地球観測衛星「だいち4号(ALOS-4)」からの、あり得ない衛星データの緊急通信だった。通常はALOS-4のデータは数時間~数日単位で観測・解析される。そして地殻変動や地すべりの分析が行われる。しかし今回は、そのプロセスを飛ばしての緊急通信だった。

 午後四時二十八分のことである。ALOS-4は淡路島直下に通常では想定できない急激な地殻変動、断層の異常な歪みを観測した。その異常なデータは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測センター・気象庁地震火山部にリアルタイムで送信された。

 JAXAは直ちに気象庁に情報を通知した。気象庁は観測データを地震監視システムに即時入力した。

 

 同時刻、国内各地の地震計やGPS観測網「GEONET」でも、淡路島直下で急激な震源域の地殻歪みが検出されていた。

 その情報はまず内閣府(防災担当)に伝達された。そして迅速に各都道府県の災害対策本部・自治体危機管理センターに伝達された。そして該当地域に一斉にアラート配信された。すなわち緊急地震速報(警報)が発出されたのである。


 観測データは津波の発生懸念も伝えていた。気象庁は直ちに「津波警報・津波注意報」を発した。その対象地域は淡路島、兵庫県大阪湾沿岸、徳島県沿岸部、明石市、神戸市、大阪市、そしてその周辺、さらに和歌山県紀伊水道沿岸であった。


 淡路島全域の住民、そして明石・神戸・大阪・徳島など周辺自治体にも、災害対策基本法第60条に基づく大津波警報・地震即時避難勧告が出された。交差点の信号機は一時的に点滅しはじめた。災害モード表示に切り替わったのである。


《こちらは淡路市役所危機管理室です。ただいま緊急地震速報および津波警報が発令されています。島内全域の方は、ただちに高台へ避難してください。繰り返します》


 情報は瞬く間に全国へ伝った。地上波、BS、ネットニュースが地震情報一色に染まった。


「淡路島の地下で未曽有の地殻変動」「阪神淡路大震災を超える規模か?」「津波の危険が迫る」


 SNSには不安と緊張が拡がり、避難誘導の自動告知も相次いだ。過去の津波映像を流すフェイクニュースも拡散されていた……。


………………  


ブーブーブーブー――


 島中を警報の電子音が引き裂いていた。防災無線、携帯電話、緊急地震速報、津波警報。あらゆるメディアとインフラが危機を告げ始めていた。


 淡路島は黒雲が全島を覆っていた以外はいたって平常だった。それが突如として非日常風景に塗り替わった。穏やかな港町の午後のすべてが変わってしまった。

 信号機が点滅した。車のクラクションがこだました。地元のFM局は繰り返し警告を流した。

 

「こちらは淡路市役所危機管理室です。ただいま島内全域に津波警報が発令されています。すべての住民、観光中の皆さん、高台への避難をただちに開始してください」


 アナウンサーの必死の絶叫がこだました。

 

「逃げてください!今すぐ逃げてください!逃げろっ!今すぐ逃げろっ!」


 その声はあらゆる人々に行動を促した。港の防波堤に座っていた高校生のグループが逃げ出した。釣り人が釣り道具を置き去りにして走り出した。夏休みで友達と集まっていた子供はみな顔を見合わせた次の瞬間に駆け出した。

 子供を呼ぶ母親の声が響いた。逃げるトラックや自動車で道路は溢れた。

 町の広報カーが呼びかけた。緊急サイレンが鳴り響いた。警察が呼びかけた。それらの音が折り重なり異様な雰囲気を醸し出した。人々は混乱した。そして集団パニックの様相に変わっていった。


「地震?津波?まじで……」

「阪神大震災よりやばいって!」

「津波もう来てるよ!」

「いやそれ淡路島の津波じゃないから」

「マジかよー迷惑っ!」


 SNSには写真と動画が次々と投稿された。テレビの緊急特番でも速報テロップが途切れることはなかった。全国が淡路島の様子を固唾をのんで注視していた。

 明石海峡大橋は全面通行止めになった。本州・四国へ向かうフェリーも全線運航停止となった。港に人が殺到していた。係員が拡声器で「もうこれ以上港には入れません!」と叫び続ける様子がテレビに流れた。


「ふざけんな!なんで乗れないんだ!」

「なんかあったらあんたに責任取れるのか!」

「予約取ってない?そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

「他の人の迷惑?他の人なんて知るかよ!」


 港の混乱が全国に生放送された。ラジオではパーソナリティが叫んでいた。


「淡路島、特に南部の方、逃げて!逃げて!逃げて!」


 サイレンが鳴り響いた。泣き叫ぶ子供たちの声が響き渡った。荷物をまとめて走る老夫婦が道で転んだ。その様子を誰かが動画撮影してSNSに投稿した。

 テレビに車椅子の老人を必死に押す若い女性の姿が映った。防災士の男性が声を張り上げていた。


「避難所こっち!」


 彼女は人波に押し潰されそうになって動きが取れなかった。テレビの前の人々はその様子を見てハラハラしていた。

 

 淡路島各市の役場、消防、警察はすでにフル稼働していた。自衛隊も到着して緊急体制が敷かれた。

 設営されたばかりの避難所には次々と人が押し寄せた。その避難の列はなかなか進まなかった。人々は苛立ち、混乱と焦燥が広がっていった。

 

「こちらに空きがあります!」


 職員が叫んだ。しかしその声は人々の喧騒にかき消された。


 ――――

 

