バレンタインの贈り物
バレンタインは特別な日。
好きな人に気持ちを伝える事ができる日。
私達、女の子にとってはとても重要な一日。
だから気合をいれて頑張っていたんだ。
なのに、まさか作っていたチョコを家族に食べられちゃうなんて……。
2月14日の朝、前日に手作りしたチョコレートを包装するために冷蔵庫をあけたら、悲劇が発覚。
私は某名画のような顔になった。
著っこレートが。
チョコレートがない。
頬に手を当てながら真っ青になった私は、すぐに家族に聞いてまわった。
お母さんとお父さんと、弟とお兄ちゃん。
一体だれがバレンタインの日に、こんなむごいことを!?
「あ、姉ちゃん。あれ人にあげるやつだったんだ」
そしたら犯人は弟だった。
去年は前日にチョコレートを包装してたから、今日の朝冷蔵庫を見た弟は、余りものだと思ったらしい。
冷蔵庫に入っていたチョコレートが本命の分だけで、とても少なかったから、残りものだとしか思わなかったって言ってる。
それで、たった数秒でぱくりとしてしまったと……。
私は今日ほど弟に激怒したことはないよ。
一か月口を利かないなんて宣言をして、朝食も食べずに家を飛び出しちゃった。
今日は学校があるんだけど、なんだか行く気になれない。
だって、学校には私の好きな人がいるから。
彼に渡すためのチョコレートなんて持っていないのに、行きたくない。
店で売ってるチョコレートで妥協するって手もあるけど、そう簡単に気分を切り替えられなかった。
だって、私は2月14日のために頑張って彼の好みをリサーチして、本命用チョコレート作りのスキルアップに励んできたんだから。
はぁ。
想いため息をついていた私は、公園でなんとなくぼうっと過ごしていた。
もう学校始まっちゃったな。
いま何時間目かな。
そんな事を考えながらぼんやり過ごしていると、なんとここにいるはずのない彼が声をかけてきた。
学校に来なかったし、連絡しても全く返事がなかったから、心配になって探してたって。
何それ。
そんな優しいことされたら、私……期待しちゃうじゃん。
脈ありなのかもって思っちゃうじゃん。
思わずどきっと、ときめいちゃうじゃん。
いつもなら舞い上がって、押して押しまくるところだけど、今日は2月14日だからチョコのない私なんて惨めな思いをするだけ。
私は放っておいてって言いながら、その場を去ろうとした。
だけど彼が腕をつかんで引き留める。
「今日、バレンタインなんだけど」
って、それどういう意味で言ったの?
私からチョコが欲しくて、こんなところまできたの?
嬉しい。
けど悲しい。
私はぽろぽろ涙をこぼしながら、チョコレートを用意できなかったことを話した。
すると、彼は私の頭を撫でて「それなら仕方がない」だって。
「俺にとって何よりもプレゼントはお前と一緒にいるこの時間だし」
照れながらそんな事を言う彼を見た私も、真っ赤になっちゃった。
バレンタインに大好きな人のチョコレートの贈り物はできなかった。
でもこんな私にも、まだ彼に価値のあるものを贈れたならよかった。
でもやっぱり、リベンジはしたいな。
一年後。
その時私達の関係がどうなっているのか分からないけど。
次は絶対、チョコレートを作ってくるから、待っててよ。