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Chapter 8 Lunacy party


 アキレた鼠とイカレた男とウカレた兎。

 紅茶にケーキにバターパン。

 終わらないお茶会マッド・パーティーが終わるのはいつ?


 Chapter 8 Lunacy party


 少し歩くと木々がまばらになり、白兎の家の周りのように草原が広がっていた。道の先、そう遠くない所に小さな林があり、その手前にちょこんと家が建っている。

 と言っても公爵夫人の家よりも大きい。ドローレスはポケットからキノコの欠片を取り出して慎重に齧った。60センチ程の大きさになったところで、安堵して家に近づく。案の定、「三月兎の家」と公爵夫人の家と同じように書いてあった。

 チャイムを探してみたが見当たらないので、軽くノックをして待ってみた。が、一向に誰も現れない。これだったら帽子屋の方に行った方が良かったかしら、と少し逡巡し、ドローレスは玄関に座り込んだ。もうちょっと待ってみて誰も出てこなかったら、引き返して帽子屋の家に行こう。

 と、ドローレスの視界の端を小さな影がよぎった。眼を向けると、茶色の塊が後ろ足で立ち上がって不思議そうにこっちを見ている。

 茶色の兎だった。野兎のように見える。ドローレスは動物に詳しいわけでもないし、ここは不思議の国なので、そういうことはあまり関係ないだろうが。

 近づくと、人懐っこく寄って来た。座り込んでそっと手を伸ばして撫でると、嫌がる様子も無い。脇の下に手を入れてひょい、と抱き上げて膝の上に載せてみる。大人しく、なかなか可愛らしい。ドローレスも頬を緩めて兎を撫でた。

 そしてドローレスは失念していた。ここは何でもありの、不思議の国なのだと。

「やぁこれはどうもお嬢さん熱烈な抱擁をありがとう! やっぱり可愛い子に抱きしめられれば三月兎冥利に尽きるというものだね!」

「ひ……っ!?」

 膝の上に男が現れた。正確には、兎が男になったのだ。思わずドローレスが仰け反り、男に勢いのまま押し倒されて芝生に寝転んだ。

「今は四月だっけ五月だっけ六月だっけ? とにかく三月じゃぁないな! でもオレは何月だろうと三月兎、よろしくアリスちゃん!」

「……!? ………っ!?」

 ドローレスに覆いかぶさる男は、白兎のような芝居がかった優美さも、チェシャー猫のような怒る気にもなれない小憎たらしさも無かった。ただただ五月蠅く、賑やかで、破天荒な――イカレた男だった。

 兎のときと同じ茶色の髪――だが、白兎のように束ねてはおらず、寝癖で好き勝手な方向に向かっていた。服装も、正装とは言えないラフな格好で、更に着崩してある。

 男の身体の下でじたばたともがいてみるが、男は意に介さずにドローレスにじゃれついてきた。最早悲鳴も出ずに、ドローレスが顔を青くする。不思議の国に来ていろいろな事があったが、これはあまりに酷い仕打ちだ。

「……いい加減、放してやれよ、三月兎。その子、嫌がってるだろ」

 不意に、呆れた口調でそんな台詞を言いながら、少年が現れた。

 こちらの少年はドローレスよりも少し年上位に見える。正装らしき服装だが、やはりどこか着崩してあった。羽や花やリボンなどがこれでもかと付いた、酷く装飾過多な帽子かぶっているのが特徴的だった。

 三月兎は少年を見て、お、と声を上げた。ぎゅう、とドローレスを押しつぶさんばかりに抱きついたままで、にかっと笑いかける。

「なーんだよ帽子屋、仲間に入れてほしいのか? 照れてないで来いよ。お前もアリスちゃんに抱きしめてもらうか?」

「人の話を本当に聞かない奴だな……。とにかく、その子の上から退いてやれ。怖がってるだろ」

「え、そうなのか?」

「当たり前でしょ!」

 ドローレスは三月兎の言葉に、怒りで身体を突き飛ばした。ごろんと草の上に三月兎が転がるが、本人はとぼけた顔で「なーんだそうだったのか」と呟いている。反省の色など微塵もない。

 立ち上がろうとするドローレスに、す、と手が差し伸べられた。その帽子屋の手を取り、立ち上がる。ようやく向き合って、帽子屋は口を開いた。

「改めまして、僕は帽子屋。不思議の国へようこそ、アリス。歓迎するよ」

 軽く微笑んで会釈する様に、どきりとする。少し年上の少年に手を取られこんな事を言われたら、当然の反応だ。帽子から零れる茶色の髪も、なんだか懐かしい。碧の眼差しも、見覚えがある気がする。もしかしたら、どこかで会っているのかもしれない。公爵夫人の前例もある事だし。

「いよーし、アリスちゃんもお茶会に参加しなよ。楽しませてやるぜ?」

「お前が言うと卑猥だから口を閉じろ馬鹿兎」

「何だと俺が居なかったら寂しい癖にー」

「間違いなく平和になるな」

 そう言い合いながらも、二人のコンビネーションはぴたりと揃って、ドローレスを両側から引っ張っていた。半ば引きずられるようにして、両手を掴まれたまま家の裏手に向かう。

 裏庭にはテーブルとイスが出ていた。テーブルの上にはお菓子やティーカップが並べられて、甘い匂いが漂っている。

 テーブルには先客がいた。小柄な少女であり、その顔は可愛らしい。が、何故か寝間着ネグリジェを着て小さなリボンのついたナイトキャップを被っている。ある意味その格好に相応しく、突っ伏して寝息を立てていた。誰かに掛けられたのか、ガウンもはおっている。

 三月兎が隣の席に座って、彼女の頬を突っついた。んん、とうめき声が上がるが、閉じた瞼は変わらない。

「おーい、眠り鼠ヤマネ。いい加減起きろよ、アリスちゃんが来てるんだぜ?」

「あり、す……? うーん……」

 ようやくもごもごと呟きながら身体が起きるが、まだ顔は眠たげで舟を漕いでいる。上半身がふらふらとして安定しない。

 帽子屋に促されてドローレスが上座に座り、両側に帽子屋と眠り鼠ヤマネが座っている格好となった。お茶会らしく、テーブルの上にはお菓子と紅茶のポットが何セットも並び、四人しかいないのがもったいなく思える程だ。

 しかし、これがその実、全くお茶会らしくないと言う事がすぐにドローレスにも分かった。

 三月兎はバターパンに手を伸ばして、カップに並々と紅茶を注いでは飲み干している。風味を味わうなんてどこ吹く風だ。眠り鼠ヤマネは相変わらず眠たそうで、顔がだんだんと下りていっては紅茶に鼻先が沈みかけて顔を上げている。が、髪の毛には紅茶の雫が垂れており、ナイトキャップには三月兎の零したバターが付いていた。

 まともにお茶会らしく紅茶を飲んでいるのは帽子屋とドローレスくらいだ。しかし帽子屋もこの状態がまるで当たり前の常識的日常であるかのようにカップを傾けているので、ある意味では非常識だ。

 なるほど、チェシャー猫の言っていた「イカレたお茶会」の意味が良く分かった。確かに、紛う事なくイカレている。

 ドローレスは口の端に笑みを浮かべ、紅茶に手を伸ばした。折角、呼ばれたのだから、楽しまなければ。


 サブタイトルは「狂ったお茶会」。

 眠り鼠はフランス語で「眠る女の人」という意味もあるので、女の子になりました。少年にしようかとも思ったのですが、文字通りの意味を優先しました。

 次回もお茶会が続きます。

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