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【4位感謝】水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊…地図にない場所…描けない池…  作者: 夏風
第一章 水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊 剣巫女・剣奈の肝試し
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10 水牢に沈められた血まみれの女


 季節が過ぎた


 夜ごとに訪れる男たちを篠は笑顔で迎えた。


「気持ちいい…… 旦那様、気持ちいい…… 篠は、篠は、気がいきまする……」


 篠は毎回、笑顔でそういい続けた。男たちの評判は上々だった。何しろ食べ物を持っていくだけで極上の女を抱けるのである。愛想はよく、感度もいい。何をしても文句を言わない。

 篠は毎日貫かれ、「気持ちいい」と言い続けた。そのうち身体の奥にナニカが感じられるようになった。やがてそれは篠の身体中を駆け巡るようになった。

 それは身体中のいろんな場所で起こった。その場所を刺激されると腰や背中にナニカが溜まるようになった。

 篠は足指を曲げ背中を反らしてソレに対処した。それでもいつもソレは篠を硬直させ、バラバラにして篠の意識を奪った。

 弥右衛門は言った。


「その時にはちゃんと、気をやりまするって言いながらソレを迎えるんだよ?」

「はい、弥右衛門様……」

 

 篠の身体に快感が沸き起こるようになったのである。篠は自己暗示により男たちの喜ぶ感じやすい身体に変化していったのである。


「あああああ、気持ちいい…… 旦那様、気持ちいい…… 旦那様、篠は、篠は、気をやりまする……」


 篠がそう言って痙攣して果てるたび男たちは喜んだ。


「気を失うなんてなんて粗相を…… 申し訳ありませぬ……」

「篠はそれでいいんだよ。可愛い篠。篠のためなら何でもしてあげるよ」


 最初はとんでもない粗相をしたと狼狽していた篠であったが、篠が果てるたび男たちは優しくなった。篠は理由がわからないながらもそれでいいのだと納得した。

 行為のたびに声を上げ、白目を剥いて痙攣する篠に男たちは益々入れ込むようになった。

 

 篠に平穏な日が訪れた。食べ物の心配をする必要がなくなった。


「あ……、気持ちいい……、あ……。旦那様、好き……」

「篠は可愛いのぉ。よしよし。何か困っていることとかはないか?」

「とんでもありません旦那様、篠はいつもよくしていただいておりまする」

「些細なことでも良いんだよ?」

「旦那様、申し訳ありません。ホントに些細なことで申し訳ないのですが。旦那様、あそこの隙間から風がもれて時々篠は寒いのです……」


 篠は抱かられて喘いだあと、男たちから好意の言葉をかけられるようになった。篠は申し訳なくそれらの申し出を辞退した。それでも重ねて問われると、最後は上目遣いで申し訳なさそうに男に伝えた。

 すきま風の時には、話を聞いた翌日、その男は朝から工具と材料を持ってきた。機嫌よく鼻歌を歌いながら篠にあてがわれた家を修理した。


「ありがとうございます旦那様。篠のためにこんな……」


 篠は汗だらけの男にそっとお茶を差し出し、手ぬぐいで男の汗を拭いた。男が袂から手を差し込むのを、うっとりとした目で男を見つめて受け入れた。

 篠は夜以外も男たちから声をかけられるようになった。

 

「篠、土産だ」

「ありがとうございます旦那様。篠はうれしいです……」


 男たちは食事以外にも様々な品物を持ってきては篠に渡すようになった。着物、台所用品、櫛、化粧道具、裁縫道具、衝立、寝具。篠の暮らしはどんどん良くなっていった。

 篠は「この村の一員として受け入れられた」、そう思った。そして今の暮らしを受け入れた。


…………


「ねえねえ。村外れに淫売が住み着いてるんだってね」

「そうそう村の男衆が毎晩貢いでるらしいよ」

「あー嫌だ。これだから男は。そんな金があるなら私に欲しいよ」

「全くだよ」


 女たちが篠の存在に気づくまでそれほど時間はかからなかった。


「おい淫売、誰の許可を得てこの家を使ってやがる」

「はい弥右衛門様のお言いつけで暮らさせていただいてます」

「ちっ。あんまりでかい面するんじゃないよ」

「かしこまりました」

「この泥棒猫が」

「申し訳ありません」


 パシィ


 いきなり篠の頬が張られた。篠は悲しげに目を伏せて土下座した。


「申し訳ございません」


「おいお市、何してやがんでぇ」

「あんた!あんたこそ何してんのさ。こんな淫売に熱を上げて」

「この娘さんは船が沈没して身寄りがなくなったんだ。村の男衆で面倒を見るって決まったんだ」

「働きもせず、夜ごとに股を開いてかい?良い御身分なこって」

「あの?私、働きます。何でもします」

「良いんだよ。篠さんはそのままで」


 修羅場も繰り返されれば日常風景である。篠は罵られてもぶたれてもただ頭を下げ続けた。野盗の酷い暴力にさらされ続けた篠が身につけた処世術だった。

 逆らわず、謝り続けてさえいれば、村の男衆が仲裁に来てくれたのである。それは何度も繰り返された。


…………

 

「うっ……」


 篠は胸を押さえて土間から外に飛び出した。そして胃の中のものを吐き出した。


「う、ううううぅ」

 

