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2-9 イラストあり バカップル 五十路童貞、虎猫娘 淡路南端の愛の巣に 熱を帯びたるトリニティ・ネット爆誕


 ゴロゴロゴロ


 藤倉一行は明石海峡大橋に差し掛かった。明石海峡の向こう、淡路島上空には不穏な黒い雲が広がっていた。


 ピカッ


 ときおり空が光った。


「あれ?おかしいなぁ。天気予報では晴れのはずだったのに」


 藤倉が呟いた。


「天気予報なんて外れるときは外れるしな」

「そうだね」


 藤倉は明石海峡大橋の上でアクセルグリップを握る手に力を込めた。玲奈が藤倉の隣にバイクを寄せた。藤倉が少し前方、その横で少しだけ遅れて玲奈。

 二人の視線の先、淡路島の空は重い黒雲が低く垂れていた。海は鈍色にどんよりしていた。空も海もどこか重苦しい雰囲気を漂わせていた。


「玲奈、あれ……すごい雲だね」


 藤倉がインカムごしに声をかけた。


「あの雲、完全に淡路島の上だね。まるで淡路島を丸ごと覆っているような……」


 藤倉の言葉に玲奈は表情を青ざめさせた。玲奈はその唇に強がりの微かな笑みを浮かべた。しかしその表情はどこか弱々しかった。

 

「天気予報と違げぇよな。キャンプサイトまでもってくれるといいけど……」

「雨でもたどり着きさえすれば大丈夫だよ。伊毘うずしお村キャンプ場にはしっかりした東屋もあるし、焚き火もできるって」

「そうね……。この空の下で二人で焚き火するのも悪くないわね……」


 ――二人ではない。玉藻、白蛇、来国光も一緒である。二匹と一振りは玲奈の意識からまるっと消されてしまっていた!言葉遣いも乙女である!恋する乙女おそるべしである!


 藤倉は玲奈の楽観にほっとしてアクセルを捻った。


「よし、じゃあ行こうか。濡れるなら、それはそれも良しだね」

「ふっ、ふじ、た、忠さま……。もう、いやらしいんだから」

 

 玲奈は顔を赤らめた。下から立ちのぼる湿気に白蛇は顔をゆがめた。


『のう、藤倉殿の言葉にはまったくそんな意味はなかったと思うのじゃがのぅ』


 白蛇は三者ネットワークに念話で話しかけた。

 

『ほんと。若いっていいわねぇ』


 ケージの麗しき金狐が微笑ましく言った。

 

『じゃのう』


 もはや来国光は相槌しか口にしなくなっていた。

 ――ん?口なのか?まあいいや。

 

 玲奈もバイクのアクセルグリップを強く捩じった。玲奈のビラーゴがぐんと加速した。


「アタシたちなら、どんな空でも楽しめるはず!」


◆五十路童貞藤倉の恋

挿絵(By みてみん)


 二台のバイクがエンジン音を響かせた。二台並んで明石海峡大橋を駆け抜けていった。目指すは黒雲の先、淡路島南部である。一行の胸には確信に似た確かな期待感が広がっていた。


 …………


 ゴロゴロ……。空が妖しく響く中、伊毘うずしお村キャンプ場の入口が見えてきた。二台のバイクは仲良くそろって駐車場に滑り込んだ。


「着いた……!忠さま、お疲れさまでした」

 

 玲奈はメットを外し、ほっと息をついた。そして潤んだ瞳で藤倉を見上げた。頬は興奮して赤らんでいた!


「お疲れさま。ちょっと雲が心配だけど、早めに設営してしまおう」

 

 藤倉はバイクの横に荷物を下ろし、手慣れた様子でタープとテントを取り出していった。

 キスをスルーされたことに頬を膨らませながらも、玲奈はテントの袋を開けていった。そして小声でつぶやいた。


「白、少しだけじっとしててね……」


 白蛇は玲奈の服の下で小さく体を丸めた。湿った空気を嫌がるようにピリリと身を縮めた。


「ふん、空気が重たいのぅ。じゃが野外の寝床もまた一興じゃ。しかしの。周りにも人がおるのじゃ。昨日のようなことは控えんとのぉ」


 白蛇がぽそりと玲奈の胸で呟いた。白蛇の呼吸が玲奈の胸の蕾をくすぐった。下からの湿気がますます強くなった。白蛇は逆効果になってしまったことを少しだけ後悔した。


 ――三者ネット、いや、そろそろこのネットワークにも名をつけよう。トリニティ・ネット— Trinity Netwerk —でどうだろう。ハンネは白蛇、金狐、古刀で……。

