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Chapter 1 gallery Of door


 開かないドアと届かないキィ

 身体サイズは変わるが結果は変わらず。

 扉の向こうへ、どうやって?


 Chapter 1 gallery Of door


 気付けば、ドローレスは穴の中を落ちていた。でもその速度はゆっくりで、まるで優しく下ろすみたいな落ち方だった。初めは面白くてはしゃいでいたが、いつまでたっても、何処にもつかない。

「退屈だわ。さっきの兎も、いつの間にかいなくなっちゃったし」

 辺りを見回すと、食器棚や本棚が壁のように並んでいる。週刊誌や写真集が見当たらないので、ドローレスは本棚には見向きもしなかった。が、食品棚があれば、チューイングガムがないかちらりと覗いた。空っぽのマーマレードの瓶くらいしかなかったが。キャンディは漂っていたので拾ってみたが、嫌いなハッカ味だったので止めた。

 ため息をつき、ふわふわと心もとなく翻るワンピースを押さえる。

「いい加減、何処かに着ければいいんだけど。……あら」

 不意に、下の方が明るくなり廊下が見えて来た。ドローレスの体はふわりと廊下に降りたち、白いワンピースの裾が膝裏をくすぐった。何時の間にか、服は乾いていた。

 廊下の壁には、隙間なく扉が並んでいた。どれもこれも何所か違い、装飾の多い華美なものも地味な木の扉もある。大きな物もあれば小さな物もあり、金もあれば石もある。ただ一つ共通している事といえば、その全てには錠が付いていた事だ。

 ドローレスは驚いて廊下の壁を、つまり扉を眺めた。これ程に多くの種類の、そして一度にこんなに沢山の扉を見たのは初めてだったからだ。眺めながら廊下の先に目をやる。

 と、長い廊下の先にあの兎が立っていた。ひげをぴくんとさせて、耳をゆらゆらと揺らす。ドローレスを見つめ、小さな口を開いた。

「やぁ、アリス」

「……今更だけど、私はアリスじゃないわ」

 ため息をつきながら、吐き出すように言う。名前を間違えられるどころか、既にそれは別人の名前だろう。アリスアリスと連呼されては気が滅入る。

 あの家から逃げ出したいがために兎についてきてしまったが、ドローレスはアリスではない。ローだったりローラだったりドリーだったりと愛称は様々あるが、ドローレスであってアリスではないのだ。

 兎は首を傾げ、ルビー色の瞳を瞬かせた。心底不思議そうに、小さな口を再び開く。

「アリスは、アリスだろう?」

「だから、私の名前はアリスじゃなくて……っ!?」

 言い終える間もなく、兎は背を向けて駆け出した。さすが兎、というべきか、その足は速い。見る見るうちに小さな姿は小さくなっていく。慌ててドローレスも足を動かし、ついでに口も動かす。

「ちょっと、待って! 待ちなさいよ!!」

 ドローレスが言い終わるころには、兎は長い廊下を渡り切り、角を曲がって行ってしまった。息を切らしてドローレスも追いかけ、ようやく角に差し掛かり曲がる。が、ドローレスが視界の端に兎を捉えたところで、兎は小さなカーテンの向こうに姿を消した。

 ドローレスは唇を尖らせて、カーテンに向かって歩き始めた。兎と違ってカーテンは逃げないし、走るのも面倒なのだ。

 カーテンを捲ってみるが、当然のように兎の姿はない。代わりに、小さな小さな扉が在った。人間が通るには非常識も甚だしい大きさで、兎が通るにはちょうど良い大きさといったところだ。

 ドローレスも小柄な少女だが、当然これでは通れない。しかしおそらく、兎はここへ入っていったのだろう。

「おいでって言ったくせに、エスコートもしないのかしら」

 と呟くが、それを聞くべき白く小さな姿はなく、ドローレスは一人ため息をついた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ドローレスが振り向くと、いつの間にかそこには透明なガラスのテーブルが在った。先ほどまでは全く気付かなかった――否、もしかしたら、今この瞬間に現れたのかもしれない。そんな可能性さえ浮かんでくる。

 テーブルの上には小さな鍵と、ビスケットが入った小さなバケットが置いてあった。バケットには「私をお食べ」と書いてある。私、とは、ビスケットの事だろう。

「あからさまに、怪しいのよね。ここにきていきなりお菓子だなんて。でもお腹もすいてきたし……」

 ドローレスは腕を組んでじっとビスケットを睨みつけた。着飾った兎が立ち上がって喋る世界だ、何があってもおかしくはない。それこそ、ビスケットも喋り出したら堪らない。「私をお食べ!」とか。

「……あの兎は私を、というかアリスを歓迎してたみたいだし、毒ってことはないと思うけど……どうしよう、食べちゃおうかな」

 ひとしきり一人言を言って、ドローレスはビスケットを摘みあげた。そして、ひょい、と口に頬り込む。この際、毒でないなら良いと思うことにした。なかなかおいしかった。

 もう一枚摘んで――異和感に気付いた。ビスケットが大きくなっているように感じたのだ。今度は三口で食べ終わり、もう一枚を手に取ろうとする頃にはそれははっきりと自覚できた。

 ビスケットが大きくなっているのではない。ドローレスが小さくなっているのだ。

 さすがに身体の大きさまで変わるとは思わなかった。これからは不用意にお菓子を食べないようにしよう、と思って、ふと思いついた言葉を零した。

「……………ケーキ一切れで、お腹一杯になるわね」

 元の身長の四分の一よりも少し小さい、25センチほどまで縮んだところで、その奇妙な変化は終わった。ドローレスは服も一緒に縮んでいることに安堵し、テーブルを見上げた。

「さて、どうしようかな。鍵は置いてきちゃったし。こんなことなら、扉を開けてからビスケットを食べれば良かったわ」

 という物の、言葉ほど深刻に困っている訳ではない。小さく去った所為か、ちょうど今のドローレスの背丈ならば軽くかがめば鍵穴が覗けそうなのだ。扉の向こう、白兎が走って行った世界はどんなところなのか、気にならないわけがない。

 扉に近づいて背を曲げ、片目をつぶって鍵穴の向こうを覗いてみる。と、その小さな穴の向こうには輝くような光景が広がっていた。

 僅かに隙間から見える光景だけでも、母が自慢する庭とは比べ物にならない。しっかりと手入れのいき届いた木々は、暖かい色の石畳の道に影と光を落としている。丁寧な細工の施された噴水では、冷たいと触らずともわかるダイヤモンドのように煌めく水が噴き上がっていた。眩いほどに色彩が溢れて、花々の咲き乱れる花だん。そこに舞い踊り飛ぶ、様々な種類の美しい蝶たち。

「綺麗……」

 思わず口から言葉が零れ、感嘆の息が漏れる。あの石畳を歩いて、花を眺める事が出来たらどんなに素晴らしいだろう。映画のワンシーンのようで、きっと楽しいに違いない。

 しかし鍵には手が届かず、他の出入り口などわからない。今度は絶望に息を吐き、困ったわね、と一人で呟いた。が、思わぬところから答えが返って来た。

「ありす」

「え? きゃぁっ!?」


 タイトルは「扉の回廊」。美術館の絵のように扉が並んでいるイメージです。

 話の展開に面白みがかけているとは思いますが、如何せん主人公がキャーキャー言うタイプではないのです。最初のうちはかなり展開が早いかと思われます。


 感想、批評などと下さると、糸冬は小躍りして喜びます。

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