 身体がやけにだるかった。匂いに敏感になっていた。煮炊きの匂いで吐き気が起こることもあった。


 月のものは来なくなっていた……


「弥右衛門様……私もしかしたらややができたやもしれませぬ……」


 弥右衛門は驚いた。しかしよくよく考えるとそれも道理だと納得した。

 なししろ毎晩男を相手にしているのである。子が出来ぬわけが無い。


 弥右衛門は考えた。


「面倒な。せっかくの夜の相手が。夜の営みができなくなる?子供はどうする?こいつらの生活にかかる金はどうする?夜の相手をしなくなっても男達はこいつの生活費を分担するのか?子供の生活費も?」

 

 弥右衛門は考えた。否であろうと。篠の存在価値は男衆の性のはけ口である。

 夜の相手ができなくなったら篠は役立たずである。役立たずに金をかける余裕などこの村にない。


「心配しなくてもいいよ。その子のことは俺に任せればいいから」

「弥右衛門様……篠はうれしいです……」

「そうか」

「あ……や、弥右衛門……」

「篠……」

「あ、篠は気持ちいいです…… あ、篠は気がいきまする あ……」


 弥右衛門は子の面倒をみる気など一切なかった。しかし今はまだはけ口があるのである。使わない手はなかった。

 そして篠の存在が面倒に感じ始めてきた。


 そんな時である。村で日照りが続いた……


「こんな日照りが続くなんてね。こりゃあ水神様のご不興を買っちまったんじねぇねの?」

「そうだよー。あの淫売のせいじゃないの?」

「そうそう。あの淫売、孕んだらしいじゃないの?そのせいじゃない?」

「孕んだだって?父親は誰なのさ。淫売と子供にかかる金は誰が出すのさ?」

「冗談じゃないわよ。村の金をこれ以上、淫売に吸い取られたらたまったもんじゃないわよ」

「あの淫売こそ疫病神じゃないの?」

「そうよそうよ。あの淫売はこの村の穢れよ。水神様はお怒りなのだわ!」


「なら人身御供にしたらいいんじゃないの?孕んだ穢れごと……」

 

 日照り対策で村の寄り合いが持たれた。寄り合いでここぞとばかりに女衆の不満が爆発した。

 男衆は篠の子供のことを問われると顔を曇らせた。夜の相手をしてもらえない女に金を使うことを考えると気が重くなった。


 潮時か……


 弥右衛門は考えた。そして重々しく口を開いた。


「皆の衆の考えはよく分かった。篠の不憫な身の上を憐れんでこれまで世話をしてきた。今後も世話を続けようと考えていた。しかし篠はナニカの穢れを持ち込んだのかもしれぬ」


 皆が弥右衛門の言葉を聞いた。そして考えた。この日照り続きは確かに篠が持ち込んだものに違いないと。


「篠がここに来たのは船が沈んだからだ。思えばそれはもともと水神様の祟だったのかもしれぬ。皆もそうは思わぬか?」

「そうだそうだ!」


 弥右衛門は同意する村の衆を見つめた。場が収まるのを待った。そして静かにゆっくりと言葉を発した。

 

「返そうではないか。水神様のものは水神様のもとへ」


 一瞬の静寂。


 そして次々と村の衆から声が発せられた。はじめは女衆から。そして男衆からも。


「アタシははじめからそう思っていたよ」

「そうだそうだ!」

「その通りだ!」

「村のためだ!」

「恩を返してもらわんとな!」


 弥右衛門は言った。


「皆の考えはよく分かった。村の総意としてここに告げる」


 言葉を切った弥右衛門はぐるりと皆を見回した。

 皆の顔は真剣に弥右衛門を見ていた。誰も反対意見を唱えるものはいなかった。

 

 弥右衛門は固く目をつぶりそして目を開き重々しく口を開いた。


「篠と腹の子を人身御供として水神様に捧げる……」


…………


 その晩も篠は村の男衆の訪れを待っていた。


 ガタリ


 扉が開いた。


「お待ちしておりました。旦那様……」


 篠は三つ指をついて訪問者を迎えた。


「あ、何をなさいます、旦那様……」


 篠は着物を剥がれた。白の肌小袖姿にさせられ、縄で縛られた。


「あ、旦那様……」


「篠、水神様がお怒りだ…… お前を人身御供として水神様に捧げる」

「ひっ……」


 ドスッ。篠は腹に子がいるのも考慮されず、腹に当て身を当てられた。篠は意識を失った。


 池に篝火がたかれた。夜の暗闇に浮かぶ炎。照らされる白い肌。白の肌小袖のみの艶やかで美しい女。

 炎に照らされた篠の憐れな顔は白く輝いていた。美しかった。神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 

 篠は池のほとりに跪かされた。男衆も女衆も篠を取り巻いた。


「旦那様……、篠はどうなるのでございますか……」

「水神様のもとに帰るのだよ。水神様のもとで幸せに暮らしておくれ」


 篠は眉毛を寄せ、きつく目をつぶった。篠はこの村のためにと尽くしてきたつもりだった。精いっぱい男衆の夜の伽を務めた。

 村に受け入れられたと思った。村の一員になれたと思った。生まれてくる子どもと共に村に恩返しをして生きていこうと思った……


 篠の目から涙が一雫こぼれた……


「うっ……」


 篠は後ろから槍で貫かれた。背中からお腹に向けて。腹の子を貫き通すように……


 篠の白い肌小袖が背中とお腹を中心に赤く染まっていった。


 ぽちゃん


 篠は池に……

 人身御供として……

 龍神様に捧げる生贄として……

 水底深く……沈められた……

 水牢に……トジコメラレタ……

 

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