 

白蛇『もしやこやつ、見られて、聞かれて燃ゆるタイプなのか?』

玉藻『あら、玲奈さん扉を開いちゃったかしらね。若いって素敵ねぇ。藤倉さんも罪なお方ですこと』

古刀『……ふぅむ、現の人の心は難しきものよのう。まあ、ワシらは存在を消すか。陣中においても節度が肝要じゃ』

白蛇:『ふむ、邪斬どの。さすがに数百年を経た名刀の風格じゃのぅ。しかし、恋とはときに抑えがたいものじゃ。のう、玉藻?』


 白蛇、完全に来国光を揶揄している。このトリニティ・リンクの中では来国光は若造である。鎌倉末期に打たれたであろう彼の年齢はせいぜい七百歳なのである。

 では玉藻はどうか。玉藻の初出は中国の殷末期、紂王(ちゅうおう)の御代である。紂王が「牧野の戦い」で周の武王に討たれたのが紀元前一〇四六年である。しかしその前も古代インドで華陽夫人として在ったとの記述もある。とすると少なく見積もっても三千五百歳であろうか?

 一方の白蛇である。白蛇は少彦名命とともに過ごしたと言われている。すなわち日本神話の神代にさかのぼる。少なくとも二千歳以上。しかし神世のころである。あるいは玉藻よりも年上の四千歳以上になるのか?

 

 ――トリニティ・ネット— Trinity Netwerk —。ちょっとカッコ良さげな名前を考えてみたのだが、なんともジジババネットである。


金狐『そうね。恋は春の嵐のようなもの。冬を破って突然吹き渡るわ。そして雨宿りには火と温もり。彼らの焚き火と睦まじさで。うふふ。きっと心もほぐれるわ』

古刀:『……玲奈殿、藤倉殿、急げ。まもなく新たな滴が落ちてくると見えるぞ。設営に心せよ。ワシも…見守っておるぞ』


 最後の玉藻の言葉からはうっかりトリニティネットを越えて玲奈と藤倉の心に届いた。玲奈は聞こえないふりをしながら顔を真っ赤にした。

 玉藻はケージのなかで九本の金色の尻尾をふわりとあげた。そして自然に一本にまとめあげた。白蛇は玲奈の胸元でふうっとくつろいだ。

 藤倉は初々しく赤面する玲奈をかわいらしく思いつつ、テントのペグを静かに地面に押し込んでいった。

 昨日まで五十路の童貞男だったくせにやけに藤倉大人である。さすが五十路である。


 ピカッ


 黒雲の空に再び閃光が走った。


 ゴロゴロゴロ……


 大地に轟音がなり響いた。キャンプ場の片隅では、人も獣も刀も、それぞれがそれぞれの思いを胸に、穏やかな時を過ごしていた。

 白蛇は相変わらずトリニティネットでおしゃべりをつづけた。玉藻はテントの中に敷かれた毛布の上に静かに座り、その赤い瞳で二人の様子を眺めていた。金色の尾がふわりと揺れた。


 ピカッ ゴロゴロゴロゴロ


 遠くで雷の音がまた一つ響いた。キャンプサイトの小さな焚火台にいは、すでに火がくべられていた。炎の中で冒険の予感がゆらめいていた。


 


――――――――――――


禍々しき黒雲

 恋と神話が交差する焚火


バイク降りたら、メス全開(全壊)

 忠さまだけしかもう見えない


五十路童貞、虎猫娘

 みんな聞いてた愛絶叫


迫る妖しい黒い雲

 せめて今夜は幸せを


夏風


#小説宣伝です #安土桃山幻想  #小説家になろう

#童貞 #バカップル

 

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