オカルトがないホラー
夏のホラー2023投稿用です。
超常現象は一切出てきません。
ですがホラーです。
これは純粋なホラーです。
…………ある意味。
「毎日毎日、本来の仕事の事務作業以外にもアレしろコレしろ、話し好きの上司と面白くもないおしゃべりの強要……ホントいやになるわぁ」
私はしがない小さな会社の事務職員。
事務職とは名ばかりの雑用係で、ありとあらゆる裏方仕事を押し付けられる。
いつも社内にいるからと明らかに私の職務とは無関係な仕事もたのまれ、私が女だからお喋り好きだろうって、お喋り好きな上司が上司の仕事の合間に話しかけてくる。
そのお喋りは上司だからと無視できないから応じるけど、そうなったらそうなったで調子に乗ってきて、気が付けば部下の愚痴をグチグチグチグチ長話し始める。
そしてそれに応じていると仕事が溜まりに溜まり、それで上司から「仕事の手が遅くなってるよ」とか言ってくる理不尽。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
てめー等で仕事の邪魔をしてきておいて、それはないだろうがあああぁぁぁぁあああ!!!!
…………とまあ、そんなストレスが溜まって仕方がない日々を送っています。
これはとある日の仕事帰り。
ストレスを抱えて重くなった体をなんとか動かしています。
私は仕事からの帰り道として職場と自宅の間にある、商店街の中を歩くルートを使っています。
その理由ですが、商店街に一歩でも踏み入れてみるとすぐ分かります。
「ふわぁ……重くなった体に、癒しが染み渡るぅ」
商店街へ踏み入れると、とても刺激的な香りが出迎えてくれるからです。
その香りは、嗅ぐだけで幸せになれる香り。
沢山の砂糖と果物とクリームと火の通った小麦粉と甘く煮た小豆の香りと風味付けにほんのチョット混ぜられた洋酒の香り。
はい、甘味です。
この商店街で有名なお店として、和菓子屋と洋菓子屋があります。
そのお店で修行した菓子職人が全国的に大人気になって、それ以降「この商店街で生き残れるお菓子屋は一流」と風潮が出来上がり、閉じられて久しかったシャッターが新しいお菓子屋となって開けられていき、お菓子屋商店街になっていった歴史があります。
なので沢山のお菓子屋がこの商店街に集まり、鎬を削る激戦地となりました。
なので、ここを通るだけで日々のストレスの一部が溶けてしまう、私にとっての最強の癒しスポットなのです。
こんな場所を知ってしまえば、そりゃあ毎日通りますよ。 たまらんですわ。
どれだけストレスで体が重くなっても、帰り道に気が付けばここを通ってしまう魔力。
「うへへへへへ……」
お客を誘い込むために、店頭にずらっと並んだ甘味達。
どれもキラキラして見えて、商店街に充満する香りと併せて、ついついトリップしかけてしまう幸せの魔法。
でも最近はストレスを消しきれてないみたいで、私の体に不調が表れてきて悩んでます。
なんだか体の重さが増してきている気がするんです。
それに私は社会人で体の成長は止まっているはずなのに、会社の制服のサイズが合わなくなってきているように感じるのです。
これって絶対に超常現象に違いありません。
その証拠に、ほら。
毎日毎日仕事帰りにこの商店街を通ると、知らぬ間に私の手には取っ手のついた小さな可愛らしい絵柄の箱(だったり、日によっては素っ気ない茶色い紙袋)が握られているのです。
これは絶対に超常現象です。
だって、ほら。
この小さな箱の中から、人をダメにする恐ろしい気配が漂って来ているのを感じるんですもん。
これは絶対に超常現象です。 ホラー確定です。
それに気付いた日から、私は帰り道としてこの商店街を通るルートから避けて帰るようにしました。
でもなぜかダメなんです。
どれだけ頭で「行っちゃダメだ!」と自制しても、気が付けば商店街を通るルートに足がむくのです。
ホラーです。 私は呪われているんです。
だれか、私の呪いを祓って下さいませんか?
………………え? この呪いを解く方法を知っているんですか!?
……は? 体重計、ですか?
いえ。 私は呪われてしまった所為か、体重計を見るだけで強い恐怖を覚えてしまう体になったみたいで、しばらく使っていません。
使えば呪いが解ける? 絶対にイヤですよ! アレを見るだけでどれだけ怖い思いをするか、貴方は理解できないんです!