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Chapter 4 Trap built with sugar

 何度陥っても結果は一つ。

 砂糖シュガー アンド 香味料スパイスな素敵な物。

 今度はどんなスウィーツだ?


  Chapter 4  Trap built with sugar


 何となく白兎と居るのが危険なんじゃないかという気はしていたが、手の中の堅い感触にそれは確信に変わった。しかも良く見たら、内側から開閉できないタイプだ。外出するにしても、お客と女中メイドを置いて鍵をかけるというのは作為的すぎる。

 まるで、ドローレスを閉じ込めようとしているかのような。

 嫌な想像に、思わず眉間に皺が寄る。兎だからと油断していたが、冷静に考えれば年上の男性の家に閉じ込められているのだ。不思議の国に常識を持ちこんでも馬鹿げているが、警戒はするべきはずだ。

 ため息をついて玄関から離れ、台所らしき方向へ進む。メアリアンとやらなら、別の出入り口も知っているだろう。

 それも駄目なら、どこか一階の窓から出るしかない。大した高さでもないだろうから、怪我もしないだろう。そっちも鍵がかかっていた場合は―――

「……割っても、正当防衛よね」

 ドローレスはいささか暴力的選択肢を真剣に考えながら、台所へと続くであろうドアを開けた。

 ふわ、と甘い香りが鼻孔をくすぐり、ドローレスの心が浮足立つ。なんだかんだ言っても12歳、甘いお菓子には逆らえないのだ。見回せば、トレイの上には紅茶とショートケーキが二人分、並べられていた。

 そして誰もいなかった。

「………え」

 女中メイド消失、という想像を上回る自体に、間の抜けた声が漏れる。が、今はそれよりもケーキに目線が釘付けだ。チューイングガムが一番好きだが、ケーキだって大好きだ。女の子はお砂糖とスパイスと素敵なもので出来ている、と誰が言っていたし。

 そわそわしながら近づくと、尚更美味しそうに見える。生唾を飲み込み、辺りを見回した。当然誰もいないし、ドローレス以外は物音一つしない。

 これはもう、食べるしかない。

 この家を脱出しなければならないが、別にその前にちょっとお菓子を食べたっていいはずだ。いっぱい歩いたから小腹もすいているし、誰にも責められないだろう。第一、ここに置いてあるということは、これはドローレスに出されるはずだったケーキなのだ。だったら食べるのは当然のことである。

 フォークを取り、その銀色の輝きを白い生クリームの中に落とし入れて行く。スポンジの感触と間に挟まれた苺の感触に、ドキドキと高鳴る胸を押さえられない。唇を開き、そっとその中に白と赤の宝石を含ませる。

 舌の上に広がる濃厚なまでの甘みに、ドローレスは幸福しあわせなため息をついた。誰だろう、ため息をついたら幸せが逃げるなんて言ったのは。幸せすぎてため息が出るって言うのに。

 もう一口、と手を伸ばそうとした時、妙な違和感に気付いた。やけにトレイが近くに見えたのだ。そんなに近づいたっけ、と思うより先に、ぐんぐんと今度は遠のいていく。上に。

 そしてドローレスは思い出した。ビスケットという甘い罠の前例を。

 既に掌サイズとなったドローレスはあぁ、と深いため息をつき、呟いた。

「トレイの上に乗っていれば……」

 ケーキ一切れで、お腹一杯になれたかもしれないのに。


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 とにかくこうなったら、意地でもこの家を抜け出すしかない。ドローレスは立ち上がり、ある物の存在を思い出した。あの親切で優しいドードー鳥がくれた瓶だ。あれを飲めば、元の大きさに戻れるはずだ。

 ドローレスはとっておいて良かった、と安堵し、腰のポシェットに手を伸ばした。――否、伸ばそうとした。

 ポシェットが在るべき位置には何もない。一瞬でパニックに陥るが、ドローレスはポシェットの行き先を思い出した。

 そういえば、家に入った時に白兎に取り上げられたのだ。スリも驚きの、一瞬の離れ業で。

「……やるわね白兎……」

 ケーキを無断で食べた事は自業自得なのだが、そこは気にしない。

 今や小さく縮み、元の十分の一も無くなってしまった。周りに置いてある物から察すると、7センチ程度だろうか。きょろきょろと周りを見回し勝手口を見つけて、ドローレスは唇を尖らせた。

「鍵がかかっていないと良いんだけど。……その前に、今の私じゃ開けれそうにないわね」

 ため息をついて、とりあえず扉に向かって歩く。近づいてみると、扉の下の隙間からなんとか出れそうだ。小さくなりすぎても、なんとかなるものらしい。

 体を地面に擦りつけながらようやっと、ドローレスは家の外に出た。ケーキが惜しいが、そうも言っていられない。白兎が帰って来ないうちに、なるべく遠くに行くとしよう。

 ドローレスは服に付いた土を払い、家の裏から続く道を歩き始めた。その道の先を見やると、森へと続いている。

「さて、あそこでもう少し大きくなれる何かを食べれると良いんだけど。流石にこの大きさじゃぁ、踏みつぶされても文句が言えないわ」

 独りごちて、ドローレスはため息をついて歩き始めた。

 ため息をつくと幸せが逃げると言った人は、どうやら正しかったようだ。

 サブタイトルは「砂糖でできた罠」。

 今回は話の都合上、少し短めです。身があるようでないような話ですが、つなぎなので許して下さい。でも、一番かわいい内容になった。

 次回で一応、ストック終了となります。そして最大のヒントの提示終了。正解者出るといいなぁ。


 感想・批評等下さると、糸冬は叫びだして笑いだすほど喜びます。ドローレスの正体見破ったりという方はメッセージでお願いします。

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