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Chapter 2 into wonderLand

  愚鈍なドードー鳥は彼女と走る。

 終わりと始まりと結果のない競争レースで。

 辿りつく先、それは何処?


  Chapter 2 into wonderLand


 いつの間に現れたのだろう、不格好な姿の鳥が背後に立っていた。嘴は大きく、少し曲がっている。どこかひょうきんな顔は鳩のような、しかし雉にも似ている身体つきだ。羽はあるが小さいし、身体もずんぐりとしている。これでは飛ぶことは出来ないだろう。その代わり、足はしっかりとしていて速そうだ。

「あ、貴方、誰?」

 突然現れた見知らぬ鳥に、ドローレスはつっかえながらも尋ねた。どうやら喋れるようだし、話の通じない相手ではないと思いたい。

「どーどーどり。ようこそありす、ふしぎのくにへ」

「ドードー鳥、さん?」

 さん付けをするか否かを少し迷いながら、ドローレスが聞き返すと、こっくりと縦に首が動いた。どうやらさん付けで良いようだ。ちょっと迷った後、ちゃんと訂正しておくことにした。

「ええと、私はドローレスよ」

「………? ありす、ちがう? おんなのこ、ありす」

「……………」

 もしかして、ここでは女の子なら皆アリスと呼ばれるのだろうか。だとしたら面倒な話だ。というか訂正の仕様がない。

「……もう良いわ。アリスでもなんでも。それで、貴方はどうして私に話しかけて来たのかしら」

「ありす、つれていく、ふしぎのくに」

「ここは、不思議の国とやらじゃないの?」

 兎や鳥が喋ったり、ビスケットを食べて小さくなったり、十分に不思議な気もするが。ドードー鳥は首を傾げ傾げ、ゆっくりと嘴を開いた。

「ここは、いりぐち。まだ、ちがう、……と、おもう」

「曖昧ね。まぁ、良いわ。ここに居てもどうしようもないもの。さしあたっては、その不思議の国とやらに行きましょう」

 にやりと笑いながらのドローレスの言葉に、ドードー鳥は小さな目を細めて嘴を小さく震わせた。その仕草はやはりどこかひょうきんで、微笑んでいるように見える。もしかしたら本当に笑ったのかもしれない。兎だって笑っていたのだ。

 ひょこひょことドードー鳥は近づき、首を下げた。ドローレスの足元に頭を垂れるような仕草に眉をひそめる。スカートの中を覗かれたりはしないと思うんだけど一応、と注意を払い、足を一歩下げる。と、

「ひゃあああああっ!?」

 ぐぅん、と首が上がり、身体が目がぐるりと回る。ドローレスは気付けばドードー鳥の背中に居た。柔らかな羽毛に座り込み、暴れる心臓を落ち着かせて唇を尖らせる。

「いくらなんでも、レディにする行動とは思えないわね」

「ありす、くび、つかまる。はしる」

「え? ……っ!!」

 ドードー鳥の言葉が終わるや否や、風が頬を打った。物凄いスピードで走り出したのだ。慌てて首に腕を回して、羽をぎゅっと掴む。馬にまたがるように、ドードー鳥にまたがって走る日が来ようとは思わなかった。

 周りを見る余裕も無い。振り落とされないように必死になって羽を掴み、下を噛まないように切れ切れに呼びかける。

「ねぇ、ドードー鳥、さん。もう少し、ゆっくり、行けないのかしらっ」

「ちこく。ちこく。にねんのちこく」

「遅刻……?」

 そう言えば、白い兎もそんなことを言っていた。二年の遅刻だ、と。

 遅刻だなんて言われても、ドローレスはここに来る予定はなかったはずだ。それなのに遅刻。それも二年もと言われてもぴんとこない。随分と大規模な遅刻もあったものだとは思うが。

 二年前、なにか約束でもしたかしら、と考えてみるが、二年前と言えばドローレスは十歳だ。二年も待たせても達成しなければいけないような約束など、していなかった気がする。

