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Chapter12 Lone pride

11/02/21 改稿。

 誇り高く孤高であれ、空の王イーグルであり獣の王ライオン故に。

 鳥が決して従わぬとも、獣が決して寄りつかぬとも。

 家臣が一人とてあらずとも、それはグリフォン足るのであろうか?


  Chapter12 Lone pride


「偽海亀に会うには、まずはグリフォンの所だな。後はあいつに任せりゃ連れて行ってくれるさ」

 不意に耳に入って来た甲高い声に、意識を引き戻される。どうも長く歩いているうちに、ぼんやりしてしまったらしい。先を歩くチェシャー猫に目をやり、ドローレスは首を傾げた。

「貴方は連れて行ってくれないの?」

 ドローレスの問いに、チェシャー猫はしばらく沈黙を続けた。そして珍しく困ったような表情を浮かべ、小さな声でぼそりと言う。

「ドローレスお嬢ちゃん、おれはチェシャー猫だ。イカレた世界で言うのもなんだが、常識的に考えて、猫ってのはじめじめした場所が大嫌いなんだよ」

 海に好んでいるのは海猫くらいだ、とぼそぼそと呟く。しんなりと髭の垂れた様子からすると、紛れもない本心のようだ。

 海の話題は避けた方がよさそうだ、と思い、ドローレスは少し考えた。前を歩くチェシャー猫に、えぇと、と問いかける。

「グリフォンって言うと、確か……神話とかに出てくる、怪獣の事?」

「………それ、本人には絶対言わない方が良いぜ。怪獣扱いされたら、プライド高いあのバカは怒り狂っちまう。『グリフォン』はそこまで『アリス』に友好的な生き物じゃないしな」

「気を付けておくわ」

 チェシャー猫の言葉に、ドローレスがため息交じりに答える。チェシャー猫は時折ちらちらと振り向きながら、ドローレスに話しかけた。

「グリフォンと、偽海亀。こいつらはこのトチ狂った世界の中でも逸品中の逸品って具合にイカレてる。まあ、一目瞭然、百聞は一見に如かず、見れば分かるがな」

「今までも相当、イカレてると思ってたけど……その二人が一番なの?」

「一番と言うか、あいつらは飛びぬけてんのさ。存在そのものがイカレてやがるからな」

 存在そのもの、とは一体どういう状態なのだ、とドローレスが首を傾げていると、木々が急に疎らになり林を抜けた。小さな草原の向こうには岩場があり、そこの岩に座ってそれはいた。

 金色の髪がばさりと揺れ、背中の翼がばさりと揺れた。獣のような黄金の瞳は胡乱気にドローレスを上から下まで眺め、ふん、と鼻を鳴らした。ぴしん、と鞭のように薄茶の毛皮の尻尾が跳ね、草いきれが舞いあがる。

「チェシャー猫に、アリスか。ふん、俺様に会うというのに手土産の一つもないのか? それにチェシャー猫、お前は確か海が嫌いじゃなかったか」

「嫌いだけどねぇ、女王陛下の頼みとあらば仕方ないさ」

 低く唸るような声に、チェシャー猫の耳が垂れて尻尾が丸まる。言葉こそいつも通りに飄々としているが、その態度は怯えきっていた。ドローレスは驚いて、その原因たる男を見つめた。今まで見て来た誰よりも服装は気軽カジュアルで、街中で見かけても違和感がなさそうだ。その翼と尻尾がなければ、の話だが。

「貴方が、グリフォン、なの?」

「俺様以外に一体だれが居るって言うんだ? あんまり舐めた口聞くと喰うぞ」

 あぁん? と脅すように睨みを利かせて、男―グリフォンはドローレスに視線をやった。その鋭い視線にたじろぐが、唇を引き結んで堪える。

 チェシャー猫はぶる、と身体を一振るいすると、その体を消した。戸惑うドローレスの肩辺りに顔だけ現れて、耳元に口を寄せる。

「グリフォンは見ての通り、偽海亀もそうなんだが、獣でも人でもない姿をしている。この世界の住人はドローレスお嬢ちゃんみたいな『人間』か、おれや兎どもみたいな二つの姿を持っている『獣』のどっちかなのさ。なのにこいつらときたら、本来の姿と人間の姿が混じってやがる」

 まあ元々の姿も混じり混じった合成獣キマイラだがね、と本人には聞こえないようにこっそり囁く。ドローレスはそれを聞いて、グリフォンの不思議な姿に納得した。それで鷲の翼と獅子ライオンの尻尾が生えている訳か。

