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Chapter11 strAy heroine

11/02/18 改稿


 残酷な三人のお姫様、男に命じたのは一つの世界(テイル)

 黄金の昼下がりにボートの中で、少女は世界(リアル)から飛び出した。

 少女は帰ってくるのだろうか?


  Chapter11 strAy heroine


 『アリス』。

 何度も呼ばれて、何時の間にかそれにも慣れた。訂正してもよく分からない答えが返ってくるし、何も言わずとも皆がそう呼ぶ。

 だからそれは、そう言う物なのだと。そうやって、馴染んでしまった。

「貴女が、アリス……?」

「一番初めの、ね。この不思議の国が始まった時に、最初に迷い込んで来たアリス。それが私なの」

 今は、『登場人物』だけれど。と付け加えて、紅茶に舌鼓を打ち女王は笑みを浮かべた。ドローレスは差し出された紅茶に角砂糖を落とし、スプーンでかき混ぜた。角が取れて、だんだんと丸くなっていく。

「その、『登場人物』って何なの? まるで御伽噺だわ」

「お嬢ちゃん、鋭いねぇ。その通りだ、おれたちは娯楽みたいなもんなんだよ」

 ふざけるように、チェシャー猫はにやにやと答えた。女王も笑みを浮かべ、言葉を重ねる。

「外の、現実の世界から迷い込んでくる『アリス』を迎え入れて、楽しんでもらうのが私たち『登場人物』の意味よ。私はこの世界の支配者、『ハートの女王』という役割を与えられてはいるけれど、元々は『アリス』としてこの世界へやって来たの。


 でも、現実に帰るのが嫌になったのよ」


「嫌、に?」

 ドローレスの言葉に、女王はまるで少女のように唇を尖らせた。カップを両手で包むように持ち傾け、喉を潤して続ける。

「だって、現実なんて嫌なことばかりじゃない? 不思議な事も夢見がちな事も起こらないなんて、あまりにもつまらないわ。だから私はルイスにお願いして、『登場人物』としてこの世界に留まったの」

 ルイス。また見知らぬ名前が出てきた。ドローレスの訝しげ顔に気付いたのか、女王は言葉を続けた。

「ルイスは、この世界の作り手。現実の世界で私のお友達だったわ。……でももう、それ以外の事は思い出せないのよね」

「え?」

 お友達、という言葉から親しげな様子を想像していたのだが。簡単に忘れてしまう様な人だったのだろうか。内心で首を傾げるドローレスを察したのか、チェシャー猫がにやにやと口を開いた。

「言ったろう、お嬢ちゃん。馴染むなよって。この世界の一部として、『登場人物』として馴染んでしまうと、現実の世界をだんだん忘れてくんだよ。いつかは、ずっとここに居ると思いこむただの『登場人物』だ」

 かちゃり、とスプーンが止まる。砂糖は溶けきって、澄んだ紅茶の中に消えていた。

 猫は喋らない。扉は空間を飛び越えない。そんな当たり前の事でさえ、いずれは忘れてしまう。なぜならそれは、現実の世界の記憶だから。

「……私も、『登場人物』になるの?」

「お嬢ちゃんが望むのなら。『アリス』は現実から逃げ出したい子供にしか与えられない『登場人物』だからな。『白兎』はソイツを選んでここに連れてくる」

 現実から逃げ出したい。

 なるほど、確かに『白兎』は間違っていないようだ。ドローレスは『アリス』で、人違いでもなんでもない。ドローレスは逃げ出したいと思って、望んで白兎に付いてくる事を選んだのだから。

 ■の腕の中から。

「お嬢ちゃんが望まなきゃ、ルイスはお嬢ちゃんを留めたりしねぇよ。安心したかい? お嬢ちゃん」

 気付けば、チェシャー猫に心配されていた。きょとんとすると、チェシャー猫の方も首を傾げる。

「自覚しちゃいねえのかい。お嬢ちゃん、真っ青になってたぜ?」

「紅茶、冷めちゃったかしら。お代りはいる?」

「あ……いい、わ。大丈夫」

 女王からも心配するような言葉をかけられ、つっ換えながらも言葉を返す。なんだろう。今、何かおかしかったような。

「……そういえば、この世界に知り合いっているような物なのかしら?」

 彼等の話ならば、現実のものは一切入り込めないようにも感じる。が、公爵夫人の姿を思い返すと、それも怪しい。チェシャー猫はにやにや笑いのまま、訝しげな表情を作ってみせた。

「知り合いって……あぁ、知り合いとおんなじ顔が居る事もあるな。そいつらはお嬢ちゃんが連れてきた『挿絵』だ」

「挿絵?」

「この世界は今、貴女が主人公『アリス』だから。『アリス』の現実――逃げ出したいと思った要因の断片が入り込む事が在るのよ。変わるのは外見だけだから、私たちは『挿絵』と呼んでいるの」

 文章に個人が絵を想像するようにね、と女王が付け足す。ドローレスは紅茶に口を付け、唇を尖らせた。

「なんだか、妙な話ね。現実から逃げ出したくて来たのに、原因が付いてくるなんて」

「ルイスの考える事なんて、『登場人物』には計り知れないわよ」

 と、女王はにっこりと笑みを浮かべた。

「そうだわ。ねぇ貴女、偽海亀の所へは行った?」

「偽、海亀?」

 女王からの唐突な問いに、怪訝な顔で答える。第一、偽海亀とは何だろう。海亀に似た何かだろうか。ドローレスの表情に、女王は名案を話すように続ける。

「まだ会っていないのなら、是非会ってみなさい。面白い子たちよ。そうねぇ……チェシャー猫、道案内をお願いできるかしら」

「おれがかい?」

 チェシャー猫は自分に話の矛先が向くとは思っていなかったらしく、目を真ん丸くした。そして迷いの後、嫌そうな顔で頷く。

 そこまで嫌なら断ろうか、とドローレスが思っていると、チェシャー猫の姿がするりと消えた。驚くドローレスの足元から、飄々とした声がかけられる。

「お嬢ちゃん、さっさと行こうじゃないか。何、海岸までそうかかるわけじゃない」

「……分かったわ。それじゃぁ、女王様、ありがとう」

「いいえ」

 微笑む女王にお礼を言って、ドローレスは猫の姿になったチェシャー猫の後を追った。薔薇園を抜けて、林の中に入る。遠くから微かに潮の香りが漂ってきた。

 それにしても偽海亀とは、一体どんな生き物なのだろうか。

 サブタイトルは『迷子のヒロイン』。意訳ですが。

 このお話の成り立ちと根底について。ヒントや伏線を張り巡らしたりする回。ドローレスの正体が、これから次第に浮かび上がっていきます。

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 改稿続く。もはや別の話になってます。

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