「……実は、人違いでした、じゃ、ないでしょうね……」

 アリスじゃないし。

 ドローレスだし。

 益体もない事をつらつらと考えていると、いつの間にかドードー鳥の足音が爪で掻く堅い音ではなくなっていた。ぐらつく視界で足元を見れば、廊下の堅い床ではなく、所々に小石が転がり草の生えた地面。

 驚いて視線を上げると、壁も扉も天井も無くなっていた。いつの間に外に出たのだろう。見渡す限り、何と言うか、マザーグースに出てきそうな風景が広がっている。草原、森、その間を駆け抜ける小道。遠くに見えるあれは農場だろうか。

 いつまでこうして走るのだろう、とドローレスが考えていると、不意にドードー鳥の足が緩やかになった。だんだんとゆっくりになり、遂には止まって座り込んだ。降りろという事だろうか。

 ふわふわな羽を滑らないように慎重に下りて、ドローレスはドードー鳥に向き直った。一応、お礼を言うべきだろう。随分長い事乗っていた気がする。

「ありす、あげる、これ」

「え?」

 つん、と大きな嘴で差し出されたものは、可愛らしい小さなポシェットだった。困惑しながらも受け取り中身を見てみると、小さな瓶が入っていた。ラベルには「私をお飲み」と書いてある。

 ビスケットを彷彿とさせる言葉だった。また大きさが変わるのだろうか。一応、ドードー鳥に聞いてみようと顔を上げると、ドードー鳥は小さな目を細めて嘴を震わせた。

「それじゃ、また、ね」

「え……?」

 ドローレスがどういう事か問い詰めるよりも早く、ドードー鳥の足が動いた。見る見るうちに速度を上げ、あっという間にその姿は小さくなっていく。ぽかんとするドローレスをその場に残し、走り去ってしまった。

 ドローレスは驚きと困惑の後、手の中の瓶を見た。開けてみて匂いを嗅ぐと、甘酸っぱいお菓子のような香りがする。フルーツジュースのような匂いだ。

 ビスケットの前例で言うなら、間違いなくこれは大きさが変わる何かなのだろう。問題はそれが、大きくなるのか小さくなるのか、だ。ラベルには「私をお飲み」としか書かれておらず、成分も用法も用量も効用も書かれていない。

「全く、不親切ね。せめて大きくなるか小さくなるかだけでも書いてくれないかしら」

 普通は食べたり飲んだりしただけで身体が伸びたり縮んだりはしないが、ここではそれが当たり前のように感じる。それが、不思議の国。常識は非常識ファンタジーで、日常は非日常メルヒェン

 開けてみて、そっと、ほんの少しだけ口に含む。思った通り、さっぱりした酸味と甘みのあるジュースのようだ。思わず二口目を飲んでしまいたいのを押さえ、口を離す。大きさがどう変わるにせよ、あまりに突拍子もない大きさになるのは嫌だ。

 さてどっちかな、と身体を見下ろすと、地面が急に遠く離れた。くら、と眩暈がおそい、慌てて体勢を立て直す。ぐんぐんと地面が離れ、目の高さまであった草花が小さくなっていく。どうやら大きくなっているようだ。

 数秒でその変化は終わり、ドローレスは自分の体をじっくりと眺めた。服やポシェットも体に合わせて大きくなっており、手に持った瓶も小さくなっていない。しばらく考えてみて、元々の145センチに戻ったのだとほっと胸をなでおろした。これなら、人に会っても大丈夫だろう。

 ドローレスは少し考えた後、瓶に蓋をしてポシェットの中に戻した。また何かあって小さくなった時に役に立つだろう。

 ポシェットを肩から提げて、どうしようか、と考えながら辺りを見回す。と、ドローレスの立つ道の先に家が見えた。こじんまりとした可愛らしい家で、小さな庭も付いている。さしあたってする事もなく、行く場所もない。

 家に向かって歩き出しながら、今度は一体どんなびっくり動物が出てくるのかと、ドローレスは期待と不安に胸を膨らませた。

 タイトルは「不思議の国の中へ」。そのまんま。


 ……三日連続で更新してどうしようというのだ自分……。

 感想・批評など下さると、糸冬は狂喜乱舞します。

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