「……ところで、どうしてそんなに怯えているの?」

「グリフォンは完全なる捕食者だからな。家猫であるおれは、到底逆らえないんだよ」

 チェシャー猫の自由奔放な振る舞いに忘れかけるが、彼はあくまで公爵夫人の飼い猫なのだ。流石に野性味の溢れる神話の獣に逆らおうとは思えないのだろう。

 チェシャー猫は再び姿を現して地面に降りると、身を低くしてグリフォンに話しかけた。

「グリフォン、このお嬢ちゃんを偽海亀の所に連れて行ってくれよ。偉大なるグリフォン、獣の中の王、あんたなら快くやってくれるだろう?」

「当たり前だ、任せろ。俺様に出来ない事はない」

 グリフォンの余裕綽々、自信満々の答えと満足げな態度に、ドローレスは呆れた目でチェシャー猫を見下ろした。逆らえないとは言っていたが、思うようには動かせるらしい。

 全く、性質たちの悪い猫だ。


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 チェシャー猫はグリフォンの返事を聞くと、ドローレスの嫌味も聞かずに消えていった。金の眼もにやにや笑いも残っていないので、本当に何処かへと行ってしまったようだ。グリフォンが苦手なのは本当らしい。

 きょろきょろと辺りを見回すドローレスに、グリフォンが顔を顰めて尻尾を鞭のように鳴らした。苛立った声で怒鳴る様に言う。

「おいアリス、さっさとついてこい。お前の脚は飾りなのか?」

 その高飛車な態度にむっとするが、言い返しても無駄だろう。今までの態度からすれば、下手に逆らうよりも黙ってついて言った方が賢明だ。

 グリフォンに追いつくと、彼はドローレスの方をちらりとも見ずに歩き始めた。足の長さが違うので、ドローレスはどうあっても小走りになってしまう。気を紛らわそうと、グリフォンに追いついて話しかける。

「ねぇ、グリフォン。貴方と偽海亀は、友達なの?」

「友達? 馬鹿言うな、俺様は孤高の空の王にして獣の王だ。甘ったれた関係なぞいらん。……それに、あいつは苦手だ。塩辛いから喰う気にもなれん」

 友達が居ないと言うよりなってくれないんじゃないか、とドローレスが思っているのが伝わったかのように、グリフォンの言葉が続いた。傲慢を形にしたかのようなグリフォンが苦手と言い切る偽海亀。もしかして、同じくらいに高圧的で高慢なのだろうか。

 そんな人が二人もいるところに立ち会いたくはないわ、とドローレスが思っていると、グリフォンの足が止まった。大きな赤い岩がごろごろと転がり、足元は草ではなく砂浜。潮の香りが鼻孔をくすぐり、目の前には蒼く広い海が広がっていた。深い青と緑が入り混じった、重厚な色みの海だ。

 ドローレスが久しぶりに見た海に感嘆の息を漏らしていると、波の合間に小さな音が聞こえて来た。グリフォンが音の聞こえる方に歩き始めたので、だんだんはっきりと聞こえてくる。すん、すん、と鼻をすする小さな音だ。

 大きな岩を迂回して、ドローレスがその向こうを見ると、そこには一人の少年が岩の上に蹲っていた。

 少年は、目の前の海のようなダークブルーからダークグリーンへのグラデーションの髪をしていた。一見、髪の色が不思議な普通の子供にも見えたが、ふらりと背後で揺れる物がそれを打ち消していた。グリフォンの物にも似ているが違う、牛の尻尾がひょろりと力なく生えて垂れていた。

 すん、すん、と絶え間なく続く音に、グリフォンが苛立った調子で声を上げる。

「おい、偽海亀。アリスがお前に会いに来たぞ」

「アリスが……、僕に、僕なんかに、ですか……?」

 少年―偽海亀は顔を上げて、ドローレスを見上げた。びくびくと怯える様に肩が震え、視線は右往左往を繰り返して落ち着きがない。擦れた声は顔に浮かんだ表情と同じで酷く弱々しく、グリフォンが一声上げればそれだけで心臓が止まってしまいそうだ。

 ドローレスは傍らのグリフォンを見上げ、偽海亀を見下ろした。暴慢で不遜なグリフォンと、卑屈で泣き虫な偽海亀。グリフォンが少し身じろぎする度に、偽海亀は大きくびくついて泣きそうな顔になっている。

 なるほど、確かに相性は悪そうだ。


 サブタイトルは『孤独な傲慢』。

 七つの大罪の一つの傲慢、これを象徴する動物の一つにはグリフォンが含まれているそうです。鷲とライオンを含んでいるため王家の紋章としても使われるので、傲慢な王様気どりのキャラクターになりました。

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改稿いたしました。

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