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ルポワド王家の子供たち  作者: ヴェルネt.t
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真実の愛

祝賀会場にアーレスが姿を見せると、会場は拍手に包まれる…

凛々しい面貌、鍛えられた体躯...

優雅さと気品を備えた貴公子は、煌びやかな衣服を身にまとい、その場にいる全ての貴婦人を虜にし、来賓の目を釘付けにした。

父親パルティアーノ公爵、その夫人であるシャリナの装いもたいそう艶やかで、宮廷貴族はシャリナの美しさに溜息を吐きながら賞賛の言葉を口にするのだった。

「私のために集まってくれたことを嬉しく思う。遠路より訪れた者もいることだろう。今日は祝賀の宴…存分に楽しんでいってくれ。」

アーレスは大広間の中心に立ち、笑顔で感謝の意を述べた。

公爵の後継者に相応しい堂々たる立ち振舞いに、その場にいる者が感服し、膝を折って首を垂れる...

公爵夫妻も笑みを浮かべ、目を細めて祝福した。


「立派に育ったよね...アーレスは。」

リオーネがしみじみと言った。

「お母様が来る前は、なんとなく印象が薄い感じだったけど...」

「うん、見違えるように明るくなった…ま、それは公爵閣下も同じだけどね。」

カインも隣で頷いて見せる…

昨今はフォルトとの関係も良好で、ブルームも含めて、家族の微笑ましい光景を目にすることが多くなった。

「良かった...親子がもし不仲だったら、セレンが居た堪れないもん…」

「だとしたら、俺がセレンを預かったさ。」

「...うん、セレンはどのみち「公爵」の庇護下に置かれたわけだ...」

リオーネはセレンティアに腕を回しながら口角を上げた。

「つくづく、公爵家に縁があるね...セレンは。」

セレンティアはリオーネとカインを見上げて微笑んだ。優しい二人に、自分はいつも護られてきたのだ…

「俺がアンペリエールのままだったとして、養女にするくらいはしたよ…父上もそうすることに肯定的だった。」

「あら、そうしたらセレンは、アンペリエールになったのに...」

「その方が良かったかな...」

「そうかも…」

ほどなくアーレスの挨拶が終わると、人々が彼の周りに集まった。.公爵夫妻とアーレスは、これから息つく暇もない忙しさが続くのだ…

「お腹すいた...」

足もとにいたバレルが小声で呟くと、シセルが苦笑を漏らした。

「さっき食べたばかりだぞ…」

「だっていい匂いがするんだもん…」

…一緒に行きましょうか、バレル様?

セレンティアが膝を折って囁きかける。

…私もお腹が空きました。

「父上、セレンと行ってもいい?」

見上げるバレルに、シセルは頷いた。セレンティアが一緒なら迷子になることはない。

「お願いできるかい、セレン?」

…もちろんです。

誠実で優しいバージニアス卿...

礼節をわきまえ、きちんと感謝の意を伝えるのだった。


エントランス広場に、たくさんの天幕が並んでいる。

天幕の中にはさまざまな料理やお菓子が並べられ、給仕がワインやエールを運んでいた。中央では奏者が楽器を演奏しており、吟遊詩人が祝福の詩を歌っていた。

「ぼくあれが食べたい!」

バレルは並べられたご馳走に目を輝かせた。グスターニュでは見たこともない華やかさ...一昨年の祝賀会のことはほとんど憶えておらず、宴に参加するのは初めて同然だった。

セレンティアはバレルの後をついて行き、お祭りを一緒に楽しんだ。外は開放的な雰囲気だったが、城内への長い列は続いている...夜を迎えるまで、来客が絶えることはないのだろう…

輪を器用に投げている大道芸を見つけると、バレルがセレンの手を引っ張った。バージニアスの子息だと気づくと、人々が最前列の席を譲る…おかげで、バレルとセレンティアは席に座り、お菓子を口にしながら見ることができた。

芸が終わると観客から拍手が起こる。バレルも大喜びで拍手を贈り、嬉しそうに手を振った。

芸人たちがお辞儀をしながら天幕に姿を消したので、二人も席を立ち上がった。

「…セレンティア」

客達が離れて行く中で、背後から呼ぶ声が聞こえる...セレンティアが振り返ると、そこにはソラン・ファルコンが立っていた。

…ソラン様!

もし声が出せていたら、バレルが仰天してしまっただろう。椅子から立ち上がった拍子に、持っていた焼き菓子を落としてしまった...

