【SS】第1話 腕時計
閲覧ありがとうございます。
起承転結の短さと、伏線回収までの短さに悪戦苦闘しながらも、読みやすさの魅力に魅かれて執筆しています。
「ここはこうした方がいい」等、次作の参考にさせていただきますので、コメントいただけると嬉しいです。
タイトル:腕時計
商社で働く平社員の杉山は、古道具屋で腕時計を手に入れた。
このアンティークな腕時計は異様な輝きを放ち、彼の心を引き寄せるものだった。
「この前なんて、部長がさ~。」
最近では、時計を気にったばかりに、話しかける顛末だ。
どこからともなく声がした。
「そういう時はなぁ、部長の心をつかむのさ!」
驚いたことに、腕時計がしゃべりだしたではないか。
「えっ、時計がしゃべった。」
「そうさ。俺は腕時計の精だ。」
「はぁ……。」杉山は驚きを隠せない。
「部長の心をつかむにはなぁ。」
「はい!」仕方なく、聞いてやることにした。
「まずは、時計を磨くことだ。」
磨き用のクロスを用意し、腕時計の手入れを始めた。
「次は、ネクタイだ!これで決めるぞ!」
古着屋へ行き、ネクタイを新調した。
「そして、スーツだな。」
新春セールで買い置きしていたスーツを身にまとった。
「最後は靴だ!ピカピカに磨いておけよ!」
靴の磨き方なんて調べもしたことがなかったが、言われた通りに靴を磨き上げた。
「部長、おはようございます!」
「おはよう。今日はさわやかな挨拶が素晴らしいな!今後とも、ぜひ続けてくれたまえ。」
どうやら部長のハートをキャッチできたようだ。
身だしなみに気を使い、部長の懐に入ったことで自信の付いた杉山は、
新たなプレゼンテーションの提案を部長に進言した。
「部長、今回のプレゼンにはめっぽう自信があります!」
「ほう、どんな提案だ?」
「はい。まずはですね……。」
杉山のプレゼンテーションに、部長も満足したようだ。
「素晴らしい!君なら安心して任せられるよ。」
出席者を魅了したそのプレゼンテーションにより、祈願の昇進を達成したのだった。
ある日のこと、順調に進んでいたサラリーマン生活に終止符が打たれようとしていた。
「ない、ない、どこにもない!!」
悲鳴に近い焦燥的な発声は、杉山の口から出たものだった。
数少ない有給休暇を消化してまでも、彼は必死に探し回った。
しかし、どこを探しても見つかる気配がなく、絶望感に包まれながらも、あきらめざるを得なかった。
腕時計のない日々が続く中、杉山のパフォーマンスは低下し、会社からの評価も下がっていった。
結果的に、部長の心が離れたばかりではなく、降格にまで陥り、元の平社員へと成り下がってしまったのである。
腕時計と過ごした日々を思い返しながら、ふと、腕時計の言葉を思い出した。
「部長の心をつかむにはなぁ。。。」
「そうだ、時計だ!」
杉山は、手持ちの腕時計を身に付けた。しかし、この腕時計ではダメなのだ。
再び古道具屋へ足を運んだ。
「この前の腕時計をくれ!」
「はいよ~。」
古びた腕時計が手渡された。
「これじゃない!もっと新しいやつだ!!」
と、店主に要求した。
「そうかい?なら……。」
と、店主は新品の腕時計を渡した。
「よーし!磨くぞ!」
杉山は、腕時計の手入れを始めた。
「次はネクタイだ!」
新調したスーツに身をまとった杉山は、さらに磨きを上げた。
「部長、おはようございます!!」と、挨拶をした。
「おはよう。さわやかな挨拶が素晴らしいな!今後とも、ぜひ続けてくれたまえ。」
見事、部長の心をつかみなおしたようだ。
そして、プレゼンテーションも大成功だった。
「素晴らしい!君なら乗り越えてくれると思っていたんだ!」
「部長、ありがとうございます!」
「君なら安心して任せられるよ。」と、部長は杉山を激励した。
「これからも、ぜひ頑張ってくれたまえ。」
こうして、再び昇進を果たしたのだった。
時計の手入れを怠らず、常にピカピカに磨くことで、彼のパフォーマンスは向上したのだ。
そして、その成果が会社での評価へとつながったのである。
腕時計から得られたものは、自身の行動や身だしなみであったことに杉山が気づくのは、まだまだ先の話なのかもしれない。