 その頃藤倉たち一行は、村はずれの獣道の奥にいた。丁度奇妙な三本足の黒い鳥居をくぐったところだった。島が異様な様子に包まれていくのを呆然と見ていた。


「邪斬さん。どういうこと?」

『奇妙じゃのう。淡路島の三箇所の邪気は浄化したばかりじゃ。ここの邪気になゐ(大地震)を起こす力などないはずなのじゃが』


 藤倉はスマホで伝わる異様な状況を見て困惑していた。


「凄いことになってるわよ?」


 玲奈のスマホが警報音で震え続けていた。SNSには「淡路避難命令」「大津波警報」「明石市も避難」と真っ赤なテロップの画面が次々と速報されていた。


 とりあえず藤倉らは鳥居をくぐり歩を進めることにした。やがて石の台座がむき出しになった場所が現れた。かつて建物があったのだろう。今は野ざらしになっていた。石の基壇だけが残されていた。辺りに奇妙な静けさが漂っていた。


 白蛇が鋭い目つきで一行を見渡した。

 

「逡巡しとる時間はないのお。異世界とのズレが現世に地震をもたらしているのやもしれぬ。下手をすれば、この揺れで異世界との繋がりが絶たれるやもしれぬ。現世に存在せぬはずの闇の門……まさか、こんなところに隠れておったとはの」

「忠さま、時間がないわ」


 乙女玲奈が藤倉に言った。藤倉は唇を噛みしめた。


「わかった。でもどうすれば?石の棺に飛び込むのか?」

「わたし、見てみる!」


 玲奈が言った。そして棺の中を覗き込んだ。


 その時である。石の棺の奥底から黒い気配が立ちのぼった。

 

 風もないのに玲奈の髪がふわりと浮かんだ。風が玲奈の頬を撫でた。石肌の紋がぼんやりと光を帯びた。低く呻くような声が微かに聞こえた。


 グラリ――


 その時、大地が大きく揺れた。


『何じゃと!?』


 来国光が叫んだ。


「え……?」


 玲奈の瞳が虚ろに開いた。玲奈は何かに引き寄せられるように前のめりに崩れ落ちた。

 玉藻が慌てて倒れる玲奈を抱き寄せた。その瞬間、棺の紋様が一瞬だけ強く光を放った。


 玉藻は玲奈の胸から白い霧のようなものが吸い込まれるのを確かに見た。そんな気がした。


 玉藻の腕の中で、玲奈は白目をむいて痙攣していた。玲奈の魂が強引に身体から離され、異界へ引きずられていくかのようだった。その無理やりの魂の引き剥がしが玲奈を苦悶の痙攣におとしめているかのようであった。


「玲奈っ!」


 藤倉が叫んだ。地面の揺れはますます大きくなった。棺の紋様が不気味に脈打ち続けている気がした。


 藤倉は急ぎ石の棺をのぞき込んだ。しかし何も起こらなかった。玉藻は気絶した玲奈を抱えていた。一行は途方に暮れるしかなかった。


 ――――

  

 島全域にアナウンスが響いた。

 

《津波警報が発令されました。ただちに沿岸部から離れ、高台へ避難してください。ご家族やご近所にも呼びかけましょう》


「何が起きてるんだ……」藤倉が呟いた。

「玲奈殿の様子……剣奈が倒れた時とまるで同じじゃ。まさか妾の目の前でどちらも同じ運命をたどるとはの」白蛇が呆然と呟いた。

「魂が引き剥がされ、その魂が時空の境を越えたということか。現世と異世界……闇坂村にやはり裂け目があった。しかしまさか玲奈だけがその境をこえるとは……」


 玉藻が棺をじっと見つめた。棺の妖力が玲奈の魂を包み込み、引きずり込んでいるかのようだった。

 玉藻は静かに深呼吸して自らの気を落ち着かせた。玲奈の背をそっと撫でた。そして口を開いた。


「この道は恐らく贄の道……。捧げられることで開かれる異界の扉。玲奈ちゃんの魂を贄として扉が開いたの……。私たちは別の道を探さなければ……」

「そうじゃな。妾たちには妾たちのやり方がある」白蛇が言った。

「当てはあるの?」藤倉が尋ねる。


 玉藻は藤倉に目を向けて静かに微笑んだ。


 ――――

 

 その頃。自衛隊と災害対策本部は地震と津波の原因特定を急いでいた。ALOS-4やGEONETのデータを職員や学者たちは必死に解析していた。

 

 緊急事態として政府から呼び出された学者たちの中に山木もいた。山木は久志本家で起きた異常事態を知っていた。藤倉一行が手掛かりを求めて淡路島に出発したのも知っていた。

 山木は考えた。今回の一件、通常の事態ではないと。常識では説明できないナニカ、例えば邪気が関係しているのではないかと。

 

 テレビに政府の緊急会見が映し出された。閣僚たちが深刻な表情で並んでいた。官房長官が重々しく発言した。


「関係自治体と連携し、現状把握および迅速な救命活動を行っております」


 同じ時刻、気象庁の観測員が小声でつぶやいた。

 

「観測データのパターンがおかしい……普通の地震じゃない……」




 ――――――――


⚡️2-13 緊急地震速報 異界の鼓動 ⚡️


黒雲 島を覆い大地裂く

 潜みたる闇の門

 

玲奈の魂 白き霧となり

 異世界との境 崩壊す


常ならぬ大地震が潮を呼ぶ

 金狐 見るは何処や?


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黒雲覆島裂大地

 現世暗門潜其裏

玲奈魂魄化霧白

 異界幽境與世移

非常地震招潮声

 金狐遥望潮後影


夏風

 

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