「ああ、驚かせてごめんよ。」

ソランは頭に手を当てながら謝った。

「正面から行けば良かったね...」

セレンティアは激しく首を横に振った。その様子を見て、バレルが目を丸くしている。

…お久しぶりです、ソラン様

セレンティアはきちんと立ってスカートの裾を掴んだ。膝を折り、挨拶をする。

「...誰?」

バレルが小声でセレンティアに尋ねた。

「あなたはバージニアス子爵のご令息...リオーネ殿の子ですね。」

ソランはその場に跪き、バレルと視線を合わせた。

「我が名はファルコン。オゴールの騎士です。」

「騎士?」

「母君とは騎士見習いの折、ともに修練を積みました。そして、お父上は私の教官でした。」

「教官?」

バレルは首を傾げた。

「先生?」

「そうです。」

「じゃあ、母上のおともだちなんだね?」

ソランは笑顔で頷いて見せた。澄んだ空色の瞳が父親そっくり...将来が楽しみな美男子だ。

「久しぶりだね、セレン。少し見ない間に見違えてしまった...とても美しいよ。」

ソランの賞賛に顔が熱くなる…今日のソランは瞳と同じ色の上着を着ていて、外套を羽織った姿が凛々しかった。

…ソラン様も素敵です。

「ありがとう。アーレス殿の足元にも及ばないけどね...」

二人は顔を見合わせながら笑った。手紙のこともあり、セレンティアはソランに会うのが不安だったが、会ってしまえば、いつも通りの気さくなソランだった。

「到着が遅れてしまった...これからアーレス殿のところに挨拶をしに行くんだ。先に会えたのは幸運。用が済んだらまた会おう。」

…はい。

「アーレス殿と公爵夫人に申し述べておくよ。」

ソランは明るい笑顔を浮かべると、踵を返して歩み去った。

「もう行こうよ…あっちで綱渡りが始まったよ。」

バレルが言った。

…そうですね、急ぎましょう。



「ファルコン、良くぞ参った。」

フォルトはシャリナの手を取りつつソランに歩み寄った。

公爵とはずっと以前に会ったきりだが、随分と角が取れたように思う。

「お招きに預かり光栄です。」

ソランは恭しく首を垂れた。

「ご子息のご婚約を、心よりお喜び申し上げます。」

「来てくれて嬉しいわ...ソラン。」

シャリナは微笑みながら目を細めた。

「立派になって...ユーリの指導を受けていた頃のあなたとは、印象がだいぶ違うわね...」

「十年以上経っていますので...」

懐かしい日々に想いを馳せる…少年であった頃、ユーリの厳しい訓練に幾度泣いたことだろう…

「ところで、セレンにはもう会った?」

「…えっ?」

「今夜の舞踏会にはセレンティアも出席させるつもりなの...私もアーレスも忙しいし、あの子の随行をお願いできるかしら?」

ソランは思わず声を上げた。シャリナからセレンの名が出るとは思わなかったからだ。

「...こ、光栄です。是非に…」

「良かった。..では、また後でお話ししましょう。」

「はっ」

ソランは赤面していた...恥ずかしさに顔を伏せる。シャリナは意図して発言をしたに違いない。

…良い傾向と捉えていいのか?

ソランは高揚感を抑えられなかった。セレンティアと手を取り合える...きちんと求婚する絶好の機会に巡り会えるのだ。


大広間で来賓や貴族達との挨拶を繰り返す…

目の端にカインやバージニアス一家の姿が見えていたが、彼らに近づくことすらままならない。途中でソランが現れたが、軽く会話を交わしただけで終わってしまった。

…去年とはえらい違いだ...

アーレスは溜息を吐いた。誕生日の祝福と婚約についての賛辞...もううんざりだった。

「休息せよ...」

「フォルトが耳を寄せて告げた。

「....そなたは舞踏会の主役ぞ...シャリナも下がらせるゆえ、あとは私に任せて休んでおれ...」

「ですが、それは父上も同じではありませんか...」

「私は別ぞ。」

フォルトは口を曲げて笑った。

「私と踊りたい者などおらぬし、そもそも、シャリナ以外とは踊るつもりもない。故に、頃合いを図って退室する…ブルームが寂しがっておるだろう。」

寂しがっているのはブルームよりも父のほうだとアーレスは思った。今日はセレンティアも出席しており、ブルームのお守りは侍女たちが務めているのだ。

…セレンはどこだろう?

