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Chapter 0 Late of two years

 この小説は「不思議の国のアリス」と下地として展開していきます。擬人化注意です。原作の流れに沿って物語が展開していきますが完全に同じではなく、少しずれている部分もあります。そこはあくまで下地という事で御容赦ください。


 最後に、この物語の主人公はアリスではありません。少女が何者なのか、が主題になってきます。暇な方は考えながら読み進めてみて下さい。

 ……正直、名前でうまく検索をかければネットで出てくる可能性もありますが。

 遅刻だ、遅刻だ!

 遅刻したのは一体誰だ?

 君はA? それともL?


  Chapter 0 Late of two years


 スプリンクラーが回っていた。水しぶきを芝生にまき散らし、さらさらと微かな音を立てている。その光の中には、白いワンピースの少女。

 十歳を少し過ぎた程の年ごろだろうか。少女は濡れるのも構わず、芝生にうつ伏せに寝転がって雑誌をめくっていた。モノクロの写真が水に濡れ、そのページを操る白く細い指もまたしっとりと濡れていた。

 ゆらゆらとウェーブのかかった鈍く輝く茶色の髪は、水に濡れて輝きを放っていた。伸びるままに任せたその長い髪は、水を吸い服や肌に張り付いている。頬づえをついた腕に絡みつき、白く細い喉にブロンドの流れが淡く光る。

 ぱらりとページが捲られて、またモノクロが覗く。髪と同じ色の長い睫は伏せられ、その青みを帯びた灰色の双眸はどこか眠たげで、どこか憂鬱気でもある。視線はモノクロの平面を彷徨うが、そこには明確な意図は感じられない。

 その物憂げで落ち着いた表情とは裏腹に、ぱたりぱたりと足を上下させていた。ゆっくりとした足の動きに合わせ、ワンピースの裾は徐々に捲れていく。脹脛ふくらはぎが顕わになり、白く窪んだ膝裏が覗き、太腿ふとももがちらりと姿を見せる。その奥までは窺う事は出来ないが、薄手のワンピースも水で肌に張り付き透けて、下着がうっすらと線を覗かせている。

 さく、と柔らかい音がした。芝生を踏む音。母親だろうか。淡く黒い影が写真の上に落ちる。

「―――遅刻だ、遅刻だよ、アリス」

 不意に、子供っぽい声が落ちて来た。

 影に沿うようにして目線を向けると、小さな革靴が目に入った。小人が履くかのような小ささに目を丸くし、少女は顔を上げた。

 そこにあったのは、正装して懐中時計を片手に持った、白い兎。紅い目がきらきらと光り、少女を見つめる。

「二年、二年の遅刻だ。アリス、僕らのアリス」

「アリス……?」

「おいでよ、さぁおいでよ、アリス」

 兎は長い耳をゆらゆらさせて、小さな白い手袋をはめた手を差し出した。その紳士的で優雅な姿に、しかしどこか戯曲的でわざとらしい態度に、少女は唇の端に笑みを浮かべた。

「そうね、貴方は私を何処へ連れて行く気?」

「僕らの世界に、兎の穴の底に」

「……なんだか居心地が悪そう。それに、アイスクリームもチューイングガムもなさそうね」

 ふぅ、とため息をついて見せると、白い兎はにやりと口を歪めた。小さな口から白い歯が覗き、口の端がくい、と上がる。兎の顔であるのに、それは間違いなく歪な笑顔だった。

「お菓子が好きなら、お茶会をしよう。終わらないお茶会を」

「ガムはある?」

「どうだろう。ケーキと紅茶なら請け合いだ」

「私はガムとジュースの方が好きよ。でも……」

 家の中から、甲高い声が聞こえて来た。口うるさい母親の声。少女はそれを耳にして、くす、と笑みを浮かべた。それは妖精が微笑むよりも可愛らしく、悪魔が嘲笑わらうよりも狡猾な笑み。

「……ここよりは、マシかもしれないわね」

「アリス、あぁ、僕らのアリス。……一緒に、兎の穴に落ちよう!!」


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 スプリンクラーが回っていた。水しぶきを芝生にまき散らし、さらさらと微かな音を立てている。その光の中には、モノクロの写真集が開かれたまま置かれていた。

 と、庭に化粧をした女性が現れた。三十代半ばに差し掛かった程で、ブロンズがかった茶色の髪がばさりと背中で揺れる。端正な顔を歪め、醜悪なほどに赤い口紅を塗りたくった唇がわななく。

「ロー、ロー、返事をしなさいっ。どこに隠れているの!? ……ドローレス!!」

 半ば叫ぶような、甲高い声。だが芝生の上にも、スプリンクラーの下にも、庭の何処にも少女は居ない。残された雑誌の上に、一匹の蝶が止まっているだけだった。

 羽を揺らめかせて、惑わせるように、舞うように。ひらひら、ひらひらと。

 サブタイトルは「二年の遅刻」。 

 結構、既に伏線はばらまいてあります。さーて回収できるかな。

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