アーレスはセレンティアを探した。今朝は早朝から時間に追われていて、セレンティアの姿さえも見ていなかった。

「お言葉に甘えさせていただきます。」

「うむ。」

アーレスはフォルトに一礼し、大広間を出て上階に向かって階段を上がった。

塔の螺旋階段までは誰も追いかけて来ない...見晴らしの良い窓辺に、パルティアーノの者だけが使用できる小部屋があるのだ。

部屋に着くと、置いてあった寝椅子にもたれ掛かり、窓の外を眺める…

公爵への挨拶を終えた人々が回廊へと出て、足速に別の場所へと歩いて行くのが見えた。目的地は庭園の傍にある誓いの間───そこにメルトワ王女、エレネーゼの肖像画が飾られているからだった。

「興味はそこにあるのだろう?」

アーレスは呟いた。

「当事者である私より先に、君たちが彼女を眼にすることになる…さあ、“未来の公爵夫人“はどんな印象かな?」

舞踏会までには、自ずと向き合わなくてはならないが、最後の最後まで抗うのも悪くない…

背当てを枕にして窓枠に肘を付くと、すぐに瞼が降りてきた。

束の間眠ろう…そう思った時だった。

「セレン…」

庭園の中央に立つセレンティアの姿が見えた。一人ではなく、体格の良い騎士と向かい合って談笑している…

「ソラン…」

それはソランだった。セレンティアの手を取り、指先にキスをし、背に腕を回して歩き始めた。揃って誓いの間へと向かう二人の姿は、まるで恋人同士のように親しげだった。

「ソランの想いに、セレンが気づいた?」

胸がざわつき、違和感を覚える…

ソランからの申し出をシャリナに伝えず、目を逸らしていた自分がいる...セレンティアがまだ子供であるからと、縁談を遠回しにしようとしていたのは事実だ...

「ソランの決意は固かった。だが、セレンは...」

大切に思ってきた養い子…

道端に咲く花のように、ひっそりと佇み、吹く風に揺れていた孤独な少女だった…

「君が私の手を離れる...そうなのかい?」

アーレスは問うた。

えも言われぬ喪失感に、心を抉られるような気分だった。


日暮になり、シュベール城に灯りが点される...

大広間が舞踏会の場となり、奏者による演奏が始まった。

貴族達が輪舞を舞い、数が次第に増えていく...中心には公爵夫妻の姿があり、フォルトが満面の笑顔でシャリナと踊っていた。

「公爵様は相変わらずダンスがお上手でいらっしゃる...」

「夫人も優雅でお美しい...」

二人の舞に、観衆から溜息が漏れる...フォルトの輪舞は完璧と謳われて久しいが、踊った相手はごく少数だった。他国の王族など、やむを得ない場合にしか踊らなかったからだ。

「皆の視線が集まっている...褒められておるぞ...シャリナ。」

フォルトが嬉しそうに耳打ちした。

「それは貴方のダンスによ。」

シャリナも微笑みを浮かべて答える。

「何を言う...そなたの美しさにぞ...」

「お世辞が上手...」

「私は世辞など言わぬ。」

そう言うと、フォルトはシャリナの腰を掴んで宙に浮かせた。しなやかに半回転させ、再び引き寄せる...見事な所作に周囲から感嘆の声が漏れた。

「この曲を最後にしよう。」

「まあ…もう?」l

「ブルーが寂しがっておろう...それに、早くそなたと二人きりになりたい。」

「でも...」

「アーレスが戻って来た...主役を譲ろう。」

シャリナが頭を巡らすと、アーレスが入り口に見えた。若い貴婦人達が湧き上がっている...これからちょっとした騒動になるに違いない。

曲が終わると、フォルトはアーレスを呼び寄せ、一同を沈めさせてから静かに告げた。

「今宵の舞踏会は、嫡子アーレスの婚約を祝す場として催すものだ。メルトワ王女エレネーゼ殿下を迎え入れ、両国の関係をより深めることは、我が国にとっての利益となろう…繁栄と貢献に賞賛あれ。ここに、婚約を正式に布告する。」

告げ終わると、会場から拍手が湧き上がった。皆が祝福の言葉を口にしすると、アーレスも右手を上げて感謝の意を現した。

拍手が止むと、演奏が再開される。

すぐさまアーレスの周りに貴婦人が殺到したが、アーレスは誘いを辞退し、背の高い貴婦人を手で招いて腰を折った。

「どうぞお手を...」

「一番乗り、光栄ですわ。」

リオーネはアーレスの右手を受け取った。

周囲に聞こえるように告げ、周囲に目配せをする...自分の出現に目を丸くしている貴婦人と貴族達を見るのは愉快そのもの…効果は絶大だった。

「目を細めているのはシセルだけだ...やっぱり不快なんじゃないか?」

「違うよ...あれで貴婦人を避けるつもりらしいの...不機嫌を装ってね。」

「ああ、なるほど...」

アーレスは納得した。さすがに夫人がいては誘いにくい様子だが、それでも貴婦人たちは熱い視線を送っている。

「私もリオンが相手を申し出てくれて助かった...感謝しているよ。」

「それを言うならカインも一役買ってる...断る理由がないから、あっちは大変そうだよ。」

リオンがチラと横を見る...アーレスも視線を送ると、カインが貴婦人に囲まれていた。

「アーレスが婚約しちゃったから、これからは独身公爵の弟に的が集中するでしょう。」

「...そうだね。」

アーレスは軽く溜息を吐くと、ゆっくり踊り始めた。リオーネと歩調を合わせ、ステップを踏む...

「君とダンスを踊るのは二度目だ。」

「一度目は十歳の時だった。」

「君に誘われて...戸惑ったのを憶えているよ...」

「寂しそうに見えたから、励まそうと思ったのよ。」

リオーネはアーレスの瞳を見つめた。

「貴方はいつも我慢していた...自分の主張を表に出さず、本心を隠して...」

「リオン...」

「あの時ほどではないけれど、今日のアーレスも同じに見える...誕生日も婚約も、貴方の心を躍らせてはいないのでしょう?」

アーレスは押し黙った。指摘は図星であったし、応酬する術がなかったからだ。

「隠したって無駄…私たちは幼馴染なんだもの...だから来たのよ、愚痴を聞くために。」

リオーネは悪戯っぽく笑って見せた。

懐妊中の身体を押してまで駆けつけてくれたリオーネ…いつも心を寄せてくれる頼もしい味方だ…

「君と結婚すれば良かった。」

アーレスも口角を上げて言った。

「私の一番の理解者だったのに...」

「あーそうかもね。」

リオーネはくるりと身を翻してから頷いた。

「...でも、理解者であるだけでは決め手に欠ける...それじゃあ保護者も同然だもの。」

「...そうかな?」

「そ、だから恋に発展しなかった。」

「なるほど...」

「ともあれ、婚約に対してあなたが前向きだとシセルが言っていた...それを聞いて安心したし、明るい兆しが見えるって感じた...」

「うん...」

「とりあえず、婚約おめでとうアーレス。細かい愚痴はまた後で。」

曲が終わり、リオーネは淑やかに膝を折って挨拶をした。

意外な組み合わせに目を丸めていた貴族たちが拍手を贈る...「水晶の騎士」と「炎の騎士」のダンスは極めて珍しい「珍事」だったものの、二人の見事な舞に、誰もが賞賛の言葉を贈ったのだった。


「素晴らしい...」

アーレスとリオーネを見つめながらソランが言った。

「リオーネ殿があんなに美しくおなりとは...予想もしていなかったことだ。」

セレンティアも無言で頷く...二人はとてもお似合いで、息もぴったり合っていた。アーレスから離れ、リオーネがバージニアス子爵とともに退場して行く...身重の妻をシセルが心配そうに見遣っていた。

「僕たちも踊ろうか...」

ソランがセレンティアに視線を移して言った。

…私、上手く踊れません。

セレンティアは首を横に振った。

「大丈夫さ、人が大勢集まってきたし、適当に真似していれば良いんだ。」

…でも

「曲が始まったよ。」

ソランに手を引かれ、セレンティアは輪の中に入った。初めての舞ダンス...ソランが動きを誘導する...

「上手だ、セレン。」

ソランに褒められ、セレンティアは頬を染めた。足がもつれそうになると、彼が身体を抱き上げる...ふわりと宙に浮き、優しく地に降ろされるのだった。

「嬉しいよ...君と一緒にいられることが...」

ソランは満面の笑みで告げた。

「このまま君を連れて行きたい...ファルコ城に...」

…ソラン様

「私の妻になって欲しい。.愛しいセレン...僕は君に夢中だ…」

驚きのあまりに、セレンティアの足が激しくもつれた。すかさずソランが抱き止め引き寄せる...二人の身体が密着した。

「君はまだ若い...戸惑っているだろうね...でも、私は本気なんだ...」

見つめるセレンティアの瑠璃色の瞳が潤んでいた。清く済んだ眼差しが、愛おしくて堪らなかった。

「愛しているよ、セレンティア。」

ソランの告白に、セレンティアは心を打たれた。出生も名前も解らない自分を、こんなにも慈しみ、望んでくれる人がいる...

…良いのですか?

セレンティアは尋ねた。

…一生、ソラン様のお名前を呼ばなくても構いませんか?

「セレン...」

ソランは舞を止めた。真顔になり、顔を寄せる…

「声は聞こえているよ...私の耳にはね...」

…ソラン様。

「...妻になってくれるかい?」

セレンティアは瞼を閉じ、再びソランを見上げた。

…はい、喜んで。

セレンティアは頷いた。精一杯の答えだった。



「真昼の舞踏会」が「夜会」へと変わる───

宴は夜通し続いていたが、主役のアーレスは逃走し、カインとともに、小広間でひっそりエールを飲んでいた。

貴婦人の相手を一手に引き受けたカインは疲れ果て、ぐったりしながら酒を口にしている...一方のアーレスも、リオーネが去った後は何人を相手にしたのかわからない状態だった。

「ダンスはもう懲り懲りだ...当分やらないぞ。」

カインは断言した。

「マリアナ以外とは…」

「おいおい...問題発言だぞ。」

アーレスが嗜める。

「リュシアンがいなければ問題ないさ。」

「それもそうか...」

適当に答える...カインの気持ちは理解できた。女性を相手に美辞麗句を口にするのは、想像以上に大変なものなのだ。

「失礼します。」

外で告げ役が声をかける。

「サー・ファルコンが、お目通りをと願い出ております。」

「...ソラン⁉︎」

アーレスは声を上げた。

昼間に接触しようとしたものの、居所が掴めず、今夜はもう諦めていたところだった。

「通してくれ。」

アーレスが命じると扉が開き、ソランが姿を現した。二人を前に、膝を折って床に着ける。

「ソラン!」

カインが先に立ち上がり、手を広げて歩み寄った。

「久しぶりだなぁ...なんだ、堅苦しい挨拶なんか必要ないぞ!」

「まったくだ...公の場でもあるまいに...」

アーレスも右手を差し伸べつつ、立つ様に促す。

「…は。」

ソランは立ち上がり、誘われるがまま、テーブルの席に着いた。カインと並んで座り、アーレスと向かい合う。

「ようやく会えた...昼間、セレンと一緒に居ただろう?」

「つい先程まで一緒でした...部屋まで送り届けたところです。」

..,ついさっきまで?

カインは目を丸めた。今は結構な夜更け…通常ならセレンティアはとうに就寝しているはずだ...

「母上がお許しに?」

アーレスも眉を寄せる...そうでなければあり得ないことだ。

「公爵夫人に随行をと依頼されたのです...」

「セレンの随行を...母上が?」

ますます怪訝な様子のアーレスに、ソランは再び立ち上がり、背筋を伸ばして口火を切った。

「アーレス殿、実は先の出会い以来、私は度々セレンティアに恋文を送っていました。彼女をどうしても妻としたい...その想いが募り、居ても立っても居られなかったのです。」

...ええっ⁉︎

声を上げなかったのは奇跡的...あまりの驚きに、カインの酔いは吹き飛んでしまった。

「恋文?」

アーレスは反問した。

「私は何も聞いていない...」

「セレンが戸惑い困惑するのは当然です。...礼節で言えば、求婚はアーレス殿と夫人の許可を得るのが道理...ですが、セレンティア嬢の気持ちが傾かねば強制になる...「強引」と捉えられるのだけは避けたかった。」

「ソラン...」

「セレンティアは夫人に相談したと…自分に対する「縁談」の話を告げられ、その思いに至った。」

…知っていて黙っていたのか...

カインはシャリナの心情を察した。不承ながらメルトワの王女との婚約を決めたアーレスに、更なる心の負担を荷したくなかったのだろう..,

「夫人は私をお招き下さり、お尋ねになりました。セレンへの愛は真実かと...」

ソランの顔が紅潮する。アーレスを見つめ、真剣な表情で告げた。

「私はセレンティアを愛しています...この世界の誰よりも。」

再び床に膝をつき、首を垂れた。

「公爵閣下よりのご推薦も賜りました。夫人のご同意も得ております...どうかセレンティアとの結婚許可を...アーレス殿。」

…結婚?

アーレスは呆然とソランを見つめた。考えがまとまらない...セレンティアの顔ばかりが浮かんで、答えることができなかった。

「なあ、ソラン...」

カインは言った。

「その...セレンの返事はどうだったんだ?」

ソランはカインを見上げた。

「喜んで…と」

「そうか...」

カインは頷き、視線をアーレスに向けて答えを待った。表情から察するに、決して喜んではいない様子だ…


…セレンの縁談を進めると母上に告げられた時も、私は違和感を感じた...ソランがセレンに好意を抱き、それを告白した時もそうだった...

それでも違和感の正体がわからない...ソランが望み、セレンティアも承諾したのなら、何も異存はないはず….回答を躊躇う理由がどこにある?

「セレンの気持ちが一番だ...」

アーレスはかすれた声で言った。

「あの子が決めた相手なら、私に異論はないよ。」

その答えに、ソランが瞳を輝かせた。

「感謝の至り!」



嬉々として笑みを浮かべるソランと

苦渋の表情を浮かべるアーレス...

カインは人生の明暗を感じた。

「不実の愛」を否定したアーレスに、それ以外の選択肢はなかったのだ。



結婚が決まったセレンティアのため、シャリナはより多くの物を持たせようと贈り物選びに忙しかった。

ファルコンには召使い以外の女性が居らず、リランやソランが気付かない不便に見舞われるに違いない。母親代わりの自分がしっかりしなければ、セレンティアを惨めにしてしまうことになるのだ…

「婚礼衣装はなんとか間に合いそうよ...」

ブルームを抱き窓辺に立っているフォルトに、シャリナは言った。

「式には行ってあげられないけれど...」

「それは無理からぬことぞ...ファルコ城は遠すぎる。」

渋面のフォルトに、シャリナは頷いてみせた。一月後にはメルトワから王女が輿入れする...婚儀はその5日後に執り行われる予定であり、その準備も始めなくてはならなかった。

「騒々しい方でないと良いが...」

フォルトの杞憂をよそに、庭園ではアーレスとセレンティアが並んで歩いていた。

…この光景が見られるのも、あと数日の間のことだ。

幸せそうな二人に目を眇め、フォルトは小さく溜息を漏らした。

かつての自分を彷彿とさせる様だった。

出発の日───

セレンは涙を浮かべてアーレスに最後の挨拶をした。

多くの視線が見つめる中、アーレスが養い子を抱きしめる...

「幸せになるんだよ。」

…アーレス様も。

身を切る思いも、それを表に出すわけにはいかない。別れの言葉も寂しさも、すでに昨夜に言い尽くしていた。たくさんの尊い思い出とともに...

…さようなら、アーレス様。

セレンティアはシュベール城を後にした。

晩秋を迎えた、晴天の朝のことだった。




「カイン様…」

扉を叩く声に、カインは振り返った。

声の主は従者のパトラだ.。

「入っていいぞ。」

返事をすると扉が開く…だが、入って来たのはパトラではなく、アーレスだった。

「なんだ...アーレスっておい、ずぶ濡れじゃないか!」

カインは驚いて言った。

「..どうしたんだ。」

質問には答えず、アーレスは無言で歩み寄ると、カインの肩を掴んで言った。

「婚約は反故になった...」

「...なに?」

「さっき陛下から告げられたんだ。メルトワ側が王女との婚約破棄を願い出たと...」

「..はあっ⁉︎」

「結婚は無効...私はもう自由の身だ。」

「アーレス...」

カインはその時気づいた。アーレスが口角を上げながら涙を流していることに...

「結婚なんてどうでもいい...反故の理由なんて、私には関心がない...」

「そんな姿...君らしくないぞ...」

静かに言葉をかけるカインに、アーレスは笑った。

「私は愚かだ...君を謗る資格などなかった…今頃になって気づくなんて...何を求めていたかということを...」

「いったい何のこと──」

言いかけて、押し黙った。

…まさか。

「私はセレンを愛していた...本当はあの子とともにいたかったんだ。」

「アーレス…」

「もう遅い…何もかも…」

自分を卑下し、涙を流すアーレス…

…失ってこそ気づくこともある..

カインは同情した。

アーレスは知ってしまったのだ。

真実の愛を──




ルポワド王家の子供たち

〜終〜


























































































































































お読み下さり、ありがとうございました。

次回作のつなぎとして描いたエピソード…一応の完結です。

「月光の騎士物語」を並列とし、一部の物語が進みました。

是非、月光の騎士物語も併せてお読みください。

では、また☺️


ヴェルネt.t (ヴェルネス)


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